異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

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改稿版

16.宿と奴隷

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 しかし、この奴隷を満載に乗せた馬車をどうしようかな。
 とりあえず、馬車はいらんだろ。
 馬も死んでしまっているし、動かせないのなら邪魔なだけだ。
 牢屋のように鉄格子の嵌った荷台の扉を開け、中から奴隷を全員下ろす。
 改めて見ると、本当にひどい格好だな。
 女の子もいるというのに、ほとんど裸みたいな格好だ。
 
「この中に、戦える人はいる?」

「「「………………」」」

 5人ほどの人間が無言で手をあげる。
 4人は男、1人は女だ。
 戦力になるのは5人か。
 戦えるといってもどの程度戦えるのかが分からないから、一度実力を見てみる必要もあるしな。
 
「読み書きができる人は?」

「「「………………」」」

 全員が無言で手をあげた。
 この識字率はやはり少しおかしい。
 奴隷商人は俺に護衛でもしてもらう気なのか、胡椒の袋の入った懐を押さえて卑屈な笑みを浮かべている。
 執着されないうちにこの場所を離れたほうがよさそうだ。

「全員、手を繋いで」

「「「???」」」

 奴隷たちは意味が分からないという顔をしているが、命令に従わなかったせいで酷い目にあった記憶でもあるのかすぐに慌てたような様子で手を繋ぐ。
 俺も一番端の奴隷と手を繋ぎ、数珠繋ぎになる。
 俺は全員を指定して町へと転移した。
 首に付いていた首輪は邪魔だったので除外した。
 今頃街道に取り残された馬車の隣あたりに転がっていることだろう。

「なっ、なにこれ!?」

「一瞬で、見知らぬ場所に……」

「これは、魔法?いえ、こんな魔法は……」

 さすがに全員無言というわけにはいかなかった。
 時空間魔法の使い手は少ないからね。
 転移の使える術者ともなれば、数えるほどしかいない可能性もある。

「みんな落ち着いて、ご主人様が困っておられるわ!」

「「「!!!………………」」」

 ひとりの女の子が奴隷たちをまとめる。
 とても綺麗な女の子だ。
 くすんでしまった金の髪や薄汚れた肌をしていても、その青い瞳だけはまるで大空のように澄んでいる。
 人生のどん底にあっても、絶対に諦めないという気概が伝わってくるようだ。
 絶望して簡単に諦めようとしてしまった俺には、その瞳はあまりに眩しい。
 
「君の名前は?」

「奴隷に名前はありません」

「奴隷になる前に呼ばれていた名前は?」

「ミラベルと、そう呼ばれておりました」

「わかった。ミラベル、君が奴隷を束ねる長だ。今後俺のいないときは奴隷のみんなはミラベルの命令に従ってくれ」

「「「かしこまりました」」」

 とにかくみんな風呂に入れて、服を着替えさせないとな。
 俺は1軒の高級旅館に入っていく。
 しかし後ろに奴隷たちが付いてきていないことに気付く。
 俺は慌てて外に戻った。

「ちょっと、なんで付いてこないんだよ」

「ご、ご主人様、私どもはこのような高級な宿には入ることはできません。汚してしまいますし、宿の従業員も困ると思います。馬房の隅をお貸しいただければ……」

「いや、宿は大丈夫だって。従業員も俺とは知らない仲じゃないから。そんなことよりもみんなを一度風呂に入れて服を着替えさせないと」

「お、お風呂なんてそんな、奴隷にはそのようなものは。井戸で水でも浴びさせていただければ十分でございます」

「命令だ。付いて来い」

「か、かしこまりました」

 俺は面倒くさくなって奴隷たちに命令した。
 いちいちこんな問答をしていたんじゃ日が暮れる。
 宿のこととか、関係ないと思うんだけどな。
 なにせこの宿のオーナーは俺なのだし。
 




「旦那様、この者たちは……」

「奴隷だ。さっき買った。全員読み書きができるみたいだし、半数ほどは戦えるみたいだ」

「左様でございますか。では、この宿で使いますか?」

「いや、そろそろ胡椒を売るための専用の商会を作ろうと思っていたところだ。そちらの従業員として使うから、そのように教育してくれ」

「かしこまりました」

 50を超えたばかりの老執事は踵を返し、執務室を出て行く。
 彼はロドリゲスといって、この宿の支配人兼俺の補佐をしてくれている。
 元はとある名のある貴族の侍従長をしていたようなのだけれど、跡目争いに巻き込まれて暗殺されそうになって逃げてきたみたいだ。
 商業ギルドで仕事を探していたところを偶然見つけてスカウトしたんだ。
 この宿を買ったばかりだったから支配人を探していた俺には天の采配に思えた。
 元はこの宿は高級とはとても言えないようなボロ旅館だった。
 歴史だけはある落ちぶれた宿だ。
 そんな宿を買って時間を巻き戻せばあら不思議、往年の高級旅館が復活。
 風呂などは機能性の著しく低い造りだったのでかなりリフォームは必要だったが、そこそこいい雰囲気の旅館になった。
 この町に来た貴族や豪商は必ずこの宿に泊まる、そう言われるくらいには繁盛している。
 金貨が貯まっちゃって困るね。

「さてと、奴隷のみんなが風呂から出るまでに料理の指示でも出しておくかな」

 全員ガリガリに痩せてはいたが、飢餓状態とまではいかないだろう。
 そんな状態では売り物にならないからね。
 お粥くらいなら食べられるだろうか。
 俺は厨房に向かい、料理人に指示を出した。
 あとはご飯の前に、風呂上りのフルーツ牛乳でも用意してあげようかな。
 あれの良さは異世界人でも理解できるはずだ。

 
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