異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

文字の大きさ
25 / 31
改稿版

22.亀のダンジョン

しおりを挟む
 ケイネスのダンジョンは別名、亀のダンジョンと呼ばれている。
 亀のように防御力の高い魔物が多く出現するからだ。
 実際亀型の魔物も出るし。
 時空間魔法との相性も悪くない。
 どれだけ硬い装甲でも空間属性が付与された銃弾なら貫ける。
 地竜のように強い魔法防御を持つ特殊な魔物でもない限りは、魔石の収支もかなりのプラスになるのではないだろうか。
 俺達は第1層に足を踏み入れる。
 中は意外にも暗くない。
 壁や天井が薄っすらと発光しているようだ。
 不思議なところだな。
 1層は人が多く、あまり魔物に出くわさない。
 ギルドにあった資料によれば、亀のダンジョン第1層には普通にゴブリンなどの弱い魔物が出るようだ。
 ゴブリンは油断せず1対1に持ち込めば誰でも倒せる魔物だ。
 食うに困ってダンジョンに潜っている人たちによって、狩り尽くされてしまっているのかもしれない。
 外にもゴブリンはいるが、狭いダンジョン内ならばたくさんのゴブリンに囲まれる心配は無いし、運がよければ宝箱も発見することができる。
 近くにダンジョンがあったらそっちに行くのは当然の話だ。
 見習い冒険者などもダンジョンに憧れてそっちに行ってしまうから、ダンジョンの近くではゴブリンが増えてしまって困っているらしいとギルドの受付嬢から聞いたことがある。
 そんな状況とは真逆で、ここはゴブリン1匹出ないな。

「第1層なんてどこもこんなもんですよ」

「そうなんだ」

 ダンジョンというのは深い層ほど魔物が強くなる傾向にある。
 そのために一番魔物の弱い第1層は、見習い冒険者から一般人、果ては食い詰めた浮浪者までもが殺到するので魔物が少なくなるのだとアレックスは語る。
 俺達は1匹の魔物とも戦うことなく第2層へとたどり着いた。

「ここからが本番ですからな。気を引き締めて行きましょう」

「了解」

 2層からはゴブリンの上位種であるホブゴブリンが出る。
 ゴブリンよりも脅威度が高いので、一般人はここから下にはあまり行かない。
 これからは普通に魔物に出くわすだろう。
 俺はアイテムボックスから拳銃を取り出し、サプレッサーを取り付ける。

「罠の発見は俺に任せてください」

 アレックスは罠を見つけるのが得意なようなので任せることにする。
 武器も短剣だし、斥候職みたいなものなのかな。
 RPGとかで言う盗賊。
 鍵開けとかもできるのかな。
 まあ宝箱に鍵が掛かっていることは無いそうなので必要ないけれど。

「と、早速ホブゴブリンですね」

「この層はみんなに任せるよ」

「「「了解です」」」

 ゴブリンやホブゴブリンなんかの小魔石の魔物は魔石収支が悪いんだよね。
 銃は狭い場所で使うと外したときに跳弾したりして危ないし。
 使うのならワームホールを使って外れないようにしたい。
 そんなことを言っているから射撃がちっとも上手くならないのかもしれないけど。
 アルベルトたちはホブゴブリン相手に囲んで滅多打ちにする。
 連携の確認をしているようだが、ホブゴブリンでは相手が弱すぎてあまり意味が無かったようだ。
 魔石を取って次に行こう。
 ホブゴブリンの持っていた粗末な武器は鉄くずとして売れるようだが、面倒だから放っておく。
 
「あ、あの!!」

 なんだか遠巻きに見ていたと思われる子供に話しかけられる。
 2層に子供が来るなんて危ないな。
 よほど金に困っているのだろうか。
 子供は2人組。
 ひとりは10歳そこらに見える女の子。
 もうひとりは5、6歳くらいに見える男の子だ。
 おそらく兄弟なのだろう。
 2人はどことなく似通った顔立ちをしている。
 しかし着ているものは酷く汚れており、ツギハギだらけ。
 一目で困窮していることが見て取れる。
 困ったな、子供は苦手なんだよ。

「なんだ?」

「ひぇっ」

「ご主人様、なんで子供に接するときだけそんな怖い声になっちゃうんですか。老人にかける声は優しいのに」

 見かねたニーナが子供たちの頭を撫でながら、俺にそんなことを言い放つ。
 そんなことは、ないはず。
 俺なりに優しい声を心がけているんだ。
 あまり大きな声にならないように、びっくりさせないように抑揚を抑えて。

「それが怖いってんですよ。大丈夫ですからね。ご主人様は本当はすごく優しいお方なんだよ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ、確かにあの顔は何人か殺ってる顔ですが、それは私たちもですからね」

「ひぇっ」

「お前も怖がらせてどうする」

 バシンッとニーナの頭をアレックスが叩く。
 意外にも、子供たちが一番警戒心を持たなかったのはクラークだった。

「おじさんは、とても大きいですね」

「ああ、俺はおじさんというよりもおじいさんという歳なんだがな……」

 身体が大きくて威圧感のあるクラークだが、懐に入ればそれは守られているという安心感となるのか。

「それでお前たち、なにか儂らに用があったんじゃなかったのか?」

 どんどん話がそれていくのを苦く思ったのか、アルベルトが子供たちに尋ねる。
 
「あ、あの、ホブゴブリンの持っていた武器を、拾わないならいただけないかと思いまして……」

 なるほど、2層でホブゴブリンの武器を集めているのか。
 しかし重たい武器を持って帰ってもそんなに金になるとは思えないがな。
 子供に持てる量なんてたかが知れてる。
 言ってしまえばハイエナのような行為だから、血の気の多い冒険者の中には良く思わない奴らもいるだろう。
 そういった冒険者とトラブルになる可能性もある。
 単純に子供だけでダンジョンにいることも危険だしな。
 別に武器を拾うくらい俺はなんとも思わないが、このままでいいとも思えないな。
 とりあえずアルベルトたちの倒したホブゴブリンの武器を拾わせて、何か事情があるのか聞いてみるか。

「構わない。魔石以外ならなんでも拾ってくれ」

「ありがとうございます」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...