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改稿版
23.亀のダンジョン第2層
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亀のダンジョン第2層はなかなかに魔物の密度が濃い。
それはきっとこの層の魔物を相手にするような人間が限られているからだろう。
オークを倒せるようなDランク以上の冒険者はもっと深層に向かうし、冒険者になったばかりの見習い冒険者にはホブゴブリンは少々手ごわい。
そろそろ見習いを脱し、Dランクに上がる間際という限られた冒険者だけがこの層を狩場としている。
ダンジョンの入り口には転移クリスタルという大きな宝石の塊みたいなものがあり、一度到達したことのある層の入り口のクリスタルまで転移して移動することが可能だ。
そのためにこの層を踏破した高ランクの冒険者は、あまり稼げないこの層を飛ばしてもっと下の層へと直行してしまう。
高ランク冒険者が通り道の魔物を倒していくことも無いので、この層の魔物はあまり狩られていないのだ。
「勘を取り戻すのには丁度いいですな」
アルベルトたちは出てくるゴブリンやホブゴブリンをなます切りにしていく。
みんな強いな。
寄る年波以外には負けたことが無いと豪語するだけはある。
ホブゴブリンの持っていた鉄の武器をちょこちょこと拾い集めているのは、さきほど出会った幼い兄弟だ。
お姉ちゃんのルカは11歳。
弟のムタは7歳だった。
実年齢よりも幼く見えるのは栄養が足りていないからか。
彼女らは懸命にホブゴブリンの持っていた鉄器を拾い集める。
こんなに魔物の濃い層に来て危なくないのかと思って聞いてみたのだが、どうやら彼女らは今日初めてこの層に来たようだった。
普段は上の層で見習い冒険者の荷物持ちなどをして小銭を稼いでいたが、1層をうろうろしているようなやつらが金を弾んでくれるはずもない。
すずめの涙よりも少しの金しか稼げないので、仕方が無く2層に来たのだという。
子供だけで2層に来るなんて自殺行為だとニーナに叱られていたが、彼女らには止むに止まれない理由があった。
なんと彼らのお母さんが病気にかかってしまったというではないか。
よくあることと侮る無かれ。
貧しいながらも兄弟を必死に育てていたたった一人の肉親が病に倒れたのだ。
彼女らにとっては死活問題だ。
それまで母親は酒を造る工場で働いていたが、小さな酒蔵の下働きなんて貯蓄ができるほどの給料はもらっていない。
また病の人を雇っておけるほどの余裕も無い。
母親は酒蔵を解雇となり、病で次の職も探すことはできない。
最近ではあまり起き上がることもできないので、幼い姉は弟を連れてダンジョンで働きだしたというわけだ。
金を貯めて薬を買い、母の病気を治す。
そう意気込んで。
ダンジョンには浮浪者であろうと冒険者登録さえすれば入ることができる。
年齢制限もない。
幼い子供が働いて金を稼ぐには、こうするしかなかったと語るルカちゃんの顔が涙で歪んで見えた。
泣いているのは俺だけじゃなかった。
気がつけばアルベルトたちも全員泣いている。
「目から汗が出やがります」
「歳取ると、涙腺が緩んでしかたないねえ」
涙腺も巻き戻しているはずなんだけどな。
おかしいな。
俺はそもそもまだピチピチの20代だ。
2人の境遇に浅はかにも同情してしまう。
この世界にはこんなことはよくあることだ。
いや、あちらの世界でもだ。
しかし、関わってしまったからには何もせずにバイバイとはいかない。
明日食う飯が不味くなる。
自己満足としか言いようが無いな。
「これから、お前たちの家に行く」
「え?ま、待って下さい!何か私たちの行動が気に障りましたでしょうか?」
「い、いや、そうではなく……」
「弟と母だけは許してください。私はどうなっても構いませんから!!」
涙を流して土下座するルカちゃん。
なんでこうなるんだ。
俺はただこの子たちの母親の様子を見て何か力になれるかもしれないと思っただけなのに。
「だから声が怖いんですよ。顔も引きつってますし。いつも老人に話しかけるときのような朗らかな声で話しかけないと」
「や、やってるだろ」
「いや、極限の怒りを堪えた殺人鬼の声にしか聞こえませんよ」
どうなってるんだ俺の声帯。
ルカちゃんはニーナが抱きとめて頭を撫でることで泣き止んだ。
やっぱ元おばあさんの包容力はすごいな。
子供は生んだことがないということだったが、なんだか慣れているような気がする。
「団員の子供とかをあやした経験があるだけですよ。ばばあはそんなん得意なんですよ」
「クラークのほうが子供には懐かれるんですけどね」
「不思議とそうなります」
まあ分からんでもない。
クラークの近くにいると、まるで大きな木の下にいるような気分になるときがある。
あれが大人の包容力というやつか。
「あの、勘違いしちゃってすみませんでした。それで、家に行くとはどういうことなのでしょう」
「ああ、お前たちの母親の病気がどんなものかと思ってな。俺の持っている薬でも治せるかもしれないし」
「本当ですか!?はぅっ、でもわた、私、お金が……。私のような貧相な身体でもよければ……」
なにを言っているんだこの子は。
俺はロリ即斬派なのでもちろんそんなものを受け取れない。
しかし同情したからといって、無報酬で助けるのも警戒されるか。
人助けだとか言って近寄ってくる人間にろくな人間はいないからな。
「いや、そんなもんはいらん。だが……」
「はぅっ、す、すみません。それ以外に払えるものは……。は、母の身体は勘弁してあげてください。死んじゃいます」
「いや、それもいらん。だから……」
「でもでも、それでは私たちに払えるものなんて……。はっ、弟もダメです!!」
俺は溜息をひとつ吐き出す。
この子人の話を最後まで聞いてくれない。
「うるさいぞ。とにかくお前の家に行く。話はそれからだ」
俺は面倒くさくなり、そう言い放った。
それはきっとこの層の魔物を相手にするような人間が限られているからだろう。
オークを倒せるようなDランク以上の冒険者はもっと深層に向かうし、冒険者になったばかりの見習い冒険者にはホブゴブリンは少々手ごわい。
そろそろ見習いを脱し、Dランクに上がる間際という限られた冒険者だけがこの層を狩場としている。
ダンジョンの入り口には転移クリスタルという大きな宝石の塊みたいなものがあり、一度到達したことのある層の入り口のクリスタルまで転移して移動することが可能だ。
そのためにこの層を踏破した高ランクの冒険者は、あまり稼げないこの層を飛ばしてもっと下の層へと直行してしまう。
高ランク冒険者が通り道の魔物を倒していくことも無いので、この層の魔物はあまり狩られていないのだ。
「勘を取り戻すのには丁度いいですな」
アルベルトたちは出てくるゴブリンやホブゴブリンをなます切りにしていく。
みんな強いな。
寄る年波以外には負けたことが無いと豪語するだけはある。
ホブゴブリンの持っていた鉄の武器をちょこちょこと拾い集めているのは、さきほど出会った幼い兄弟だ。
お姉ちゃんのルカは11歳。
弟のムタは7歳だった。
実年齢よりも幼く見えるのは栄養が足りていないからか。
彼女らは懸命にホブゴブリンの持っていた鉄器を拾い集める。
こんなに魔物の濃い層に来て危なくないのかと思って聞いてみたのだが、どうやら彼女らは今日初めてこの層に来たようだった。
普段は上の層で見習い冒険者の荷物持ちなどをして小銭を稼いでいたが、1層をうろうろしているようなやつらが金を弾んでくれるはずもない。
すずめの涙よりも少しの金しか稼げないので、仕方が無く2層に来たのだという。
子供だけで2層に来るなんて自殺行為だとニーナに叱られていたが、彼女らには止むに止まれない理由があった。
なんと彼らのお母さんが病気にかかってしまったというではないか。
よくあることと侮る無かれ。
貧しいながらも兄弟を必死に育てていたたった一人の肉親が病に倒れたのだ。
彼女らにとっては死活問題だ。
それまで母親は酒を造る工場で働いていたが、小さな酒蔵の下働きなんて貯蓄ができるほどの給料はもらっていない。
また病の人を雇っておけるほどの余裕も無い。
母親は酒蔵を解雇となり、病で次の職も探すことはできない。
最近ではあまり起き上がることもできないので、幼い姉は弟を連れてダンジョンで働きだしたというわけだ。
金を貯めて薬を買い、母の病気を治す。
そう意気込んで。
ダンジョンには浮浪者であろうと冒険者登録さえすれば入ることができる。
年齢制限もない。
幼い子供が働いて金を稼ぐには、こうするしかなかったと語るルカちゃんの顔が涙で歪んで見えた。
泣いているのは俺だけじゃなかった。
気がつけばアルベルトたちも全員泣いている。
「目から汗が出やがります」
「歳取ると、涙腺が緩んでしかたないねえ」
涙腺も巻き戻しているはずなんだけどな。
おかしいな。
俺はそもそもまだピチピチの20代だ。
2人の境遇に浅はかにも同情してしまう。
この世界にはこんなことはよくあることだ。
いや、あちらの世界でもだ。
しかし、関わってしまったからには何もせずにバイバイとはいかない。
明日食う飯が不味くなる。
自己満足としか言いようが無いな。
「これから、お前たちの家に行く」
「え?ま、待って下さい!何か私たちの行動が気に障りましたでしょうか?」
「い、いや、そうではなく……」
「弟と母だけは許してください。私はどうなっても構いませんから!!」
涙を流して土下座するルカちゃん。
なんでこうなるんだ。
俺はただこの子たちの母親の様子を見て何か力になれるかもしれないと思っただけなのに。
「だから声が怖いんですよ。顔も引きつってますし。いつも老人に話しかけるときのような朗らかな声で話しかけないと」
「や、やってるだろ」
「いや、極限の怒りを堪えた殺人鬼の声にしか聞こえませんよ」
どうなってるんだ俺の声帯。
ルカちゃんはニーナが抱きとめて頭を撫でることで泣き止んだ。
やっぱ元おばあさんの包容力はすごいな。
子供は生んだことがないということだったが、なんだか慣れているような気がする。
「団員の子供とかをあやした経験があるだけですよ。ばばあはそんなん得意なんですよ」
「クラークのほうが子供には懐かれるんですけどね」
「不思議とそうなります」
まあ分からんでもない。
クラークの近くにいると、まるで大きな木の下にいるような気分になるときがある。
あれが大人の包容力というやつか。
「あの、勘違いしちゃってすみませんでした。それで、家に行くとはどういうことなのでしょう」
「ああ、お前たちの母親の病気がどんなものかと思ってな。俺の持っている薬でも治せるかもしれないし」
「本当ですか!?はぅっ、でもわた、私、お金が……。私のような貧相な身体でもよければ……」
なにを言っているんだこの子は。
俺はロリ即斬派なのでもちろんそんなものを受け取れない。
しかし同情したからといって、無報酬で助けるのも警戒されるか。
人助けだとか言って近寄ってくる人間にろくな人間はいないからな。
「いや、そんなもんはいらん。だが……」
「はぅっ、す、すみません。それ以外に払えるものは……。は、母の身体は勘弁してあげてください。死んじゃいます」
「いや、それもいらん。だから……」
「でもでも、それでは私たちに払えるものなんて……。はっ、弟もダメです!!」
俺は溜息をひとつ吐き出す。
この子人の話を最後まで聞いてくれない。
「うるさいぞ。とにかくお前の家に行く。話はそれからだ」
俺は面倒くさくなり、そう言い放った。
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