異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

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改稿版

24.病気の母親

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 俺達は亀のダンジョン第2層を抜け、第3層の入り口にある転移クリスタルに触れる。
 クリスタルの光が俺達の身体に吸い込まれて消えた。
 これでこの階層には、入り口のクリスタルから転移できるようになったはずだ。
 もう一度クリスタルに触れ、階層を口にする。

「転移、第1層」

 俺達7人は光に包まれる。
 次の瞬間にはもう第1層の入り口にあるクリスタルの前だった。
 
「ほわぁ、不思議です」

 ルカちゃんたちは今まで第1層で荷物持ちをしていたために、転移クリスタルを使ったことが無かったようだ。
 目を見開いて驚きをあらわにしている。
 2人とも口が開きっぱなしになってしまっているぞ。

「行くぞ」

「は、はい……」

 俺が声をかけるとルカちゃんとムタ君の表情は一転、絶望の淵に立たされたような顔に変わる。
 俺が何をしたっていうんだ。
 
「まあまあ2人とも、そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ご主人様はそんなに無慈悲な方じゃないわ」

「は、はぁ……」

 ルカちゃんの顔には本当にそうなのかな、という不信が現れていた。
 このやりとりもすでに何回目か分からないからな。
 ちょっとやそっとじゃ騙されないという固い意思を感じる。
 俺は溜息をひとつ吐き出した。
 子供っていうのは難しいものだ。
 甘いものでも食べさせて機嫌を取るか。
 アイテムボックスの中には異世界で買ってきた様々な甘味が入っている。
 その中から俺は、女子高生ばかりの雑貨屋で赤面しながら買ってきた可愛い飴玉を取り出す。
 ポップなデザインのガラス瓶に入ったおしゃれなやつだ。
 たぶん味は袋入りの飴のほうが美味いとは思うのだが、女子供はこんなんが大好きだろう。

「わ、わぁ。キレイだね、お姉ちゃん」

「そ、それ、お薬ですか?」

「いや、これはただの菓子だ。食べろ」

「い、いいんですか?」

「ああ」

 ガラス瓶の蓋をキュッと捻って開けると、甘ったるい飴の香りがあふれ出す。
 膝を折り、子供の目線に合わせてガラス瓶を差し出す。
 ルカちゃんは恐る恐るといった様子でガラス瓶の中に手を入れる。
 赤と緑の2つの飴玉を取り出し、弟に赤を与えた。

「僕、緑がいい」

「しょうがないなぁ」

 そう言いながらムタ君と飴玉を交換してあげるルカちゃんは、幼いながらも立派なお姉ちゃんだった。

「噛まずにゆっくり口の中で溶かすんだ」

「「はい!」」

 2人は飴玉を口に放り込み、幸せそうな顔で舐める。
 少しは俺のことを見直してくれただろうか。

「美味しいです!」

「美味しい!!」

「そうか」

 俺も自然と笑顔になってしまう。
 今の笑顔は結構俺的にポイント高いと思います。
 2人も警戒を解いてくれるかな?

「「ひぇっ」」

 なんでや。






「ここが、私たちの家です」

「そうか」

 端的に言ってボロ家だな。
 レンガと土壁で作られた家のようだが、あちこちが崩れてボロボロだ。
 穴の空いているところもある。
 これでは隙間風どころの話ではないだろう。
 病人にはあまりいい環境とは言えない。
 
「アルベルト、家の修理とかってできる?」

「クラークはそういったことが得意ですな。アレックスも器用なのでやろうと思えばできるでしょう。簡単な修理でしたら2人に任せていいと思います」

「わかった。じゃあ2人頼む。アルベルトとニーナは一緒に来てくれ」

「「「了解しました」」」

「あの、そこまでしていただくわけには……」

「そんなに手間ではない。気にする必要はないことじゃ」

「は、はい。ありがとうございます」

 兄弟の案内で、俺とアルベルト、ニーナは家の中に入る。
 部屋の中は薄暗く、冷え切っている。

「暖炉とか無いのか?病人には寒すぎるだろう」

「だ、暖炉はあるのですが、薪が……」

「そうか……」

 薪なんて森に行って取ってくればいいと思うかもしれないが、森には浅い場所であってもゴブリンなどの魔物が出る。
 ここはダンジョンのある町だから、余計に森は危険だろう。
 力の無い人間にとって、薪は買うものなのだ。
 そしてこの家にそんな金は無い。
 冷え切った部屋にも納得だ。
 俺はアイテムボックスの中から魔導暖炉を取り出す。
 中魔石1個を8時間で消費してしまう成金仕様の魔道具だが、これがなかなかに暖かい。
 こんな狭い部屋などは、すぐに温めてくれることだろう。

「温かい……」

 魔導暖炉の中に灯る青色の炎が冷え切った室内を優しく暖めてくれる。
 しかし乾燥は逆に身体に良くないからな。
 俺は開いてくボックスの中から鉄鍋とミネラルウォーターを取り出した。
 鉄鍋にミネラルウォーターを注ぎ、魔導暖炉の上に乗せておく。
 魔導暖炉は上部が熱くなり、その熱を利用して簡単な調理も行うことができるというあちらの世界の達磨ストーブのような構造になっている。
 強い火力で鉄鍋の水はすぐに沸騰することだろう。
 そうすれば湿度をいくらか高めてくれるはずだ。

「零れたら危ないから、あまり近づいてはだめだぞ」

「「はい!」」

 いい返事だ。
 そろそろ俺への警戒も

「「ひぇっ」」

 解けないね。

「ルカ、ムタ、お客さんかしら……」

 奥のベッドで身体を起こしてゲホゲホと咳き込むのは、ルカちゃんに良く似た30歳くらいの女性。
 病のせいか、それとも普段の栄養不足のせいか、酷く痩せている。
 顔色はとても生きている人間とは思えないほどに悪い。
 すぐになんらかの処置を施さなければ命に危険があるのではないだろうか。

「こんにちは、奥さん。突然ですがお邪魔させていただいております。ダンジョンでこの子たちに会いまして、危なっかしいんで少々家まで押しかけさせていただきました」

「この子たちがダンジョンに!?それは大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。なにぶん私がこんな身体なもので、少しでもお金を稼ごうとしてくれたんだと思います。この子たちを家まで連れてきてくださり、感謝いたします。ゲホッゲホッ」

「奥さん、寝ていてください。無茶しちゃだめですよ」

 ニーナに奥さんを寝かせつけてもらう。
 
「アルベルト、奥さんの病気はどんなものか分かる?」

「咳と発熱、倦怠感、普通の風邪のような症状ですが、子供たちの話では熱が1週間以上続いているようですからな。風邪を拗らせているように思えます」

 拗らせている、つまり風邪の合併症か。
 肺炎かもしれないな。
 栄養失調と疲れで免疫が落ちているところに風邪を引いて、悪化させてしまったのかもしれない。
 肺炎はちゃんとした治療をしなくては最悪死に至る病気だ。
 こちらの世界にはろくな薬も無いし、時間遡及で治すしかないな。

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