異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

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改稿版

25.亀のダンジョン第3層

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「この薬を飲むんだ」

「はい」

 俺は1つのガラス瓶を差し出す。
 この中に入っているのは普通の栄養ドリンクだ。
 具体的にはユ〇ケル。
 これを薬と言って飲ませ、時間遡及で身体を巻き戻す。
 しかしこのビンも受け取れないとか、お金がないとか、身体を差し出すとか押し問答の末にやっと飲んでもらえることになった。
 結局母親には治療後に俺の商会で働いてもらうということで落ち着いた。
 母親は俺が娼館でも経営していると思って覚悟を決めている。
 全うな商売しとるわ失礼な。
 いや、商品は異世界で仕入れてくるから全うな商売とも言い難いか。

「さっさと飲んでくれ」

 いつまでも飲まないから、俺はもう一度促す。
 母親は意を決したようにビンに口をつける。

「おいしい……」

 栄養ドリンクは飲みやすいように味を調えてあるからね。
 俺は美味いとはあまり思わないけど、そんなに不味くもないはずだ。

「よし、寝て」

「はい……」

 母親に布団をかけると、俺は時間遡及を発動する。
 
「なんだか、身体が熱くなってきました」

 身体の時間が巻き戻っていくときに、そう感じる人もいるみたいだ。
 全身の時間を巻き戻しているから、余計にそう感じるのかもしれないけれど。
 俺は肺炎という病気の名前くらいは知っているが、具体的に身体の中でどんなことが起こっているのかまでは知らない。
 たぶん肺が関係あるんだろう、くらいの知識だ。
 下手に一部だけ巻き戻して大変なことになってしまっても怖いので、全身の時間を巻き戻す必要がある。
 大体3ヶ月前くらいまで戻せば問題なさそうだな。
 中魔石を8個消費してしまったが、遡及が完了した。

「不思議です。もうなんとも無いような気がします」
 
 正解。

「ダメだ。病がそんなに早く良くなるわけがないだろう。2、3日はまだ寝ていたほうがいい。給料を先払いでここに置いておく。働けるようになるまではこの金を使って子供たちに飯を食わせろ」

「そこまでしていただいて、本当に感謝のしようもございません。私のような若くも美人でもない女では満足にお客は取れないかもしれませんが、雑用でも下働きでも何でもして誠心誠意働きます」

 いや、お客は取らなくていいから。
 普通に金とか持ち逃げせずに働いてくれるだけでいいのに。
 それだけでもこの世界では得難い人材だ。
 
「じゃあ、俺達は行く。1週間後に迎えに来る」

「お待ちしております」

 俺はテーブルの上にパンと数枚の銀貨、それから魔導暖炉用の中魔石を10個置いて家を出た。
 家の外ではクラークとアレックスが待っている。

「穴くらいは塞げたか?」

「ええ、結構綺麗に直ってると思いますよ」

 外壁を見ればレンガと赤土によって穴が綺麗に塞がっている。
 崩れかかっていた場所も補強されている。
 これなら隙間風は入らないな。

「よし、ダンジョンの攻略に戻るか」

「「「了解」」」





 やってきました、亀のダンジョン第3層。
 冒険者ギルドの資料によれば、ここからは亀のダンジョンと呼ばれる所以となった防御力の高い魔物が出てくるという。
 
「お、あれですかね。ロックアルマジロ」

 短い足でひょこひょこ歩いているのは、背中側がゴツゴツとした岩のような表皮に覆われたアルマジロだ。
 しかもその体長は小柄な人間くらいはある。
 丸まって転がってこられたら大怪我ではすまないだろう。
 
「俺がやるよ」

「わかりました」

 ロックアルマジロは中魔石を持つ魔物だ。
 体表は岩のようにゴツゴツしていて硬いが、動きは遅い。
 魔石の収支もプラスになるし、俺向きの魔物だ。
 先ほど3層に入る前に弾倉は交換済みだ。
 今弾倉に入っている弾にはすべて空間属性が付与されている。
 俺はワームホールに向かって引き金を引いた。
 ロックアルマジロの頭上に空いた空間の穴から地面に向かって弾丸が吐き出される。
 空間属性の付与された弾丸は、ロックアルマジロの岩のようにゴツゴツした表皮に覆われた頭を易々と貫き絶命させる。
 やはりこのダンジョンの魔物は俺と相性が良い。

「ここの魔物にとってご主人様の魔法は天敵のようですな」

 この調子で行こうか。
 俺達は亀のダンジョン第3層をどんどん進んでいく。
 この階層に出る魔物はロックアルマジロや、オーク、ホブゴブリンの3種類。
 ロックアルマジロが出たら俺が、それ以外が出たらアルベルトたちが倒す。
 まだこの階層には罠も無いみたいだし、快調だな。
 しばらく進むと分かれ道に差し掛かった。
 2層まではほぼ1本道だったから地図なども必要なかったが、ここからはそうはいかないらしい。
 とりあえず左に行くことにした。
 ニーナには紙とペンを渡し、マッピングもお願いする。
 
「この紙とペンは凄いですね。売ったら結構な値で売れるんじゃないですか?」

 前に俺も同じことを思ったことがある。
 しかし羊皮紙にもインクにも既得権益がびっしりだ。
 紙とペンを売り出したら必ずぶつかる。
 ただでさえ俺の胡椒の仕入れルートを探ろうと面倒くさい輩がうろうろしているというのに、そんな面倒な連中とぶつかっている暇は無いんだ。
 と、いうことをニーナに説明した。

「へー、いろいろあるんですね」

 まあそうなるよね。
 まるで他人事のようだ。
 ぶつかったら戦うのはあんただぞ。
 そんなような雑談も軽くしながら、俺達のダンジョン探索は続く。


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