異世界転移かと思ったら群馬だった

兎屋亀吉

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1.転移

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 ある日のこと。
 深夜のコンビニにカップラーメンを買いに行った帰り、俺は突然開いた風穴に吸い込まれた。
 
「へ?」

 掃除機に吸い込まれる埃のごとく吸い込まれた俺は、次の瞬間別の場所に吐き出されていた。
 周囲は漆黒の闇。
 先ほどまで歩いていた街灯が並んだ家までの道ではないことは確かだ。
 鼻孔をくすぐるのはまるで森の中のような濃い土の匂い。
 久しく嗅いでない匂いだ。

「い、いったいなにが……」

 とにかく暗くて何がなんだかわからないのでポケットに入っていたスマホを取り出し、ライトを点灯させる。
 スマホカメラの横についたライトが照らし出すのは剥きだしの大自然。
 テレビの中でしか見たことが無いような巨木が生い茂る原生林が広がっていた。

「わけがわからない」

 気が付いたら森にいたってどういう状況なんだ。
 異世界転移かよ。

「いやまさか」

 俺はトラックにひかれてないし、神にも会ってない。
 異世界だったら神を名乗る存在がチート能力とかをくれるはずだ。
 チート無しでは俺のような引きこもり寸前のもやしがモンスターが跋扈する異世界を生き抜けるはずがない。

「あれ、これなんだろう」

 サンダルの足先にこつんと当たる丸い物体。
 自然石にしてはやけに丸い。
 ライトで照らしてみると、それは3つの綺麗な石だった。
 暗くて色は分からないが、3つのうち2つは真球で残る1つは正三角柱の形をしている。
 表面も傷ひとつないツルツルだし、これほど整った形の石は自然界には存在しないはず。
 なぜか足元に落ちていたことが気になるが、危険なものではない気がする。
 俺は三角柱の形をしたものを試しに拾い上げてみる。

『ステータスシステムのダウンロード』

「え?」

 俺の手のひらにあった三角柱の石はどこかに消え、頭の中に女の人の声で妙な文言が鳴り響いた。
 たしかステータスとか言ってたな。

名前:南田久志
性別:男
年齢:27
スキル:なし

 なんか出たよ。
 俺の顔の前に浮かんでいる半透明のウィンドウは、名前と性別、年齢とスキルという4項目しかないものの確かにステータスだった。
 ステータスが出てしまった。
 まさか本当に異世界なのかここは。
 まだ断定するのは早いか。
 ここが異世界なのかは真球の石を確かめてみてからにするとしよう。
 俺はおそるおそる真ん丸の石を拾ってみる。

『スキル【バリア】をダウンロード』

 スキルか。
 ステータス画面を確認すると、そこには【バリア】のスキルが追加されていた。

「これはもう……」

 ここを異世界と断定してもいいかもしれない。
 神とかそういった存在が俺を異世界に送り込んだのか、それとも偶発的な事故のようなものなのか。
 それは分からないが、大切なのはチート能力を持って異世界に転移したという事実だけだ。
 
「やばいな。バリアなんてチートの匂いのするスキルだ。無双できるかもしれない。ハーレムできるかもしれない」

 すでに俺の頭の中では女の子のピンチに駆けつけてバリアで守ってあげて惚れられるというテンプレの妄想が広がっていた。
 さらには、丸い石がスキルを手に入れられる石だとすれば俺はあとひとつスキルを手にするチャンスが残っていることになる。
 バリアは防御にも攻撃にも使えそうなスキルだから、もうひとつは戦闘以外に役に立つスキルを希望する。
 回復系か生産系が理想だな。
 奴隷の女の子の怪我を治して惚れられないといけないから回復系が欲しいかな。

「回復チート来てくれ」

 俺は祈りながらもうひとつの丸い石を拾った。

『スキル【セーブ&ロード】をダウンロード』

「セーブ&ロードか……」

 おそらくは現実でセーブして何度もやり直すことができるというスキルなのだろう。
 すごくチートだとは思う。
 そういうので何度も繰り返して悪いことを回避するという物語もあるよな。
 でも正直言って俺の好みではないな。
 死に戻りやループ系の主人公は物語の中ではかなり苦労している部類に入ると思うからだ。
 しかも未来のことを知っているのは自分だけという辛さがある。
 なぜ自分が未来のことを知っているのかを話せない縛りがあったり、話せても信じてもらえないがために周りの人々から辛辣なことを言われたりするのだ。
 そういう展開には正直ストレスを感じる。
 メンタルの弱い俺ではループ系の主人公には到底なれないだろう。
 序盤で心が折れてバッドエンドまっしぐらだ。
 この能力はどちらかといえば今まで暮らしていた地球で欲しかったな。
 俺の職業は投資家。
 何億という金を動かすような本格的なやつではなく、FXや株のトレード動画を動画サイトに投稿して広告費で小銭を稼いでいるようなタイプの個人投資家だ。
 実家暮らしゆえになんとか生活できていたものの、トレードで大きく金を失うことも多かった。
 それがやり直しができるならば勝率100パーセントの神のごときトレードが可能になったことだろう。
 
「まあ使い方次第かな。死にそうになったらロードできるし」

 とりあえずここでセーブしておくか。
 セーブすると念じると出っぱなしだったステータス画面の表示が変わり、セーブの可否について尋ねられる。

『セーブしますか? YES/NO』

 もちろんYESをタップ。
 これでセーブが完了した。
 ロードを使うということはどうしても変えたい現実にぶつかったときだと思うから、なるべく使わなくても済むように頑張りたい。
 次にバリアの検証だ。
 バリアは念じるだけで出るようで、さきほどから周囲を囲むように前後左右と上の5面にバリアを展開している。
 異世界は怖いところだと聞いている。
 何の防備もせずに棒立ちしているわけではないさ。
 バリアの見た目は透き通ったオレンジ色のプラスチック板のようだ。
 安っぽい見た目から強度に不安があったが、大き目の石を叩きつけてもびくともしなかったので少し安心した。
 俺はすでに5枚ものバリアを張っているが、何かMPのようなものが消費した感じはない。
 ステータスにもMPやSPといったスキルを使用するためのエネルギー表示は無いから、おそらくこの世界のスキルはなんの代償も支払わないのか体力のように目に見えないものを消費していると考えるのが妥当だろう。
 寿命とかだったら最悪だがな。
 早いところ現地人と接触してスキルについて調べたほうがよさそうだ。

「バリアは何枚くらいまで出るんだろうか」

 試しにさらに倍の10枚バリアを張る。
 まだまだ出そうだ。
 さらに倍の20枚。
 さらに倍の40枚。
 全然バリアが出なくなる気配はないが、なんとなく疲れてきたような気がする。
 これ以上はやめておこう。

「バリアは動かせるのか?」

 バリアに動けと念じてみてもピクリとも動かない。
 どうやらバリアは張ったらその場を動かないタイプのようだ。
 バリアに乗って空とかを飛べるかと思ったが、それは諦めよう。
 バリアで作った足場を歩けば空を歩くことはできそうなのでそれで我慢する。
 真っ暗な森の中で、バリアの検証はつづく。


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