異世界転移かと思ったら群馬だった

兎屋亀吉

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6.家族会議

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 久しぶりの我が家に安心したのか、昨日はすぐに眠ってしまった。
 起きてすぐにスキルやステータスを確認してみたが、やはりあの群馬での1週間は現実だったようだ。
 いきなり群馬に転移してチート能力が使えるようになったなんて今考えてもわけがわからない状況だから一瞬夢だったんじゃないかと思ってしまった。
 しかし夢ではなかった。
 念じるとステータスは出るし、バリアも出る。
 セーブ&ロードもできた。
 今セーブしてロードしただけだから1分前くらいに戻っただけだったけれど、しっかりと時計の針が戻っていた。
 しかし現実世界でセーブ&ロードとは、大金持ち待ったなしじゃないか。
 一晩寝て起きたら急に現実感が出てきた。
 これを使えば競馬でも株でもFXでも負けはない。
 思わずにやけてしまう。

「よし、早速FXで……」

「久志、ちょっと今いいか?」

 パソコンの電源をつけ、これからFXで大儲けしようというときに扉の外から父さんが声をかけてきた。
 前に父さんと話したのはいつだったかわからないほど前だ。
 いつもはあいさつすら交わすことがないというのに、いったいなんの用なのだろうか。

「今じゃないとだめ?」

「ああ、だめだ」

 父さんも緊張しているのか、少しだけ声が硬い。
 どうやら真面目な話なようなので俺はパソコンを切り、部屋を出た。
 父さんは何も言わずに階段を下りて行った。
 ついてこいってことだろうか。
 俺は仕方なく父さんの後を追う。
 父さんはリビングを抜けダイニングテーブルに着く。
 そこには母さんと妹がすでに座っており、俺のぶんのお茶が用意されていた。
 なんだこれは。
 家族会議か?

「どうしたんだよ。みんな揃って」

「お前のことで話があってな」

「俺のこと?」

「そうだ」

 なんだろうこの空気は。
 なんだか知らないが、なんかやばい気がする。

「父さんな、やっぱり久志の今の生活はよくないと思うんだ。男ならやっぱり働かなきゃ。お前もいつか結婚するだろう。そのときに家族を養うだけの稼ぎがなければならないと思う」

「俺はそうは思わない。結婚なんてたぶんしないし」

「いや、結婚はするべきだ。結婚して、身を固めないと男は信用を得られない。なによりいつまでも独り身では寂しいだろう。時代遅れかもしれないが、結婚して子供を作るっていうのは究極の幸せだと思うんだ」

「俺はそうは思わない。結婚もしたくないし、子供もいらない。俺は別に一人でも幸せになれると思っている」

「父さんはそうは思わない」

「俺もそうは思わな……」

「まあまあ、二人ともちょっと落ち着いて」

 いつだかのように話が平行線になり、少し互いに熱くなってきたところで母さんの静止が入る。
 しかし母さんもどちらかといえば価値観は父さんに近い。
 だから以前は頻繁に行われていた話し合いでは最終的に俺は少数派になり、自室に逃げるように引きこもることになっていた。
 だが今日はなぜだかそうしてはいけない気がした。
 ここは気まぐれでお小遣い次第でどちらにでも付く妹を味方につけなければならない。
 俺はこんなこともあろうかとポケットに突っ込んでいた1万円札を机の下から妹に握らせる。
 妹は一瞬キモイから触るなという顔をし、手の中の一万円を確認するとにやりと笑った。
 現金なやつだ。

「あたしはアニキの意見に賛成かな。結婚して子供産むのが絶対幸せみたいな価値観古いと思うし。おっさんおばさんの発想って感じ。そういうの強制されるものじゃないし」

「つぐみ、来月パパボーナス月だからお小遣い3倍にしてもらえるようにママに頼んであげよう」

「アニキ、やっぱり結婚はしたほうがいいと思うよ」

 あっさりと裏切りやがった。
 やはり底辺投資系ユー〇ューバーと勤続30年越えのサラリーマンとでは資金力が違いすぎる。
 とりあえず1万円返せ。
 
「久志、今一か月にいくらくらい稼げているんだ?もしかして一人暮らしだったらやっていけないくらいの額なんじゃないか?」

「べ、別にいくらでもいいじゃん。家には毎月3万円入れているんだし」

「父さん考えたんだ。今の久志の環境がよくないんじゃないかと」

「は?」

「実家だから危機感が足りていないんじゃないか?」

「ど、どういう……」

「一人暮らしだったら、今の稼ぎじゃあ生活していけないだろう。実家だからこの程度の稼ぎでいいか、働かなくてもいいじゃないかと思ってないかってことだよ」

 やはり今日の家族会議は少しまずい方向に話が向かっている気がする。
 このままだと今までの生活が一変してしまうような、そんな気がする。

「い、今はこの程度しか稼げてないけどさ、今後は分からないじゃないか。投資っていうのは元本が増えてロット数が増えていけばどんどん複利で増えていくものなんだよ」

「なるほど。じゃあ今元本いくらで月にいくら稼げているのかデータを出せ。そしていつ頃になればサラリーマンの平均年収くらいに達するのかもな」

「いや、今はそんなに稼げてないけどさ。これからいくらだって……」

「今稼げてないのにいつか稼げるようになるわけないだろ」

 だよね。
 自分でも無理があるって思った。
 チートを手に入れてこれから稼ぎまくるなんて言っても頭がおかしくなったと思われて精神科に強制連行されるだろうし。
 もはや俺になす術はない。

「お前にはこれから一人暮らししてもらう。父さんの知り合いが経営しているシェアハウスをすでに契約してきた。3日後に引っ越し屋が来るから、それまでに荷物をまとめておきなさい」

「シェアハウス!?」

「アニキいいなぁ。シェアハウスなんてめっちゃおしゃれじゃん」

「馬鹿言うな!俺みたいな引きこもりがシェアハウスなんて無理に決まってるだろ!あと1万円返せ」

 妹は口を閉じだんまりを決め込む。
 こいつ、返さない気だ。
 
「シェアハウスの管理人さんは信用できる人物で安心だし、住人とのコミュニケーションで人付き合いも学べる。家賃も安い。お前には最高の環境だと思ってな」

「よくないって。シェアハウスに住んでる奴なんてコミュ力バリバリの化け物ばかりだって。うまくやれる自信がない」

「だからこそだ。とにかくもう契約しちゃったし、引っ越しも頼んでしまった。お前はシェアハウスに行くしかないんだ。全うな仕事に就いて結婚相手を連れてくるまではこの家の敷居は跨げないと思え」

「そんな無茶な……」

 そもそも結婚する気がないというのに。
 実質俺はこの家には二度と帰ってこられないということじゃないか。


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