異世界転移かと思ったら群馬だった

兎屋亀吉

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7.シェアハウス

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 あっという間に3日が経った。
 荷物を纏める傍らFXでいくらかの金は稼ぐことができたので懐は温かい。
 しかし今更稼げるようになったと言ってもおそらく父さんは納得してはくれないだろう。
 まぐれだと言われたらそれまでだし、なにより結婚感の違いについてはどうしようもない。
 
「はぁ。本当に俺、今日からシェアハウスに住まないといけないんだな……」

 憂鬱だ。
 俺の中のシェアハウスのイメージはあまり良いものではない。
 あんなものは男女が出会いを求めて入居するものだと思っている。
 そもそも男女が同じ屋根の下で共同生活なんてよこしまな想像しかしようがない。
 ヤ〇マン、ヤ〇チンの巣窟というのが俺のイメージの中のシェアハウスだ。
 正直そんな人種が羨ましいと思うときもあるけれど、自分はそうはなれないのだということをすでに俺は嫌というほど思い知らされた後なのだ。
 学生時代には色々とわきまえずに痛い行動もしたが、さすがに27にもなれば自分というものが分かってくる。
 俺にはシェアハウスは無理だ。

「今からでも他の賃貸に……」

「ちわーっ、ミート引っ越しセンターですっ。荷物これだけですか。これなら5分でやっちゃいますね!!」

「あ、まっ……」

 引き留める間もなく俺の荷物は神速で運ばれていってしまった。
 もはやあの荷物の行方は父さんの契約してきたシェアハウスに決定してしまったのだ。

「諦めて俺も行くか……」

 シェアハウス怖いよ。
 



「あ、あの、こんにちは。今日から入居することになりました、南田久志と申します。これ、つまらないものですが」

「ありがとう。気を使わせてごめんね。僕はこのシェアハウスの管理人の佐藤邦夫。住人さんたちからは邦夫さんって呼ばれてる。久志君もよかったらそう呼んでね」

「は、はい。よろしくお願いします、邦夫さん」

 やばい、めっちゃやばい。
 なにがやばいって管理人さんのイケメンっぷりがやばい。
 優しそうな笑顔を浮かべる茶髪の黒縁眼鏡のイケメン。
 これはモテるだろう。
 なにせこの顔にこのコミュ力だ。
 会ったばかりの人を名前で呼んだのなんて初めてだよ。

「早速なんだけど、このシェアハウスのルールを簡単に説明するね」

「はい」

「ルールって言ってもここは結構ゆるいから心配しなくてもいいよ。どれも常識的なものばかりだから。まず、週に1回は全員でご飯を食べる日があるんだ。家にいたらなるべく参加してほしいかな」

 最初の一つからしてきついです。
 なんで見ず知らずの人たちと同じ家に住んでいるからといってご飯を食べなければならないんだ。
 人見知りには地獄の時間になるだろう。

「週1の食事会の料理は僕がするし、普段の掃除なんかも僕の仕事だから住人は何もしなくてもいいよ」

「わ、わかりました」

「あとはキッチンの使用に関してと、お風呂の使用に関して……」

 そこからはまあ普通に常識の範囲内で助かった。
 お風呂まで一緒に入る日があるとか言われたらどうしようかと思った。
 
「じゃあ部屋に案内するよ」

「お願いします……」

 もはや俺のライフは尽きる寸前だ。
 しばらくはパーソナルな空間から出たくない。
 




「それでは、久志君の入居を祝って。かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!!!」」」

 しばらく自室にこもって荷ほどきをしていた俺だったが、夕食の時間に邦夫さんに呼ばれた。
 何かと思ってダイニングまで行ってみれば、なんと住人が大勢そろっていて俺の歓迎会を開いてくれるというのだ。
 なんとありがた迷惑。
 住人はやはり想像どおりパーティ大好き人間が多いようだ。
 見ず知らずの人間が同じシェアハウスに入居しただけだというのに、すごい騒ぎようだ。

「へー久志君ってユー〇ューブやってるんだ。あたしもなんだ。これ見て。エミのゴスロリチャンネル。登録者数はまだ100人もいってないんだけどね」

「な、なるほど」

 歓迎会で右隣に座ったのはエミさん。
 ケバケバしい化粧で守りを固めた派手な女性だ。
 職業は風俗嬢らしい。
 
「今時ユーチューブなんて誰でもやってるよな。俺もやってるぜ。お客さん相手にお知らせするのにも便利だからな」

「そ、そうですね」

 左隣に座ったのはタケルさん。
 邦夫さんレベルの顔面を金髪とピアスで飾り立てたヤンチャな感じのするイケメンだ。
 職業はホストらしい。

「へぇ、タケル君もやってるんだ。登録者数何人?エミとどっちが多い?」

「俺はお客さん専用チャンネルだけど200人くらいかな」

「あーん、まけたぁ」

 話のきっかけ作りいなればと思って動画投稿サイトの話題を自分から出してみたものの、2人の会話に全く入り込めない。
 このままでは俺を挟んで両隣の人たちが話し始めるという最悪的に居心地の悪い事態になりかねない。

「久志君ってチャンネル登録者数5000人もいるんだね。すごいね」

「え、あ、そうかな……」

「うん、とってもすごいと思うよ。私もユー〇ューブやってるけどそこまでいくのに何か月もかかったもん」

 話しかけてきたのは向かいに座る女子高生のフミカちゃん。
 まだ高校生だというのにシェアハウスから学校に通っているという猛者だ。
 黒髪姫カットで、ちょっとあざとい感じがする。
 そして何気に俺よりもチャンネル登録者数が多いことを主張し、マウントを取りにきている。
 恐ろしい。
 
「フミカちゃん、何か月もかかったってことは登録者数5000人以上いるんだ。何人くらいいるの?」

 俺が呆然としていると、隣の風俗嬢からフォローが入る。
 そうやって聞くのが正解だったのか。

「えー、別にそんな多くないよ。今は10万人くらいかな。イ〇スタに比べたらユー〇ューブは始めたばかりだし……」

「えぇ、すっごいね。10万人なんてプロだよ。プロのユー〇ューバーみたいだね」

「そんなことないって。それに私はユーチューブは遊びみたいなもので、イ〇スタが本業だし」

「そうなんだね。やっぱり女子高生ブランドは凄いなぁ。イン〇タはフォロワー何人くらいいるの?」

「そっちは20万人くらいはいるかな。別に私なんかまだまだなんだけどね。本業のモデルさんとかはもっと多いし」

 なぜだろうか、仲良く話している二人の間には見えない壁があるような気がする。
 マウント取りたがりの女子高生は風俗嬢を見下しているし、にこにこ風俗嬢の目の奥にはギラリと光るものを感じる。
 シェアハウス怖い。
 
「はーい、鍋が煮えましたよー」

「夏前だぞ。また鍋かよ」

「まあまあこれからもう暑くて鍋なんて食べられなくなるんだから。また寒くなってくるまでの鍋納めだよ、タケル君」

 そう言ってギランギランの空気を弛緩させてくれたのは熱々の鍋を持った邦夫さんだった。
 邦夫さんは持っていた鍋をテーブルの真ん中の鍋敷きに乗せ、蓋を開けた。
 ふんわりと漂う出汁の香り。
 思ったよりも本格的に美味しそうだ。

「じゃあ食べようか」

「「「いただきまーす」」」

 一口お出汁を啜れば海鮮系の濃厚な旨味が口の中いっぱいに広がる。

「うま……」

「だろ?邦夫さんの料理はマジで最高なんだよ」

「ほんと、おいしいよね」

「あ、いい匂いだからつい一口食べちゃったけどイン〇タにアップしなきゃ」

 シェアハウス、ちょっと怖いけど悪くないかもな。

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