転生した異世界と日本が繋がってしまった

兎屋亀吉

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1.次元の扉

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 ある日の明け方、寝苦しくてふと目を開けると俺の胸の上に金髪碧眼の幼女が鎮座していた。
 寝苦しいわけだ。

「お久しぶりです。運命神エウノミリス様」

「うむ。久しいの、リノスよ。今日はお主に知らせることがあって下界に顕現したのだ」

 嫌な予感しかしない。
 この世界に転生させてくれたことには感謝しているが、この神様はいたずら好きの子供のようなところがある。
 退屈になると何をしでかすかわかったものではない。

「そもそもの話、お主がこんなところでのんびりと狩人なんぞをやっておるからいかんのだぞ。最近のお主は全くつまらぬ。こちらに転生したばかりの頃はあちこちを冒険しては女を侍らせていい気になっておったではないか。なぜこんな隠居老人みたいな生活をおくっておる」

「なぜと言われましても、俺ももう40過ぎですよ。秘薬のおかげで身体だけは若いですけど、中身は前世を合わせると90近い。冒険だハーレムだというのはちょっと疲れてしまいました。ここで余生をのんびりと過ごしたいんですよ」

「なんと軟弱な精神か。90年そこそこで達観した気になりおって。まあよい。ワシとてお主を見て楽しむのは飽きてきたところだ。そこでだ、お主の元おった世界。あの世界はとても面白そうじゃの。お主の魂の故郷ともいえるあの世界につながる次元の扉を作ってみることにした」

 やっぱりろくでもないことだったか。
 前回俺の前に現れたときは滅びた世界の竜だとかいってホラー映画に出てくるような悪趣味なドラゴンと戦わされたからな。
 それで今回は前世の世界とつながる次元の扉を作るってか。
 考えようによっては俺にとってちょっとうれしいかもしれない。
 なにせもう二度と戻れないと思っていた懐かしい前世の世界に行くことができるかもしれないのだから。
 しかしあちらの世界にとってそれは混沌をもたらす可能性がある。
 突然異世界への扉ができましたなんて大騒ぎだぞ。
 こちらの世界にはあちらの世界にはいないような危険な生き物も多いし、万が一そんな生物が扉を潜り抜けてあちらの世界に紛れ込もうものなら世界的なパニックになるに違いない。

「ちょっと待ってくださいよ。その扉は常時開きっぱなしなのですか?」

「うーん、どうじゃろうな。考えておらなんだ」

「はぁ、開きっぱなしは危険なのでやめてください。できれば鍵かなにかで開け閉めができるようにしていただきたい」

「そんなこと言って、お主扉を閉じたままにしておくつもりじゃろ。そうはいかぬぞ。そうじゃの、2日に1回10分ほど開くというのはどうじゃな」

「せめて7日に1度くらいにしていただけませんか。開く機会が多すぎると新鮮味が無くなりますよ」

「それもそうじゃの。では7日に1度じゃ。ふふふ、何が起こるか楽しみじゃの。ではな。お主も楽しめ」

 幼女は金色の光を発しながら消えていった。
 どっと疲れが押し寄せてくる。
 なんとか扉が開くのは7日に1度という周期にしてもらえたが、あっという間に消えてしまったので肝心の扉の場所といつ開くのかを聞きそびれてしまったな。
 できれば扉に入る人や物を制限して危険な人間や生き物があちらの世界に入り込まないようにしたかったが、まあ仕方がない。
 神のやることだ、天災と同じだよ。
 人の身ではどうすることもできないさ。

「目が冴えてしまった。狩りにでも行くか……」

 面倒なことは忘れるにかぎる。






「まさかピポルが狩れるとは。今日は運がいいな」

 朝から運命神が降臨するなどという不運があった反動か、今日はピポルというとんでもなく美味しくて貴重な鳥を射止めることができた。
 ピポルは生き物の魔力を敏感に察知する能力を持っているために、魔力を完全に遮断することのできる技術を持った達人級の狩人にしか狩ることができないと言われているのだ。
 俺には当然そんな芸当はできないが、今日は偶然にも狙いを外した矢が岩陰に潜んでいたピポルに突き刺さるというミラクルが起きた。
 あまりに驚いて今日はもう狩りどころではないと昼前にもかかわらず帰ってきてしまった。
 まあピポルの他にもはぐれオークを1匹狩っているので獲物は十分だ。
 オークはファンタジー小説やエロゲーなどに出てくるとおりの2足歩行の豚の化け物だ。
 その生態もエロゲーのごとくなので、人類に忌み嫌われている。
 俺の家は近隣の村からは少し離れているが、オークの足ならば移動できない距離ではないので狩っておかなければ村の迷惑になってしまう。
 オークの肉は豚肉みたいな風味で非常に美味だ。
 近隣の村々は襲われずにすみ、俺は美味しい。
 ウィンウィンの関係なので見かけたら積極的に狩るようにしている。

「だけど今日はオークはお呼びではない」

 今日のメインはピポルだ。
 オークも美味いけど、ピポルは別格だ。
 以前都会に住んでいた頃に貴族が入るような高級レストランで一度だけ食べたことがあるが、あんなに美味い鳥を俺は前世でも食べたことがない。
 前世はしがないサラリーマンだったので当然だが、それでもなんとか地鶏みたいなブランド肉やどこどこ産鴨肉のローストなんとか仕立みたいな料理も数回口にしたことがある。
 だがピポルの味はそんなものとは比べ物にならないほどに美味かった。
 肉を食べて目からビームが出るかもしれないと思ったのは後にも先にもあのときだけだ。
 
「ああ、楽しみだ」

 口から溢れ出す唾を飲み込んでピポルの羽を毟っていく。
 無心で羽を毟ること数分、ほとんどの羽を毟り取ることができた。
 ボツボツの鳥肌に産毛が残る程度だ。
 俺は指先に魔力を集めて火の精霊を集め、表面の産毛を焼いていく。

「ん?」

 俺は脳の片隅で違和感を感じ、火を止めた。
 なぜだろうか、この家から俺以外の人間の気配を感じる。
 ここ数年の狩人生活で芽生えた気配察知スキルに間違いはないはずだ。
 スキルとはそういう技能のことではなく、文字通りスキル。
 ゲームに出てくるアクティブだとかパッシブだとかのあれのことだ。
 この世界にはそういったゲームのような要素が存在しているのだ。
 感覚系のスキルである気配察知は生き物の気配を感じる能力を増強してくれる。
 音でもなく匂いでもなく、味でもなく光でもなく触り心地でもない6つ目の感覚として生き物の気配を感じることができるスキルだ。
 そのスキルが、この家にはもう一人人間がいるという感覚を訴えかけてきている。
 玄関には俺が陣取って羽を毟っているのでまともな客ではないだろう。
 俺は腰の短剣を抜き、気配のする部屋へと近づく。
 気配がしたのは寝室、ベッドとクローゼットくらいしかない部屋だ。
 おおかた金目のものでもあるかと思ってその部屋に入ったのだろうが、残念ながら金目のものはいつもアイテムボックスに入れて持ち歩いている。
 
「残念だったな!盗人が!!」

「へ?うわっ、外国人!?てか刃物!やばいやばい、なんなんだよこれ……」

 寝室のドアを開け、中に入るとそこには黒縁眼鏡に黒目黒髪、おまけに黒い上下の冴えない男が立っていた。
 どこからどう見ても平たい顔族だな。


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