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6.アルヴヘイム
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「ほら身分証。後ろの奴は連れだ。身分証は持っていないが俺が身分を保証する」
「Sランク!?これは驚いた。エルフ領に六天月樹以外のSランク冒険者がいるとはな」
「六天月樹?なんだそれは」
「知らないってことはエルフ領の外からのお客さんか。六天月樹っていうのは今エルフ領にいる6人のSランク冒険者の総称だ。全員貴族家出身で、月か樹の派閥の家系だからそう呼ばれている」
「へぇ、そうなのか。勉強になった。これ取っといてくれ」
「へへへ、そんなつもりはなかったんだがな。ありがたくもらっておくぜ。後ろのお連れさんの件も承知した。一応言っておくが、アルヴヘイムへようこそ」
チップを受け取って調子のいい笑みを浮かべる衛兵の男に軽く手を振り、俺たちはアルヴヘイムの街に入る。
しかし10何年かぶりにアルヴヘイムに来てみれば、Sランク冒険者が貴族ばかりになっているとはな。
エルフはただでさえプライドが高いのに、貴族ともなれば鼻っ柱の高さは東京タワーなみだ。
それに加えてSランク冒険者ともなればもはやスカイツリーを優に超える長大な鼻っ柱をしているだろう。
絶対に関わり合いになりたくない輩だな。
「リノスさん、門番の人はなんて?」
そういえば日野はこちらの言葉がわからないんだったな。
異世界転移といえば翻訳スキルかなにかの言語のサポートは万全というのがセオリーなんだがな。
こっちでのサポートは俺がしろっていう運命神の無言の意思なのかもしれない。
「エルフ領にいるSランク冒険者についてちょっとな。俺も一応Sランクだから」
「え、リノスさんってSランク冒険者なんですか?冒険者ギルドで一波乱あったりするんですか?」
「どうだろうな。確かにSランクということを知られれば目立つかもしれないが、依頼を受けたりするときでもなければまずギルド証を見せないからな。そして俺はこの街で衛兵以外にギルド証を見せる気はない」
「えぇ、テンプレイベントにならないんですか?」
「むしろ日野が登録するときのほうがテンプレが起きそうだが」
「僕意外に鍛えているんですけどね。なかなかガタイって大きくならなくて……」
「この世界はガタイがすべてってわけでもないからそれだけでは舐められないだろうが、レベルが1だからな。冒険者登録の前に少しレベルを上げるか?」
「そうですね。ちょっと上げておきたいです。魔法の練習もしておきたいですし」
そうと決まればまずは俺のセーフハウスだ。
以前この街に滞在していた時に利用していた家だ。
10年以上放置してしまっているからあちこちガタが来ているかもしれないが、多少修理すれば住むのに問題はないだろう。
「しかし10年ひと昔とは言うが、街が全然変わってしまっているな」
「異世界でもそのへんは同じなんですね。僕も長期休暇で実家に帰るたびに街が変わっていっているのを感じますよ」
こんなところにコンビニができてやがるってことはさすがにこの世界ではないけどな。
俺も6日後に40数年ぶりの異世界だ。
向こうの世界では6年程度しか月日は流れていないらしいが、それでもかなり変わっていることだろう。
ハンバーガーの値段が上がってなければいいが。
「と、なんだこりゃ」
「どうしたんですか?」
「いや、今向かってる俺のセーフハウスは確かこの先のはずなんだがな」
「なんだか怪しい雰囲気ですね」
日野の言うとおり、俺のセーフハウスがあるはずの通りはかなり危ない匂いのする雰囲気の街になっていた。
こりゃあ貧民街とかスラムとかって呼ばれる感じだな。
俺が住んでいた頃はもちろんこんな雰囲気ではなく、小綺麗な恰好をしたマダムがおしゃれなカフェでお紅茶を頂いているような雰囲気の街だった。
いくら10年ひと昔といったって変わりすぎだろう。
アルヴヘイムを治めているエルフの元老院で何か大きな政変でもあったのかもしれないな。
「とにかく、セーフハウスに行ってみるか。俺から離れないようにな」
「はいっ」
日野は近接戦闘は苦手だと言っていたが、やはり訓練のたまものか警戒しながら歩く様子はなかなかに様になっている。
銃を持ったら意外に戦闘能力はかなり高いのかもしれない。
レベルを上げるのが少し楽しみになってきた。
俺は短剣に手をかけ、鋭い眼光でスリや強盗をけん制しながらスラム街を歩いていく。
少しでも隙があれば俺たちのことをカモにしてやろうと考えるスラム街の住民たちには辟易したが、なんとかセーフハウスの前まで行くことができた。
「ここの、はずなんだがな……」
「なんか、人の出入りがすごいですね」
「人の家で勝手に商売やってやがる」
怒りでこめかみに力が入ってしまう。
青筋バキバキだぞ。
「これはさすがに中の奴ボコボコにしても俺に非はないよな」
「日本なら非ありまくりですけど、異世界はどうなんでしょう」
「異世界では大丈夫だ。防犯カメラが無いからな」
「それってダメなんじゃ……」
「日野、ここは法治国家じゃない。日本だって警察は事件が起きてからしか動いてくれないだろ?ここでは事件が起きてからでも動いてくれるとは限らないんだよ」
「なるほど。法律の整備や汚職の摘発がなかなか進まない途上国と同じような感じに考えればいいんですね」
適応が早いな。
自衛官として海外での活動のときの注意点などを勉強しているということもあるかもしれないが、日野の元々の気質として環境適応能力が高いのかもしれない。
二次元にかなり理解が深いから異世界との親和性も高い。
もしかしたら次元の扉から最初にこちらの世界に来たのが日野だったのも、運命神の思惑どおりなのかもしれない。
「Sランク!?これは驚いた。エルフ領に六天月樹以外のSランク冒険者がいるとはな」
「六天月樹?なんだそれは」
「知らないってことはエルフ領の外からのお客さんか。六天月樹っていうのは今エルフ領にいる6人のSランク冒険者の総称だ。全員貴族家出身で、月か樹の派閥の家系だからそう呼ばれている」
「へぇ、そうなのか。勉強になった。これ取っといてくれ」
「へへへ、そんなつもりはなかったんだがな。ありがたくもらっておくぜ。後ろのお連れさんの件も承知した。一応言っておくが、アルヴヘイムへようこそ」
チップを受け取って調子のいい笑みを浮かべる衛兵の男に軽く手を振り、俺たちはアルヴヘイムの街に入る。
しかし10何年かぶりにアルヴヘイムに来てみれば、Sランク冒険者が貴族ばかりになっているとはな。
エルフはただでさえプライドが高いのに、貴族ともなれば鼻っ柱の高さは東京タワーなみだ。
それに加えてSランク冒険者ともなればもはやスカイツリーを優に超える長大な鼻っ柱をしているだろう。
絶対に関わり合いになりたくない輩だな。
「リノスさん、門番の人はなんて?」
そういえば日野はこちらの言葉がわからないんだったな。
異世界転移といえば翻訳スキルかなにかの言語のサポートは万全というのがセオリーなんだがな。
こっちでのサポートは俺がしろっていう運命神の無言の意思なのかもしれない。
「エルフ領にいるSランク冒険者についてちょっとな。俺も一応Sランクだから」
「え、リノスさんってSランク冒険者なんですか?冒険者ギルドで一波乱あったりするんですか?」
「どうだろうな。確かにSランクということを知られれば目立つかもしれないが、依頼を受けたりするときでもなければまずギルド証を見せないからな。そして俺はこの街で衛兵以外にギルド証を見せる気はない」
「えぇ、テンプレイベントにならないんですか?」
「むしろ日野が登録するときのほうがテンプレが起きそうだが」
「僕意外に鍛えているんですけどね。なかなかガタイって大きくならなくて……」
「この世界はガタイがすべてってわけでもないからそれだけでは舐められないだろうが、レベルが1だからな。冒険者登録の前に少しレベルを上げるか?」
「そうですね。ちょっと上げておきたいです。魔法の練習もしておきたいですし」
そうと決まればまずは俺のセーフハウスだ。
以前この街に滞在していた時に利用していた家だ。
10年以上放置してしまっているからあちこちガタが来ているかもしれないが、多少修理すれば住むのに問題はないだろう。
「しかし10年ひと昔とは言うが、街が全然変わってしまっているな」
「異世界でもそのへんは同じなんですね。僕も長期休暇で実家に帰るたびに街が変わっていっているのを感じますよ」
こんなところにコンビニができてやがるってことはさすがにこの世界ではないけどな。
俺も6日後に40数年ぶりの異世界だ。
向こうの世界では6年程度しか月日は流れていないらしいが、それでもかなり変わっていることだろう。
ハンバーガーの値段が上がってなければいいが。
「と、なんだこりゃ」
「どうしたんですか?」
「いや、今向かってる俺のセーフハウスは確かこの先のはずなんだがな」
「なんだか怪しい雰囲気ですね」
日野の言うとおり、俺のセーフハウスがあるはずの通りはかなり危ない匂いのする雰囲気の街になっていた。
こりゃあ貧民街とかスラムとかって呼ばれる感じだな。
俺が住んでいた頃はもちろんこんな雰囲気ではなく、小綺麗な恰好をしたマダムがおしゃれなカフェでお紅茶を頂いているような雰囲気の街だった。
いくら10年ひと昔といったって変わりすぎだろう。
アルヴヘイムを治めているエルフの元老院で何か大きな政変でもあったのかもしれないな。
「とにかく、セーフハウスに行ってみるか。俺から離れないようにな」
「はいっ」
日野は近接戦闘は苦手だと言っていたが、やはり訓練のたまものか警戒しながら歩く様子はなかなかに様になっている。
銃を持ったら意外に戦闘能力はかなり高いのかもしれない。
レベルを上げるのが少し楽しみになってきた。
俺は短剣に手をかけ、鋭い眼光でスリや強盗をけん制しながらスラム街を歩いていく。
少しでも隙があれば俺たちのことをカモにしてやろうと考えるスラム街の住民たちには辟易したが、なんとかセーフハウスの前まで行くことができた。
「ここの、はずなんだがな……」
「なんか、人の出入りがすごいですね」
「人の家で勝手に商売やってやがる」
怒りでこめかみに力が入ってしまう。
青筋バキバキだぞ。
「これはさすがに中の奴ボコボコにしても俺に非はないよな」
「日本なら非ありまくりですけど、異世界はどうなんでしょう」
「異世界では大丈夫だ。防犯カメラが無いからな」
「それってダメなんじゃ……」
「日野、ここは法治国家じゃない。日本だって警察は事件が起きてからしか動いてくれないだろ?ここでは事件が起きてからでも動いてくれるとは限らないんだよ」
「なるほど。法律の整備や汚職の摘発がなかなか進まない途上国と同じような感じに考えればいいんですね」
適応が早いな。
自衛官として海外での活動のときの注意点などを勉強しているということもあるかもしれないが、日野の元々の気質として環境適応能力が高いのかもしれない。
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