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16.病院
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「なんだこれは……」
「火の球が、空中に浮いている……」
上田一等陸尉と三島警部補は日野の魔法に瞠目する。
この世界でもあちらの世界と変わらず大気中には魔素や精霊がちゃんと存在していたことから魔法なんかも使えるだろうと思ってはいたが、これでそれが正しかったことが証明された。
「防護服に何か仕掛けが……」
「いや、そもそもこの炎の燃え方はおかしい」
ああでもないこうでもないと検証を続ける2名。
しかしどれだけ調べたところで防護服は警察側から渡されたもので仕掛けなんてあるわけがない。
そして魔法で生み出された火球は普通の炎ではない。
火は通常下から上に立ち上るように燃えるが、火球は中心に向かって火が渦を巻き吹き付けるように燃えている。
ファイアボールは対象に当たるまでは炎に内側へ向かう力が働いていて、対象にぶち当たるとそれが無くなり熱が一気に外側に向かい爆発するという魔法なのだ。
たとえ手から火を出すマジックができるマジシャンであっても再現するのは難しいだろう。
「上田一尉、三島警部補、これは魔法ですよ」
「魔法……」
「おいおい、マジかよ。頭がおかしくなりそうだ」
ゲームや小説などの二次元作品にさほど造詣が深くなさそうなお二方は頭を抱えてしまう。
トップダウン式の組織の一員である以上彼らは上に報告書というものを書いて提出しなければならないのだろうが、なんて書いたらいいのかわからないという顔をしている。
「はぁ、どうやらこの件は私たちのような現場の人間では手に負えないようです」
「そのようですな。やれることだけやって霞が関に投げましょう。日野さんの7日間の体調から未知の病原菌に感染している可能性はそれほど高くないようですし、とりあえず防疫はそこまで大規模に行わなくても大丈夫でしょう。一応ここは封鎖してお2人には病院で検査を受けてもらいますが、周辺地域の消毒まではしなくてもいいでしょうな」
「2人を搬入する病院などで上はまた揉めそうですね」
「防衛省と警察庁の仲は微妙ですからな」
日本は官僚さんたちが仕事熱心だからな。
仕事をしすぎて他の省庁とバチバチやりあってしまうこともあるのだろう。
できるだけ早く搬入先の病院を決めてくれるとありがたい。
防護服着たままだと色々困ることがあるからな。
トイレとか。
結局俺たちが病院に搬送されたのは3時間ほど経った後だった。
自衛隊病院に搬送するか警察病院に搬送するかでかなり揉めたらしいのだが、近くに大きな警察病院が無いということなどから最終的に俺たちは岐阜県内の自衛隊病院に搬送された。
近くに警察病院が無いなら最初から話に絡んでこなければいいのに。
東京や大阪まで防護服を着たままドライブなんて笑えないから。
「あれ、おかしいわね。注射針が刺さりにくい……」
「痛っ、痛いです!」
困ったような看護師の声と悲鳴のような日野の声が聞こえてきたのでそちらを見ると、50代くらいのおばさん看護師が日野の腕に太い注射針をぐいぐいと刺し込んでいるところだった。
レベルを上げて魔力値が上がると身体の頑丈さはどんどん人間離れしていくからな。
おばさん看護師の腕の筋肉の盛り上がりから、少し力がいることが伺えるがなんとか注射針は皮膚に刺さっている。
注射針が折れたりして危険だからベテランがやったほうがいいだろうが、採血や点滴はなんとか行えるだろう。
問題は俺だ。
レベル12の日野と違って、俺のレベルは3桁を優に超えている。
当然魔力値も3桁どころではないほどに高い。
普通の注射針ではまず間違いなく刺さらないだろう。
「困りましたね。こちらは全く入りません。少し先生と相談してきます」
俺の採血を担当していた若い女性看護師は早々にあきらめて医師に相談しに行ってしまった。
どんな注射器でもたぶん無理だと思うけどな。
看護師はすぐに30代くらいの男性医師を連れて帰ってきた。
医師の手には見たこともないほどに太いトンボ針が握られている。
「リノスさん、少し痛いかもしれませんが我慢してくださいね」
痛いもなにも刺さらないと思うがな。
医師はトンボ針を少し斜めに倒して俺の腕に当てる。
顔を真っ赤にして相当な力を込めて針を俺に刺そうと頑張っているが、一向に痛みはやって来ない。
「なんなんだこれは……。こんなのありえない」
「あの、よかったら刃物をお貸ししましょうか」
「い、いえ。医療用以外の器具を使うわけにはいきませんから」
常識的に考えたら医師の言う通りなのだが、それでは俺の血液がいつまで経っても採れないだろ。
仕方がないな。
俺は精霊魔法を使い、指にちょっとした傷をつける。
「あ、ここ怪我しちゃいました。絞り出せばちょっと血液が採れるかも」
「そ、そうですか……」
医師は釈然としないものを感じながらもキャップのついた試験管のようなものを取り出して血液を採取する。
採取が終わると看護師が指の傷を消毒してくれ、絆創膏を貼ってくれる。
何気に絆創膏も久しぶりだな。
「火の球が、空中に浮いている……」
上田一等陸尉と三島警部補は日野の魔法に瞠目する。
この世界でもあちらの世界と変わらず大気中には魔素や精霊がちゃんと存在していたことから魔法なんかも使えるだろうと思ってはいたが、これでそれが正しかったことが証明された。
「防護服に何か仕掛けが……」
「いや、そもそもこの炎の燃え方はおかしい」
ああでもないこうでもないと検証を続ける2名。
しかしどれだけ調べたところで防護服は警察側から渡されたもので仕掛けなんてあるわけがない。
そして魔法で生み出された火球は普通の炎ではない。
火は通常下から上に立ち上るように燃えるが、火球は中心に向かって火が渦を巻き吹き付けるように燃えている。
ファイアボールは対象に当たるまでは炎に内側へ向かう力が働いていて、対象にぶち当たるとそれが無くなり熱が一気に外側に向かい爆発するという魔法なのだ。
たとえ手から火を出すマジックができるマジシャンであっても再現するのは難しいだろう。
「上田一尉、三島警部補、これは魔法ですよ」
「魔法……」
「おいおい、マジかよ。頭がおかしくなりそうだ」
ゲームや小説などの二次元作品にさほど造詣が深くなさそうなお二方は頭を抱えてしまう。
トップダウン式の組織の一員である以上彼らは上に報告書というものを書いて提出しなければならないのだろうが、なんて書いたらいいのかわからないという顔をしている。
「はぁ、どうやらこの件は私たちのような現場の人間では手に負えないようです」
「そのようですな。やれることだけやって霞が関に投げましょう。日野さんの7日間の体調から未知の病原菌に感染している可能性はそれほど高くないようですし、とりあえず防疫はそこまで大規模に行わなくても大丈夫でしょう。一応ここは封鎖してお2人には病院で検査を受けてもらいますが、周辺地域の消毒まではしなくてもいいでしょうな」
「2人を搬入する病院などで上はまた揉めそうですね」
「防衛省と警察庁の仲は微妙ですからな」
日本は官僚さんたちが仕事熱心だからな。
仕事をしすぎて他の省庁とバチバチやりあってしまうこともあるのだろう。
できるだけ早く搬入先の病院を決めてくれるとありがたい。
防護服着たままだと色々困ることがあるからな。
トイレとか。
結局俺たちが病院に搬送されたのは3時間ほど経った後だった。
自衛隊病院に搬送するか警察病院に搬送するかでかなり揉めたらしいのだが、近くに大きな警察病院が無いということなどから最終的に俺たちは岐阜県内の自衛隊病院に搬送された。
近くに警察病院が無いなら最初から話に絡んでこなければいいのに。
東京や大阪まで防護服を着たままドライブなんて笑えないから。
「あれ、おかしいわね。注射針が刺さりにくい……」
「痛っ、痛いです!」
困ったような看護師の声と悲鳴のような日野の声が聞こえてきたのでそちらを見ると、50代くらいのおばさん看護師が日野の腕に太い注射針をぐいぐいと刺し込んでいるところだった。
レベルを上げて魔力値が上がると身体の頑丈さはどんどん人間離れしていくからな。
おばさん看護師の腕の筋肉の盛り上がりから、少し力がいることが伺えるがなんとか注射針は皮膚に刺さっている。
注射針が折れたりして危険だからベテランがやったほうがいいだろうが、採血や点滴はなんとか行えるだろう。
問題は俺だ。
レベル12の日野と違って、俺のレベルは3桁を優に超えている。
当然魔力値も3桁どころではないほどに高い。
普通の注射針ではまず間違いなく刺さらないだろう。
「困りましたね。こちらは全く入りません。少し先生と相談してきます」
俺の採血を担当していた若い女性看護師は早々にあきらめて医師に相談しに行ってしまった。
どんな注射器でもたぶん無理だと思うけどな。
看護師はすぐに30代くらいの男性医師を連れて帰ってきた。
医師の手には見たこともないほどに太いトンボ針が握られている。
「リノスさん、少し痛いかもしれませんが我慢してくださいね」
痛いもなにも刺さらないと思うがな。
医師はトンボ針を少し斜めに倒して俺の腕に当てる。
顔を真っ赤にして相当な力を込めて針を俺に刺そうと頑張っているが、一向に痛みはやって来ない。
「なんなんだこれは……。こんなのありえない」
「あの、よかったら刃物をお貸ししましょうか」
「い、いえ。医療用以外の器具を使うわけにはいきませんから」
常識的に考えたら医師の言う通りなのだが、それでは俺の血液がいつまで経っても採れないだろ。
仕方がないな。
俺は精霊魔法を使い、指にちょっとした傷をつける。
「あ、ここ怪我しちゃいました。絞り出せばちょっと血液が採れるかも」
「そ、そうですか……」
医師は釈然としないものを感じながらもキャップのついた試験管のようなものを取り出して血液を採取する。
採取が終わると看護師が指の傷を消毒してくれ、絆創膏を貼ってくれる。
何気に絆創膏も久しぶりだな。
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