15 / 18
15.日本
しおりを挟む
「誰か出てきます!」
「片方は日野三等陸曹です!!」
岐阜城の天守閣にある次元の扉は、青い制服姿の警官たちによって包囲されていた。
しかし中には数名の迷彩服姿の自衛官の姿もあり、戻ってきた日野を見て喜びの声を上げる。
俺の想像通りこちらの世界とあちらの世界の時間の流れに約7倍の違いがあるのならば、こちらの世界はまだ1日しか経っていないことになる。
しかし自衛官たちの反応は1日ぶりに同僚を見たという顔ではない。
これはこちらの世界でもきちんと7日の時間が経過していると考えてよさそうだ。
俺の40数年がこちらで6年くらいになってしまったのは転生したときに時間軸がずれたからだな。
「すみませんが離れてください!未知の病原菌に感染している可能性があります!!すぐに防護服を用意してこの場を封鎖してください!!」
日野がそう叫んだ瞬間場は騒然となり、警察官たちは一斉に口と鼻を押さえて離れていく。
少し混乱していたようだが、すぐに上司っぽい人物が声をかけて足並みがそろう。
こういう統率の取れた動きはかっこいいな。
「あの警察官の中に数人混ざっているのは同僚の自衛官か?」
「はい。第10通信大隊の同僚の人たちでした」
突如として現れた扉に人が入って出てこない。
扉は一度閉じた後押しても引いてもスライドしてもうんともすんともいわない。
こんな事件は扉を包囲して待つしかないだろうな。
日野の同僚の自衛官たちは顔の確認のために捜査協力を求められた人たちだろう。
しばらく待っていると、防護服を着た警察官たちが戻ってくる。
消毒液を散布しながら透明なカーテンで岐阜城の天守閣を密封していく警察官たち。
顔ぶれを見るに先ほどこの扉を包囲していた警察官たちとは別口のようだ。
すべての入り口が封鎖され、室内から空気が漏れ出る部分をあらかた塞いだ警察官たちは最後に俺たちのもとへ近づいてきた。
「日野将吾さんで間違いありませんね?」
「間違いありません」
「隣の方はどなたでしょう」
扉に入ったまま行方不明になったのは日野一人だけだ。
それなのに帰ってきてみれば二人になっていたらそりゃあおかしいよな。
しかし俺のことを話すということは異世界について話すということだ。
そのへんの下っ端に伝えるわけにはいかないだろう。
「それは少し込み入った話ですので少し立場のある方でなければ……」
「どういうことです?」
「この扉に関わることです」
「なるほど。わかりました。上司を連れて参ります」
「あとできれば山下二等陸佐に連絡を取りたいのですが……」
「上田一等陸尉が岐阜に来ておりますが、呼んできましょうか?」
「そうですね、上田一等陸尉ならお話ししても問題ないかもしれません。お願いします」
「わかりました。あと、お2人はこちらを着ておいてください」
警察官は防護服を俺たちに差し出した。
これ、どうやって着るんだ?
警察官に教わってごつい宇宙服みたいな防護服を着こんだ俺たちは、警察側の上司と自衛隊側の上司の2人と対面していた。
「まずは無断欠勤をしてすみませんでした。御覧のとおりの事情がありまして」
日野が異世界で過ごしたのは7日。
その間に、日野の長期休暇は終わってしまっていた。
今日を含めた5日間日野は無断欠勤をしてしまったのだ。
「わかっている。非現実的な話だが、現実の話であるのは先ほど実際に目にした隊員たちから聞いている。それで、この扉の向こう側で何があったんだ。そちらの御仁は誰なんだ」
「それは私たちもお聞きしたいですね。この扉はなんなんです?危険なものならば警察だけの手には負えない可能性もある」
日野の直属の上司であるという上田一等陸尉と、この扉を包囲していた岐阜県警の三島警部補が同じごつい防護服の中からくぐもった声で質問してくる。
この扉に関しては神が作ったとしか言いようがないのだが、果たして信じてもらえるだろうか。
「そうですね。まずはこちらの方を紹介しておきます。扉の向こう側で出会って大変良くしていただいたリノスさんです」
「リノスです。ファミリーネームはありません。どうぞリノスと呼んでください」
「リノスさんですか。日本の方ではないですよね」
「ええ、出身地なんかはこれからの話に関わってくるのですが」
俺はこの扉の向こうにこの世界とは異なる世界が広がっており、俺がそこの生まれであることを説明した。
当然なぜ言葉が通じるのかということにも触れられることになり、俺が元はこの世界で生きていた日本人であちらの世界に記憶を保持したまま転生して暮らしていたことも説明した。
「うーむ、にわかには信じられん。まだこの扉に仕掛けがあり、リノスさんがうちの隊員を拉致したと言われたほうが信じられる」
「上田一尉、自分があちらの世界に行っていたというのは本当の話です。証拠も提示できるかと」
「証拠?あちらの世界の物質か何かかね」
「そうですね。リノスさんから貰ったナイフは確かこちらの世界には存在しない金属でできていたはずです。でもそれよりももっとわかりやすいものがあります」
そう言うと日野は小さな声でファイアボールと唱え、防護服に包まれた手の平の上に火の球を生み出した。
「片方は日野三等陸曹です!!」
岐阜城の天守閣にある次元の扉は、青い制服姿の警官たちによって包囲されていた。
しかし中には数名の迷彩服姿の自衛官の姿もあり、戻ってきた日野を見て喜びの声を上げる。
俺の想像通りこちらの世界とあちらの世界の時間の流れに約7倍の違いがあるのならば、こちらの世界はまだ1日しか経っていないことになる。
しかし自衛官たちの反応は1日ぶりに同僚を見たという顔ではない。
これはこちらの世界でもきちんと7日の時間が経過していると考えてよさそうだ。
俺の40数年がこちらで6年くらいになってしまったのは転生したときに時間軸がずれたからだな。
「すみませんが離れてください!未知の病原菌に感染している可能性があります!!すぐに防護服を用意してこの場を封鎖してください!!」
日野がそう叫んだ瞬間場は騒然となり、警察官たちは一斉に口と鼻を押さえて離れていく。
少し混乱していたようだが、すぐに上司っぽい人物が声をかけて足並みがそろう。
こういう統率の取れた動きはかっこいいな。
「あの警察官の中に数人混ざっているのは同僚の自衛官か?」
「はい。第10通信大隊の同僚の人たちでした」
突如として現れた扉に人が入って出てこない。
扉は一度閉じた後押しても引いてもスライドしてもうんともすんともいわない。
こんな事件は扉を包囲して待つしかないだろうな。
日野の同僚の自衛官たちは顔の確認のために捜査協力を求められた人たちだろう。
しばらく待っていると、防護服を着た警察官たちが戻ってくる。
消毒液を散布しながら透明なカーテンで岐阜城の天守閣を密封していく警察官たち。
顔ぶれを見るに先ほどこの扉を包囲していた警察官たちとは別口のようだ。
すべての入り口が封鎖され、室内から空気が漏れ出る部分をあらかた塞いだ警察官たちは最後に俺たちのもとへ近づいてきた。
「日野将吾さんで間違いありませんね?」
「間違いありません」
「隣の方はどなたでしょう」
扉に入ったまま行方不明になったのは日野一人だけだ。
それなのに帰ってきてみれば二人になっていたらそりゃあおかしいよな。
しかし俺のことを話すということは異世界について話すということだ。
そのへんの下っ端に伝えるわけにはいかないだろう。
「それは少し込み入った話ですので少し立場のある方でなければ……」
「どういうことです?」
「この扉に関わることです」
「なるほど。わかりました。上司を連れて参ります」
「あとできれば山下二等陸佐に連絡を取りたいのですが……」
「上田一等陸尉が岐阜に来ておりますが、呼んできましょうか?」
「そうですね、上田一等陸尉ならお話ししても問題ないかもしれません。お願いします」
「わかりました。あと、お2人はこちらを着ておいてください」
警察官は防護服を俺たちに差し出した。
これ、どうやって着るんだ?
警察官に教わってごつい宇宙服みたいな防護服を着こんだ俺たちは、警察側の上司と自衛隊側の上司の2人と対面していた。
「まずは無断欠勤をしてすみませんでした。御覧のとおりの事情がありまして」
日野が異世界で過ごしたのは7日。
その間に、日野の長期休暇は終わってしまっていた。
今日を含めた5日間日野は無断欠勤をしてしまったのだ。
「わかっている。非現実的な話だが、現実の話であるのは先ほど実際に目にした隊員たちから聞いている。それで、この扉の向こう側で何があったんだ。そちらの御仁は誰なんだ」
「それは私たちもお聞きしたいですね。この扉はなんなんです?危険なものならば警察だけの手には負えない可能性もある」
日野の直属の上司であるという上田一等陸尉と、この扉を包囲していた岐阜県警の三島警部補が同じごつい防護服の中からくぐもった声で質問してくる。
この扉に関しては神が作ったとしか言いようがないのだが、果たして信じてもらえるだろうか。
「そうですね。まずはこちらの方を紹介しておきます。扉の向こう側で出会って大変良くしていただいたリノスさんです」
「リノスです。ファミリーネームはありません。どうぞリノスと呼んでください」
「リノスさんですか。日本の方ではないですよね」
「ええ、出身地なんかはこれからの話に関わってくるのですが」
俺はこの扉の向こうにこの世界とは異なる世界が広がっており、俺がそこの生まれであることを説明した。
当然なぜ言葉が通じるのかということにも触れられることになり、俺が元はこの世界で生きていた日本人であちらの世界に記憶を保持したまま転生して暮らしていたことも説明した。
「うーむ、にわかには信じられん。まだこの扉に仕掛けがあり、リノスさんがうちの隊員を拉致したと言われたほうが信じられる」
「上田一尉、自分があちらの世界に行っていたというのは本当の話です。証拠も提示できるかと」
「証拠?あちらの世界の物質か何かかね」
「そうですね。リノスさんから貰ったナイフは確かこちらの世界には存在しない金属でできていたはずです。でもそれよりももっとわかりやすいものがあります」
そう言うと日野は小さな声でファイアボールと唱え、防護服に包まれた手の平の上に火の球を生み出した。
0
あなたにおすすめの小説
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる