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五の段 顔 除霊(二)
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(これが起きるのは、十四郎さまとだけだ。そのはずだ。ありえない。ありえないはずではないかっ?)
「今までにも、これがあったのだな?」
十四郎との間に、と気づくと、新三郎の中に衝動が起きた。
首を縦にも横にも振りかねて絶句していたあやめは、新三郎が横抱きにして唇を被せてきたので、驚いた。
(無理だといっているのに……?)
「あやめ、おれならばできる。」
「いけませぬ、あ、また……」
あやめの躰は新三郎が入ってくる姿勢を見せる前から激しく震えだした。
「しずまれ、あやめ。受け入れよ。」
新三郎は声にならない悲鳴をあげるあやめの躰に肉体を押し入れた。そのまま、揺れ動き、痙攣する肉体を押さえつける。
(死んでしまうっ!)
あやめはついに殺されると思った。躰の内部から震えて止まらないところに、ねじ込まれると、瘧のような反応が一層激しくなった。それとともに息が止まりそうになり、耳に高い金属音が鳴った。
(あ、死ぬ。息ができぬ。……やはり、わたくしはこの男に殺されるのだな。……殺してくれたのは、結句、この男か……)
あやめは新三郎に揺り動かされながら、徐々に震えをとめたが、意識も白くなっていった。無意識に男の躰に抗っていた手が、力を喪って床に落ちる。
「あやめ、どうだ、あやめ?」
あやめの躰を深くうがち、緊張の極にある肉体を押さえつけながら、新三郎は女の耳元で小さく叫ぶ。
「……。」
返事がない。喪神しているのだろう。あやめの躰が急に冷えていく。だが、死んだわけではないのは、胸の鼓動を感じる新三郎にはわかった。しかし、
(これは、……この抱き心地は……?)
新三郎は戦慄したが、あやめの躰を離さない。
だから耳元で、あやめではないその声を聴かされることになった。
「新三郎。」
「なにっ?」
呼び捨てにされる無礼に一瞬きっとなったが、すぐにその声に聞き覚えがあるのに気づく。
「あやめ? ……あやめではないな、おぬし?」
「あやめじゃよ。」
「ちがう、きさまはあやめではない。」
「あやめだというに……」
あやめを名乗る、新三郎には正体不明の女は含み笑いをしている。
「ふん、おそろしいようだな。躰でわかるぞ、新三郎。」
新三郎は無言で、女の頭を横手で抱え込み、汗が光る首筋にかぶりつくように唇を当てた。耳を噛んで、反応した女の頭が避けていくのを抑え込む。そのまま、さらに深く突き入れる。女は甘みの混じった息を吐いた。
「ふ、ふふ、快いぞ、新三郎。しかし、こんなことをしていいのか?」
「何者だ、きさま。あやめに憑いたか?」
新三郎が十四郎よりも迷信深いというわけではないが、いつかも覚えのある眼前の変異に解釈を施すとすれば、自然にそうなるのであった。
「お前はわらわに大恩あろうに。たれのおかげで代官様になれた?」
「何の恩じゃ、魑魅魍魎めが。」
「わらわが化け物なら、お前はなんじゃ。」
女は嘲笑した。
「お前も、姉と交わるとはな。畜生道に落ちたな。」
「姉だと?……あっ。」
「気づいたか? 思い出したようだな。南条に嫁した、あやめじゃよ。」
(兄上ふたりに毒を盛った、姉上か?!)
(あの姉の名が、「あやめ」であったではないか。おれは忘れていた。姉上をその名で呼んだこともないからな。だが、この声には聴き覚えが……)
「姉とわかって交わるのは初めてよの。どうだ、異腹とはいえ、姉と交わる気持ちは? 父上も母上ふたりも嘆かれるであろうな。」
「ふざけるな。なんということもない。これは、納屋のあやめの躰よ。姉上の亡骸は腐って、長泉寺の墓の下だ。」
「お前は躰だけ抱くのだな。心は要らんわけだな。」
「なにをぬかす。」
「実は、心も抱こうとするくせに。心も欲しがる男のくせに。この女の心は、いまはお前の実の姉。やはり畜生道よ、これは。」
あやめの咽喉が震え、笑い声が漏れた。
(こいつは、……姉上の怨霊か? それとも、喪神したあやめが口走っているのか?)
(しかし、納屋今井のあやめが、なぜ蠣崎の家の忌まわしい過去など知っている? この声も、言葉遣いや訛りも、作ったものなのか?)
(狂言とは思えぬが……?)
(あやめは、聡い癖に、信じこみやすい。怨霊にとり憑かれたと思いこめば、声色くらい自然に変わろう。蝦夷地にも長い。おれたちの言葉も聞いている。)
(だが、なぜ姉のことなど?)
(いや、毒殺の顛末については、十四郎が喋ったのだろう。あやつめ、家の恥をさらしおって……)
「畜生道だと? そんなもの、とっくに落ちておるわ。」
新三郎は、女の胸を甘く噛んだ。
(これは、あやめよ。ほら、このように感じておる。)
「……ほう、開き直ったか。ああ、快い。お前、なかなかの上手じゃ。そろそろ出しそうではないか。焦るな。ほれ、もっと胸の真ん中を吸うてくれや。よくなるぞ。」
(あやめ、「胸の真ん中」とは、やはりお前だな。お前は、そんな言い方をしおる。……お前は、どうしてしまったのだ。)
「わらわとなら、孕むかもしれんな。孕ませてどうするか、犬めが。いや、犬畜生でもきょうだいでは交わらぬ。やはり報いをうけ、地獄へ行くのだ、すぐに、行ってしかるべきじゃ、お前はっ。」
(あやめ、哀れだ。)
憎々しげに嘲罵する女の声を聴きながら、新三郎には、怒りはなく、憐みしかない。
(おれを殺したいほど憎む気持ちと、なにか別の気持ちが、あやめのなかで争っているのだろう。)
(おれが、お前に惚れたばかりに。)
(……お前も、ひょっとすると?)
そう気づいたとき、この男のなかで、何者かに対する闘志がおきた。
(おれが治してやる。元のお前にしてやる。)
遠い源平、鎌倉の世にはことば合戦というものがあったと知る。合戦に際して、まずは将帥が互いに是非を言い争うのである。それを戦ってやろうと思った。
「当然よ。戦を重ね、幾多の人を斬り刻んできた。姉上のように、きょうだいも殺したぞ。弟の女を無理矢理に姦した。その女を苛んで、恥をかかせて、自分のものにしようとした。ひとまで殺させて、武家の女に仕立てているさいちゅうよ。斬ったばかりの不義密通の男の生首の前で、そうよ、犬のように交わりをみせつけてやった。これからも、邪魔者は容赦せぬ。親ですらだ。いま、姉だと名乗るお前と交わったところで、とっくに畜生道の底よ。どうということはないのだ。」
「あっ、悪党めが、死ね。お前はやはり、死んで構わぬ。地獄で苦しむがよいわ。」
「死んでからのことなど、知らぬ。生きているうちの地獄なら、どうということはない。……あやめといつも一緒だからな。」
「わはは、なにを腑抜けた、たわけを。」
「おれが、あいつを無理体に抱えこんで畜生道に転がり落ちたのだ。一緒に連れて、必ず這い上がってやる。」
「……なにをぬかしおる!」
女の顔から嘲笑が消えた。
「おぬしのせいじゃ。おぬしがこの女に人殺しをさせるっ!」
「そうとも。おれのせいだ。だからおれが、あやめを救ってやらねばならぬ。」
「……思い上がりよる。外道が。」
「外道ならばこそ、おぬしのようなおれの同類を、もう近づけさせぬ。おれで十分じゃ。なるほど、あとでおれだけ地獄に落ちるだろうが、あやめはしかと(ちゃんと)極楽にいくだろう。」
「何をぬかすか。こやつも地獄に転がり落ちるわ。きさまのおかげじゃ。」
「極楽よ。いや、この世でそれをみせてやるとも。正しい世をみせてやる。怨みに凝り固まったおぬしなぞが、夢にも思えぬ善き世をな。」
「……何をぬけぬけと! な、なにを……」
気配が消えていき、苦し気に息を漏らす顔に、赤みが差していく。
(どうだ、これが、あやめの顔だ。おれに抱かれて、惑乱しておる。悲しんでおる。戸惑っておる。かわいい、あわれな、この世でただひとりの、あやめの顔だ。)
「去れ、魑魅魍魎っ。怨霊なら迷うて出るのも祟るのも勝手だが、名が同じというだけで、あやめにかかわるな。」
「……。」
「現世で姉上だったならば、迷って出るには及ばず。大罪を犯しながらも、父上は懇ろに葬ってくださったわ。」
「……ちがう。わらわではなかった。」
表情はあやめのそれだが、声だけがまだ別のものだ。畜生め、まだか、と新三郎は声を励ました。
「なにがちがうのか。もし蠣崎の者だというならなら、……去られよ。当主の命に背かれるでない。」
「なにが、当主、じゃ。新三郎、など、嫡男ではなかった、わ!」
揺り動かされながら、切れ切れに女は言い返した。
「姉上ならば、天才丸(幼名)と呼んでくださるはず。」
「……。」
「のう、姉上? 姉上が無念の涙を飲まれたは、天才丸のなれの果ての新三郎は、よく知っておりまする。じゃが、もし姉上ならば、斯様な不運の女を苦しめたりはなさらぬ。小さい三男坊の天才丸をあれほど可愛がってくだすった、おやさしい姉上が、いかに怨霊になられたとて、左様のことを為されるはずがない。……じゃから、もしも姉上ならば、気のお迷いじゃ、去られよ。」
「……。」
(あやめっ。)
新三郎はあやめの腰を掴んで引き、あやめの背を反らさせると、その姿勢のままで、自分の感覚にまかせた。長々と時間をかけて放った。そこで反応して躰を震わせているのは、間違いなくあやめであった。
繋がったままあやめを抱き起し、胸に掻き抱いて、頭を撫ぜるようにした。
(元に戻ってくれ、戻ってくれ、あやめ……)
しばらくそうしたうえで、肉を抜き、肩をできるだけ柔らかく抱きかかえ、女の荒い息が鎮まるのを待つ。
「今までにも、これがあったのだな?」
十四郎との間に、と気づくと、新三郎の中に衝動が起きた。
首を縦にも横にも振りかねて絶句していたあやめは、新三郎が横抱きにして唇を被せてきたので、驚いた。
(無理だといっているのに……?)
「あやめ、おれならばできる。」
「いけませぬ、あ、また……」
あやめの躰は新三郎が入ってくる姿勢を見せる前から激しく震えだした。
「しずまれ、あやめ。受け入れよ。」
新三郎は声にならない悲鳴をあげるあやめの躰に肉体を押し入れた。そのまま、揺れ動き、痙攣する肉体を押さえつける。
(死んでしまうっ!)
あやめはついに殺されると思った。躰の内部から震えて止まらないところに、ねじ込まれると、瘧のような反応が一層激しくなった。それとともに息が止まりそうになり、耳に高い金属音が鳴った。
(あ、死ぬ。息ができぬ。……やはり、わたくしはこの男に殺されるのだな。……殺してくれたのは、結句、この男か……)
あやめは新三郎に揺り動かされながら、徐々に震えをとめたが、意識も白くなっていった。無意識に男の躰に抗っていた手が、力を喪って床に落ちる。
「あやめ、どうだ、あやめ?」
あやめの躰を深くうがち、緊張の極にある肉体を押さえつけながら、新三郎は女の耳元で小さく叫ぶ。
「……。」
返事がない。喪神しているのだろう。あやめの躰が急に冷えていく。だが、死んだわけではないのは、胸の鼓動を感じる新三郎にはわかった。しかし、
(これは、……この抱き心地は……?)
新三郎は戦慄したが、あやめの躰を離さない。
だから耳元で、あやめではないその声を聴かされることになった。
「新三郎。」
「なにっ?」
呼び捨てにされる無礼に一瞬きっとなったが、すぐにその声に聞き覚えがあるのに気づく。
「あやめ? ……あやめではないな、おぬし?」
「あやめじゃよ。」
「ちがう、きさまはあやめではない。」
「あやめだというに……」
あやめを名乗る、新三郎には正体不明の女は含み笑いをしている。
「ふん、おそろしいようだな。躰でわかるぞ、新三郎。」
新三郎は無言で、女の頭を横手で抱え込み、汗が光る首筋にかぶりつくように唇を当てた。耳を噛んで、反応した女の頭が避けていくのを抑え込む。そのまま、さらに深く突き入れる。女は甘みの混じった息を吐いた。
「ふ、ふふ、快いぞ、新三郎。しかし、こんなことをしていいのか?」
「何者だ、きさま。あやめに憑いたか?」
新三郎が十四郎よりも迷信深いというわけではないが、いつかも覚えのある眼前の変異に解釈を施すとすれば、自然にそうなるのであった。
「お前はわらわに大恩あろうに。たれのおかげで代官様になれた?」
「何の恩じゃ、魑魅魍魎めが。」
「わらわが化け物なら、お前はなんじゃ。」
女は嘲笑した。
「お前も、姉と交わるとはな。畜生道に落ちたな。」
「姉だと?……あっ。」
「気づいたか? 思い出したようだな。南条に嫁した、あやめじゃよ。」
(兄上ふたりに毒を盛った、姉上か?!)
(あの姉の名が、「あやめ」であったではないか。おれは忘れていた。姉上をその名で呼んだこともないからな。だが、この声には聴き覚えが……)
「姉とわかって交わるのは初めてよの。どうだ、異腹とはいえ、姉と交わる気持ちは? 父上も母上ふたりも嘆かれるであろうな。」
「ふざけるな。なんということもない。これは、納屋のあやめの躰よ。姉上の亡骸は腐って、長泉寺の墓の下だ。」
「お前は躰だけ抱くのだな。心は要らんわけだな。」
「なにをぬかす。」
「実は、心も抱こうとするくせに。心も欲しがる男のくせに。この女の心は、いまはお前の実の姉。やはり畜生道よ、これは。」
あやめの咽喉が震え、笑い声が漏れた。
(こいつは、……姉上の怨霊か? それとも、喪神したあやめが口走っているのか?)
(しかし、納屋今井のあやめが、なぜ蠣崎の家の忌まわしい過去など知っている? この声も、言葉遣いや訛りも、作ったものなのか?)
(狂言とは思えぬが……?)
(あやめは、聡い癖に、信じこみやすい。怨霊にとり憑かれたと思いこめば、声色くらい自然に変わろう。蝦夷地にも長い。おれたちの言葉も聞いている。)
(だが、なぜ姉のことなど?)
(いや、毒殺の顛末については、十四郎が喋ったのだろう。あやつめ、家の恥をさらしおって……)
「畜生道だと? そんなもの、とっくに落ちておるわ。」
新三郎は、女の胸を甘く噛んだ。
(これは、あやめよ。ほら、このように感じておる。)
「……ほう、開き直ったか。ああ、快い。お前、なかなかの上手じゃ。そろそろ出しそうではないか。焦るな。ほれ、もっと胸の真ん中を吸うてくれや。よくなるぞ。」
(あやめ、「胸の真ん中」とは、やはりお前だな。お前は、そんな言い方をしおる。……お前は、どうしてしまったのだ。)
「わらわとなら、孕むかもしれんな。孕ませてどうするか、犬めが。いや、犬畜生でもきょうだいでは交わらぬ。やはり報いをうけ、地獄へ行くのだ、すぐに、行ってしかるべきじゃ、お前はっ。」
(あやめ、哀れだ。)
憎々しげに嘲罵する女の声を聴きながら、新三郎には、怒りはなく、憐みしかない。
(おれを殺したいほど憎む気持ちと、なにか別の気持ちが、あやめのなかで争っているのだろう。)
(おれが、お前に惚れたばかりに。)
(……お前も、ひょっとすると?)
そう気づいたとき、この男のなかで、何者かに対する闘志がおきた。
(おれが治してやる。元のお前にしてやる。)
遠い源平、鎌倉の世にはことば合戦というものがあったと知る。合戦に際して、まずは将帥が互いに是非を言い争うのである。それを戦ってやろうと思った。
「当然よ。戦を重ね、幾多の人を斬り刻んできた。姉上のように、きょうだいも殺したぞ。弟の女を無理矢理に姦した。その女を苛んで、恥をかかせて、自分のものにしようとした。ひとまで殺させて、武家の女に仕立てているさいちゅうよ。斬ったばかりの不義密通の男の生首の前で、そうよ、犬のように交わりをみせつけてやった。これからも、邪魔者は容赦せぬ。親ですらだ。いま、姉だと名乗るお前と交わったところで、とっくに畜生道の底よ。どうということはないのだ。」
「あっ、悪党めが、死ね。お前はやはり、死んで構わぬ。地獄で苦しむがよいわ。」
「死んでからのことなど、知らぬ。生きているうちの地獄なら、どうということはない。……あやめといつも一緒だからな。」
「わはは、なにを腑抜けた、たわけを。」
「おれが、あいつを無理体に抱えこんで畜生道に転がり落ちたのだ。一緒に連れて、必ず這い上がってやる。」
「……なにをぬかしおる!」
女の顔から嘲笑が消えた。
「おぬしのせいじゃ。おぬしがこの女に人殺しをさせるっ!」
「そうとも。おれのせいだ。だからおれが、あやめを救ってやらねばならぬ。」
「……思い上がりよる。外道が。」
「外道ならばこそ、おぬしのようなおれの同類を、もう近づけさせぬ。おれで十分じゃ。なるほど、あとでおれだけ地獄に落ちるだろうが、あやめはしかと(ちゃんと)極楽にいくだろう。」
「何をぬかすか。こやつも地獄に転がり落ちるわ。きさまのおかげじゃ。」
「極楽よ。いや、この世でそれをみせてやるとも。正しい世をみせてやる。怨みに凝り固まったおぬしなぞが、夢にも思えぬ善き世をな。」
「……何をぬけぬけと! な、なにを……」
気配が消えていき、苦し気に息を漏らす顔に、赤みが差していく。
(どうだ、これが、あやめの顔だ。おれに抱かれて、惑乱しておる。悲しんでおる。戸惑っておる。かわいい、あわれな、この世でただひとりの、あやめの顔だ。)
「去れ、魑魅魍魎っ。怨霊なら迷うて出るのも祟るのも勝手だが、名が同じというだけで、あやめにかかわるな。」
「……。」
「現世で姉上だったならば、迷って出るには及ばず。大罪を犯しながらも、父上は懇ろに葬ってくださったわ。」
「……ちがう。わらわではなかった。」
表情はあやめのそれだが、声だけがまだ別のものだ。畜生め、まだか、と新三郎は声を励ました。
「なにがちがうのか。もし蠣崎の者だというならなら、……去られよ。当主の命に背かれるでない。」
「なにが、当主、じゃ。新三郎、など、嫡男ではなかった、わ!」
揺り動かされながら、切れ切れに女は言い返した。
「姉上ならば、天才丸(幼名)と呼んでくださるはず。」
「……。」
「のう、姉上? 姉上が無念の涙を飲まれたは、天才丸のなれの果ての新三郎は、よく知っておりまする。じゃが、もし姉上ならば、斯様な不運の女を苦しめたりはなさらぬ。小さい三男坊の天才丸をあれほど可愛がってくだすった、おやさしい姉上が、いかに怨霊になられたとて、左様のことを為されるはずがない。……じゃから、もしも姉上ならば、気のお迷いじゃ、去られよ。」
「……。」
(あやめっ。)
新三郎はあやめの腰を掴んで引き、あやめの背を反らさせると、その姿勢のままで、自分の感覚にまかせた。長々と時間をかけて放った。そこで反応して躰を震わせているのは、間違いなくあやめであった。
繋がったままあやめを抱き起し、胸に掻き抱いて、頭を撫ぜるようにした。
(元に戻ってくれ、戻ってくれ、あやめ……)
しばらくそうしたうえで、肉を抜き、肩をできるだけ柔らかく抱きかかえ、女の荒い息が鎮まるのを待つ。
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