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外伝 花精の甘露7
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「エリファレット!!」
アルセイーの都をくまなく走り回って、ラウは忽然と姿を消したエリファレットを探し回った。ここまで探して見つからないのであれば、エリファレットは上手く古来の花祭りに参加できたのだろう。
ヒトの祭りに紛れて行われる、古来から続く花祭り。花精の明かりを身につけ、夜の祭りに参加すると突然紛れ込んでしまうのだと言う。
今は多くが純然たるヒト族となったが、昔はヒトの中に混血も多く存在していた。彼らは自分の中に流れる血の存在など知らずに、突然その領域に巻き込まれた。そして花精の甘露を持ち帰って来たのだ。
百年に一度の機会であれば、その花祭りにヒトが紛れ込むことがなくなって久しいだろう。
(歯痒いな……)
ラウは受ける仕事を一人で完遂する。誰かに委ねたり、頼ったりすることがない。だからこうして誰かの帰りをただ待つことしか出来ないのは初めてだった。
ただのヒトであるラウが、今出来ることは何もない。だが何もせずに待っていることも難しかった。いないとわかっていても、街中を探し回るくらいには落ち着かない思いをしていた。
「随分といい顔になりましたね、ラウ」
街中を走り回り、肩で大きく息をしたラウに、背後から声がかかる。
突如現れた気配に、手負の獣のごとくラウが振り返った。
夜の祭りの明かりの中、可憐な花がよく似合うミレイア・トイフェルが立っていた。
「ミレイア……来ていたのか……」
警戒を解いて肩から力を抜いたラウに、ミレイアはにっこりと笑った。
「……私あとで伺います、って言いましたよね?」
聞いてなかったんですか? と菫色の瞳が冷ややかに注がれる。
あの時ラウの頭にあったのはエリファレットの身の安全だけで、ミレイアの話など頭に入っているはずもない。
ミレイアもそこは理解しているのか、小さく肩をすくめて周囲を見渡す。
「首尾はどうですか?」
エリファレットの姿はなく、ラウのこの様子だ。花精の領域には上手く入り込めたのだろう。あとはエリファレットが無事帰ってくることを待つだけだ。
二人は人目を避け、祭りの喧騒が届かない場所まで歩く。仕事柄、ミレイアと会う時は意識無意識関わらず人目を避ける傾向にある。
「エリファが姿を消してからまだそんなに時間は経っていないが、どれくらいかかるものなんだ?」
人目のつかない暗がり。逢引きにぴったりな場所で、ラウは美しい佳人を睨む。
上手く言いくるめてエリファレットに依頼を受けさせたことを、ラウは根に持っている。たまたまラウがアルセイーの都に行くと言うから話を持ちかけただけで、本来の依頼先は別にあったはずだ。百年に一度の機会だ。この機会を逃すミレイアではない。他の誰かが候補にいたのは間違いない。だからどうしてもエリファレットが行かねばならない理由などなかった。
「どうでしょうね。向こうとは時間の流れが違う可能性もありますから……でも戻ってこなかった人はいないので、心配する必要はないと思いますよ」
だからこそ、記録として残されているのだ。それはわかるが、愛しい者を案ずる気持ちはそれとは別物だ。
この女はそこをよく分かっていない。
無言で睨むと、気付いたミレイアが花のように笑う。
「本当にいい顔をするようになりましたね。人らしい感情が貴方にあるとわかって、私も安心しました」
エリファレットに会う前のラウ・ファン・アスとは、表情筋が仕事をしない無表情の男だった。水を湛えたように冷たく、凍った刃を纏うような雰囲気を持つ男だった。それが今はどうだろう。小さな銀狼一匹そばにいないだけで、この落ち着きのなさだ。
クスクスと鈴を転がしたように笑うミレイアにラウは嫌な顔をして、ふいっと横を向く。
アルセイーの都をくまなく走り回って、ラウは忽然と姿を消したエリファレットを探し回った。ここまで探して見つからないのであれば、エリファレットは上手く古来の花祭りに参加できたのだろう。
ヒトの祭りに紛れて行われる、古来から続く花祭り。花精の明かりを身につけ、夜の祭りに参加すると突然紛れ込んでしまうのだと言う。
今は多くが純然たるヒト族となったが、昔はヒトの中に混血も多く存在していた。彼らは自分の中に流れる血の存在など知らずに、突然その領域に巻き込まれた。そして花精の甘露を持ち帰って来たのだ。
百年に一度の機会であれば、その花祭りにヒトが紛れ込むことがなくなって久しいだろう。
(歯痒いな……)
ラウは受ける仕事を一人で完遂する。誰かに委ねたり、頼ったりすることがない。だからこうして誰かの帰りをただ待つことしか出来ないのは初めてだった。
ただのヒトであるラウが、今出来ることは何もない。だが何もせずに待っていることも難しかった。いないとわかっていても、街中を探し回るくらいには落ち着かない思いをしていた。
「随分といい顔になりましたね、ラウ」
街中を走り回り、肩で大きく息をしたラウに、背後から声がかかる。
突如現れた気配に、手負の獣のごとくラウが振り返った。
夜の祭りの明かりの中、可憐な花がよく似合うミレイア・トイフェルが立っていた。
「ミレイア……来ていたのか……」
警戒を解いて肩から力を抜いたラウに、ミレイアはにっこりと笑った。
「……私あとで伺います、って言いましたよね?」
聞いてなかったんですか? と菫色の瞳が冷ややかに注がれる。
あの時ラウの頭にあったのはエリファレットの身の安全だけで、ミレイアの話など頭に入っているはずもない。
ミレイアもそこは理解しているのか、小さく肩をすくめて周囲を見渡す。
「首尾はどうですか?」
エリファレットの姿はなく、ラウのこの様子だ。花精の領域には上手く入り込めたのだろう。あとはエリファレットが無事帰ってくることを待つだけだ。
二人は人目を避け、祭りの喧騒が届かない場所まで歩く。仕事柄、ミレイアと会う時は意識無意識関わらず人目を避ける傾向にある。
「エリファが姿を消してからまだそんなに時間は経っていないが、どれくらいかかるものなんだ?」
人目のつかない暗がり。逢引きにぴったりな場所で、ラウは美しい佳人を睨む。
上手く言いくるめてエリファレットに依頼を受けさせたことを、ラウは根に持っている。たまたまラウがアルセイーの都に行くと言うから話を持ちかけただけで、本来の依頼先は別にあったはずだ。百年に一度の機会だ。この機会を逃すミレイアではない。他の誰かが候補にいたのは間違いない。だからどうしてもエリファレットが行かねばならない理由などなかった。
「どうでしょうね。向こうとは時間の流れが違う可能性もありますから……でも戻ってこなかった人はいないので、心配する必要はないと思いますよ」
だからこそ、記録として残されているのだ。それはわかるが、愛しい者を案ずる気持ちはそれとは別物だ。
この女はそこをよく分かっていない。
無言で睨むと、気付いたミレイアが花のように笑う。
「本当にいい顔をするようになりましたね。人らしい感情が貴方にあるとわかって、私も安心しました」
エリファレットに会う前のラウ・ファン・アスとは、表情筋が仕事をしない無表情の男だった。水を湛えたように冷たく、凍った刃を纏うような雰囲気を持つ男だった。それが今はどうだろう。小さな銀狼一匹そばにいないだけで、この落ち着きのなさだ。
クスクスと鈴を転がしたように笑うミレイアにラウは嫌な顔をして、ふいっと横を向く。
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