死にたがりの狼は暁に目を覚ます

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 ディノクルーガーの森で蟲退治をする仕事は、定期的にラウの元に舞い込む仕事だ。依頼人に事情があり、ディノクルーガーの森での蟲退治はラウ専門の仕事だった。すでに片手では収まらない回数をこなしているため、ミレイアも詳しく話すことをしないし、ラウも尋ねることはない。いつものように契約書にサインして仕事の請負をする。

「連れて行くつもりですか?」

 契約書をしまったミレイアが、早々に追い出そうとしているラウに尋ねる。

 誰のことを指しているのかは、問い返すまでもない。

「あぁ」

 短く頷くと、ミレイアは花の顔を険しくさせた。

「連れて歩くのは危険ですよ」

「問題ない」

 道中何があったとしても、エリファレットは自分を守ることが出来る。見た目は可愛らしい少年のようでも、中身は戦闘力に優れた狼族だ。ラウが足を引っ張られることもない。

 きっぱりと言い切るラウに、ミレイアが軽く息をつく。

「狼族の身体能力と戦闘力の高さは知っています。私も道中のことは心配していません。ですが、銀狼を連れて歩くのは危険ですよ」

 二度目の言葉に、ラウはようやく彼女の言いたいことを知る。ラウが銀狼をそばに置いていると、噂が広まっている。銀狼の姿を知らなくても、ラウの隣にいるエリファレットが銀狼だと、同業者に狙われる危険がある。

「俺が目を離さなければいいだろう。置いて行くより安心だ」

 むしろ一人で残しておく方がよほど危ない。何よりラウは、エリファレットの中和がないと未だ体が上手く動かせない。依頼を遂行する上でも、エリファレットを置いて行く選択肢はない。

 話しは終わりだと、ラウは客間の扉を開けてミレイアに出るように促す。

 ミレイアは呆気に取られ、まるで奇異なものをみる目でラウを見ながら客間を出る。そして足元で蹲る銀色に気付いて足を止めた。

「あら!」

 扉のすぐそばで、狼の姿になったエリファレットが丸くなって眠っていた。わざわざ自分の布団を持ってきたのだろう。柔らかな毛布をクシャクシャにして、その上に丸くなって眠っている。よほど眠りが深いのか、二人が部屋から出てきても銀の腹が小さく上下して動かない。

「なんて可愛らしい……!」

 宣言通りラウを待っていたエリファレットに、ミレイアが小さく声を上げた。そそくさと近寄り、蹲み込んで手を伸ばす。

「起こすなよ」

 触り心地のよさそうな銀の被毛を撫でようとしていたミレイアの手が、上から鋭く落ちてきた声にピタリと止まる。

 顔を上げ、可憐で美しい顔を面白くなさそうに歪める。

「なんですか、さっきから……!」

 触ろうと思ったところを、一度ならずも二度も止めるとは。ふさふさの銀の毛を撫でたいと思うのは、銀狼を前にすれば当然の心理だ。あと少しで触れるというところで、二度も邪魔するとは腹立たしいことこの上ない。そんなに触られたくないと言うのか。

 彼女の真っ当な文句に、だがラウは意を介さず首を傾げた。

「何がだ?」

 きょとんとさえした表情に、ミレイアはイラっと青筋が立つのを感じた。

「無意識ですか……!」

 意図して止めたとしか思えないタイミングで声をかけるのだ。触られたくないと言わんばかりではないか。

「質が悪いですよ、貴方……」

 責めるように睨めつけるも、ラウには睨まれる理由が理解出来なくて柳眉を寄せる。

「だから何がだ?」

 ラウが重ねて問う。だがミレイアは軽く息をついて首を振り、立ち上がってエリファレットから離れる。

「その無意識のもの、ディノクルーガーの森に着く前に意識しないと、面倒事に繋がりますよ」

 ラウを一瞥した菫色の瞳は、冷ややかで呆れ果ててさえいた。

「どういう意味だ?」

 理解出来ないまま責められ困惑するラウに、だがミレイアはこれ以上言葉を継ぐつもりはないようだった。

「言っても理解しない人に説明する気はありません」

 ピシャリと言い放ち、ミレイアは玄関へと歩き出す。玄関の扉を開け、申し訳程度に後をついてきたラウを振り返る。

「ラウ、私忠告はしましたからね。くれぐれも蟲退治はよろしくお願いしますよ。刺されないように気を付けてください。では、失礼します」

 言いたいことだけ言うと、ミレイアはラウの言葉を待たずにピシャリと扉を閉めてしまった。ラウは彼女の言葉をよくよく咀嚼し、それでも不可解に首を傾げていた。
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