8 / 37
8
しおりを挟む
ディノクルーガーの森で蟲退治をする仕事は、定期的にラウの元に舞い込む仕事だ。依頼人に事情があり、ディノクルーガーの森での蟲退治はラウ専門の仕事だった。すでに片手では収まらない回数をこなしているため、ミレイアも詳しく話すことをしないし、ラウも尋ねることはない。いつものように契約書にサインして仕事の請負をする。
「連れて行くつもりですか?」
契約書をしまったミレイアが、早々に追い出そうとしているラウに尋ねる。
誰のことを指しているのかは、問い返すまでもない。
「あぁ」
短く頷くと、ミレイアは花の顔を険しくさせた。
「連れて歩くのは危険ですよ」
「問題ない」
道中何があったとしても、エリファレットは自分を守ることが出来る。見た目は可愛らしい少年のようでも、中身は戦闘力に優れた狼族だ。ラウが足を引っ張られることもない。
きっぱりと言い切るラウに、ミレイアが軽く息をつく。
「狼族の身体能力と戦闘力の高さは知っています。私も道中のことは心配していません。ですが、銀狼を連れて歩くのは危険ですよ」
二度目の言葉に、ラウはようやく彼女の言いたいことを知る。ラウが銀狼をそばに置いていると、噂が広まっている。銀狼の姿を知らなくても、ラウの隣にいるエリファレットが銀狼だと、同業者に狙われる危険がある。
「俺が目を離さなければいいだろう。置いて行くより安心だ」
むしろ一人で残しておく方がよほど危ない。何よりラウは、エリファレットの中和がないと未だ体が上手く動かせない。依頼を遂行する上でも、エリファレットを置いて行く選択肢はない。
話しは終わりだと、ラウは客間の扉を開けてミレイアに出るように促す。
ミレイアは呆気に取られ、まるで奇異なものをみる目でラウを見ながら客間を出る。そして足元で蹲る銀色に気付いて足を止めた。
「あら!」
扉のすぐそばで、狼の姿になったエリファレットが丸くなって眠っていた。わざわざ自分の布団を持ってきたのだろう。柔らかな毛布をクシャクシャにして、その上に丸くなって眠っている。よほど眠りが深いのか、二人が部屋から出てきても銀の腹が小さく上下して動かない。
「なんて可愛らしい……!」
宣言通りラウを待っていたエリファレットに、ミレイアが小さく声を上げた。そそくさと近寄り、蹲み込んで手を伸ばす。
「起こすなよ」
触り心地のよさそうな銀の被毛を撫でようとしていたミレイアの手が、上から鋭く落ちてきた声にピタリと止まる。
顔を上げ、可憐で美しい顔を面白くなさそうに歪める。
「なんですか、さっきから……!」
触ろうと思ったところを、一度ならずも二度も止めるとは。ふさふさの銀の毛を撫でたいと思うのは、銀狼を前にすれば当然の心理だ。あと少しで触れるというところで、二度も邪魔するとは腹立たしいことこの上ない。そんなに触られたくないと言うのか。
彼女の真っ当な文句に、だがラウは意を介さず首を傾げた。
「何がだ?」
きょとんとさえした表情に、ミレイアはイラっと青筋が立つのを感じた。
「無意識ですか……!」
意図して止めたとしか思えないタイミングで声をかけるのだ。触られたくないと言わんばかりではないか。
「質が悪いですよ、貴方……」
責めるように睨めつけるも、ラウには睨まれる理由が理解出来なくて柳眉を寄せる。
「だから何がだ?」
ラウが重ねて問う。だがミレイアは軽く息をついて首を振り、立ち上がってエリファレットから離れる。
「その無意識のもの、ディノクルーガーの森に着く前に意識しないと、面倒事に繋がりますよ」
ラウを一瞥した菫色の瞳は、冷ややかで呆れ果ててさえいた。
「どういう意味だ?」
理解出来ないまま責められ困惑するラウに、だがミレイアはこれ以上言葉を継ぐつもりはないようだった。
「言っても理解しない人に説明する気はありません」
ピシャリと言い放ち、ミレイアは玄関へと歩き出す。玄関の扉を開け、申し訳程度に後をついてきたラウを振り返る。
「ラウ、私忠告はしましたからね。くれぐれも蟲退治はよろしくお願いしますよ。刺されないように気を付けてください。では、失礼します」
言いたいことだけ言うと、ミレイアはラウの言葉を待たずにピシャリと扉を閉めてしまった。ラウは彼女の言葉をよくよく咀嚼し、それでも不可解に首を傾げていた。
「連れて行くつもりですか?」
契約書をしまったミレイアが、早々に追い出そうとしているラウに尋ねる。
誰のことを指しているのかは、問い返すまでもない。
「あぁ」
短く頷くと、ミレイアは花の顔を険しくさせた。
「連れて歩くのは危険ですよ」
「問題ない」
道中何があったとしても、エリファレットは自分を守ることが出来る。見た目は可愛らしい少年のようでも、中身は戦闘力に優れた狼族だ。ラウが足を引っ張られることもない。
きっぱりと言い切るラウに、ミレイアが軽く息をつく。
「狼族の身体能力と戦闘力の高さは知っています。私も道中のことは心配していません。ですが、銀狼を連れて歩くのは危険ですよ」
二度目の言葉に、ラウはようやく彼女の言いたいことを知る。ラウが銀狼をそばに置いていると、噂が広まっている。銀狼の姿を知らなくても、ラウの隣にいるエリファレットが銀狼だと、同業者に狙われる危険がある。
「俺が目を離さなければいいだろう。置いて行くより安心だ」
むしろ一人で残しておく方がよほど危ない。何よりラウは、エリファレットの中和がないと未だ体が上手く動かせない。依頼を遂行する上でも、エリファレットを置いて行く選択肢はない。
話しは終わりだと、ラウは客間の扉を開けてミレイアに出るように促す。
ミレイアは呆気に取られ、まるで奇異なものをみる目でラウを見ながら客間を出る。そして足元で蹲る銀色に気付いて足を止めた。
「あら!」
扉のすぐそばで、狼の姿になったエリファレットが丸くなって眠っていた。わざわざ自分の布団を持ってきたのだろう。柔らかな毛布をクシャクシャにして、その上に丸くなって眠っている。よほど眠りが深いのか、二人が部屋から出てきても銀の腹が小さく上下して動かない。
「なんて可愛らしい……!」
宣言通りラウを待っていたエリファレットに、ミレイアが小さく声を上げた。そそくさと近寄り、蹲み込んで手を伸ばす。
「起こすなよ」
触り心地のよさそうな銀の被毛を撫でようとしていたミレイアの手が、上から鋭く落ちてきた声にピタリと止まる。
顔を上げ、可憐で美しい顔を面白くなさそうに歪める。
「なんですか、さっきから……!」
触ろうと思ったところを、一度ならずも二度も止めるとは。ふさふさの銀の毛を撫でたいと思うのは、銀狼を前にすれば当然の心理だ。あと少しで触れるというところで、二度も邪魔するとは腹立たしいことこの上ない。そんなに触られたくないと言うのか。
彼女の真っ当な文句に、だがラウは意を介さず首を傾げた。
「何がだ?」
きょとんとさえした表情に、ミレイアはイラっと青筋が立つのを感じた。
「無意識ですか……!」
意図して止めたとしか思えないタイミングで声をかけるのだ。触られたくないと言わんばかりではないか。
「質が悪いですよ、貴方……」
責めるように睨めつけるも、ラウには睨まれる理由が理解出来なくて柳眉を寄せる。
「だから何がだ?」
ラウが重ねて問う。だがミレイアは軽く息をついて首を振り、立ち上がってエリファレットから離れる。
「その無意識のもの、ディノクルーガーの森に着く前に意識しないと、面倒事に繋がりますよ」
ラウを一瞥した菫色の瞳は、冷ややかで呆れ果ててさえいた。
「どういう意味だ?」
理解出来ないまま責められ困惑するラウに、だがミレイアはこれ以上言葉を継ぐつもりはないようだった。
「言っても理解しない人に説明する気はありません」
ピシャリと言い放ち、ミレイアは玄関へと歩き出す。玄関の扉を開け、申し訳程度に後をついてきたラウを振り返る。
「ラウ、私忠告はしましたからね。くれぐれも蟲退治はよろしくお願いしますよ。刺されないように気を付けてください。では、失礼します」
言いたいことだけ言うと、ミレイアはラウの言葉を待たずにピシャリと扉を閉めてしまった。ラウは彼女の言葉をよくよく咀嚼し、それでも不可解に首を傾げていた。
1
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる