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ファム・ファタール
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しおりを挟むでも、いくら目をそらしたところで、「現実」はいつもそこにある。
「あまりにも成績が悪いと大学を退学してもらうことになるぞ」なんてルエさんにも脅されたけれど、どう考えても授業についていける気がしない。小テストですらまともに解けない。一応シェバさんにも勉強は教えてもらっていたけれど、そもそも私は基礎の基礎から空っぽなのだ。ちょっと勉強したところで追いつくわけがない。
だからもっともっと勉強が必要だし、そもそも誰かにつきっきりで基礎の「き」の書き方から教えてもらわないと成績なんか絶対にあがらない。
けれども、これ以上シェバさんに迷惑をかける気にもなれなかった。
申し訳ないというのもあるけれど、一番の理由はシェバさんに嫌われたくなかった…それだけ。私は本当に物覚えが悪いし、なにか新しいことを理解することがすごく苦手だ。たぶんそういう人間って、勉強を教える側からしてもすごくムカつくのだと思う。個人指導塾の人にも、家庭教師の先生にもしかめっ面で「なんで?」と言われ続けた。なんで覚えられないの?なんでそんなことも理解できないの?etc…
シェバさんだったら態度には出さないと思う。でもさ、やっぱり…イライラされるのはちょっと辛いじゃん?今までだって迷惑はかけてて、すんごいストレス源になってるだろうに+でイライラって…。
でもだからって他にあてもない。友達もいないし。
それでどうしよっかなぁ…って思ってたら、たまたま見つけた「勉強サークル」の文字。図書館の奥の奥、こんなところに人が来るのかなってところにそのポスターは貼られていた。
手作り感がすごいそのポスターには、綺麗ではないけれど製作者の几帳面さがにじみ出る文字で「活動場所」として「ここの下」と書いてある。
「…ここの下?」
下ってなんだろう。図書館に地下なんてあったかな…なんて首をかしげていると、「すみません」と声をかけられた。
普段は内容を聞き取るのに必死で、声の綺麗さなんて少しも気にしてない私が、思わず「綺麗だな」と思うような声で。ハープのような透明感がありながらも、しっとりと濡れたような甘さのある声。
「その…なにかお困りですか?」
声の主は、度のキツい丸眼鏡とウェーブがかかった長めの前髪が印象的な子だった。こっちの世界の人にしては珍しいシンプルな黒髪で、それと眼鏡のせいか随分真面目そうな印象を受ける。
「その…」
「あ、えっと、あの…すみません。勉強サークルってどこでやってるかご存知ですか…?その、ポスターには<ここの下>でやってるって書いてあるのですが…」
「え、え、え!?その、もしかして、そのサークルにご興味が…!?」
「え?…は、はい…」
突然裏返った美声に動揺しつつも首を縦にふると、その子の病的な程に白かった頬に赤みが差していく。こころなしか、キラキラのエフェクトがその子の周りに浮かんでいるような気さえする。
もしかしてだが、この子はこのサークルの…
「待ってました…!!ずっと!ずっと!」
そう叫んだかと思うと、その子はすごいスピードで本棚の本を動かし始める。
そして、本を動かすその手が止まると同時に、ゴゴゴゴゴ…という低い重低音と共に本棚が割れ、その下に地下へとつながる階段が出現した。
「え…!?」
映画でしか見たことのないような光景に呆然としていると、「さぁ!」言われて笑顔で頷かれる。
いや、頷かれても…
「ようこそ、僕のサークルへ!」
その日から、私はその子__エルちゃんの途轍もないラブコールと熱意もあって、勉強サークルに所属することになったのだった。
そんなエルちゃんは一緒にいて安心できる子だった。よくわからないけど不思議と落ち着く。
最初こそ押しが強くてびっくりしたけど、あれは本当に最初だけだった。たぶんサークルに入ってほしくて必死だっただけ。
エルちゃんは基本的には、大人しくて穏やかで真面目で滅多に怒ったりしない、典型的ないい子。日本にいた頃もこういうタイプの子とは比較的仲良くできてた…と思う。あっちがどう思ってたかはわからないけど。
でもたぶん、ここまで「勉強大好き!」な子も、ここまで可愛い子もあんまりいなかったと思う。あんまり…というかたぶんいなかった。
そう、分厚い眼鏡と長い前髪のせいで隠れちゃってるけど、実はエルちゃんはめちゃくちゃかわいいのだ。それが判明したのは結構最近のことで…
「かわいい…」
「えっ」
なんとなく思い付きでエルちゃんの眼鏡と前髪を顔からどかしてもらった時、私は正直ドン引きした。可愛すぎて。
本当の本当に可愛かったのだ。こんなに可愛い子は見たことないってぐらいに可愛い。鈴蘭のような可憐さと、白百合のような清純さと、彼岸花のような危険な色香を併せ持っている__こういう子を魔性って言うんだろうなっていう可愛さ。
「こんなことって本当にあるんだ…」
正直、「眼鏡を外したらとんでもない美少女に…!」と言うのは少女漫画の世界のヒロインにのみ起こる現象で、現実で起こるとは思っていなかった。
「あの…」
「いや、本当にかわいいよ。すごい。かわいすぎる」
「ああ…その…ありがとうございます…」
語彙力を失ってただ「かわいい」を連呼する私に、エルちゃんは照れつつちょっとひいていた。そしてなにより困っていた。
しばらくそのかわいい困り顔を堪能した後、眼鏡を返すといそいそとエルちゃんは眼鏡をかけ直して前髪も元に戻していた。その後しばらくして遠回しに「眼鏡を外した方が似合うのか?」と聞かれたけど、私は優しくないので「そんなことないんじゃない?」と答えておいた。
本当は眼鏡は外したほうが絶対に可愛いし、前髪も切った方がいいと思うけどさ。でも、個人的に眼鏡をつけている姿は…なんか落ち着くから結構好きだし、それにこの可愛さがバレたら絶対に周りがますますエルちゃんを放っておかなくなるだろうからそれはちょっとイヤだなって。
まぁ、もともとエルちゃんは人気者だからあんまり関係ないかもだけど。実際、同じ学年で授業でも結構会うけどエルちゃんはいつも誰かしらに囲まれているから、結局サークル以外で話す機会はあんまりないし。でも、もっとエルちゃんが人気になっちゃって、サークルですら話せなくなっちゃったら寂しいじゃん。
それに…いや、これは性格があまりにも悪すぎるから秘密。
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