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フリージア
私は誰?
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「…ア。…ジア。」
誰かが呼んでいる声が聞こえる…。
「フリージア!」
フリージア?誰のこと?…わたしは確か、階段から落ちて…
だめだ。頭にもやがかかった様に、記憶が曖昧だ。
わたしは眠っていたの?それとも眠っているの?
「フリージア!」
肩を掴まれ、ハッとして振り返ると、そこにいたのは黒地に朱色のレースがあしらわれたシックなドレスを身に纏っている婦人が、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「え…あ…お母…様?」
なぜこの人を母親だと思ったのだろう…私は.私の名前は…。
フリージア。そうだわ。私はフリージアで今、目の前にいらっしゃるのはお母様じゃない。
「フリージア。こんなところでうたた寝をするなんて、よほど今日のローマン先生のご指導は厳しかったようね。」
そう、もうすぐお城で開かれる舞踏会に向けて、ローマン先生のもとでダンスのステップとマナーを習った後だったわ。妹のリリアとエラも一緒だった。
「お姉さまったら。今日はいつもと違ってぼんやりなさっていたものだから、先生の足を何度も踏んで
注意を受けていましたわ。当日は私たちに恥をかかせないでいただきたいわ。」
そう冷たく言い放ったのは次女のリリアだ。
リリアは人一倍の努力家で、運動神経も要領も良く、ダンスは完璧だった。
「明日は王妃様とご一緒にシアン王子も出席なさるそうよ。はじめて社交の場に出られると伺っているけれど、大舞踏会前に花嫁候補を絞る為じゃないかって、ルイズ侯爵家のお茶会で噂になっていたわ。」
お母様はソファにもたれて紅茶の入ったカップを持ちながら、すこし心配そうに私達を交互に見た。
「フリージアはスタイルがいいし、愛嬌がある。リリアはしっかりしていて努力家。良いところは沢山あるけれど…父親に似て顔が地味なのが問題なのよね。どうしたら王子に見染められるかしら…」
お母様は本棚の整理をしている三女のエラに目をやった。
エラは小柄できゃしゃな体に、キレイなブロンドの髪。瞳はぱっちりとしていて、誰から見ても目を惹く美しさだ。
(あの容姿なら、貴族の息子達は放っておかないだろう…あるいは王子も…)
お母様は、小さくそう呟いた。
お母様は一昨年再婚なされて、エラは義父の連れ子
なのだ。くっきりした目鼻立ちは母親ゆずりなのだろう。その美貌から恋多き女と噂されたエラの母親は、異国の皇族と恋仲となり、エラと夫を置いて出て行ったらしい。
エラの母親とは女学院で一緒だったというお母様は、エラの母親をとても嫌っていたので、再婚してこの屋敷にきて初めて、エラが彼女の娘だと気づいた瞬間から嫌悪している様子だ。
「お義母様。舞踏会には私も参加させて頂けるでしょうか?」
整理している本をいくつか抱えたまま、エラがお母様に近づいて、囁く様な綺麗な声で質問すると、お母様は、目尻に皺を寄せて目を細め、一瞥して小さくため息をついた。
「今度の舞踏会は仮面舞踏会です。エラ。貴方の唯一の取柄である顔が隠されてしまうんじゃあ、だれからもダンスに誘われはしないでしょう。行かない方が身のためじゃないかしら。」
皮肉たっぷりに言った言葉がエラを傷つけることは無く、エラは自信に満ちた面持ちでスカートの裾を上げて会釈し、
「舞踏会への参加を許可してくださりありがとうございます。お義母様♡」
そう言って自室に戻って行った。
誰かが呼んでいる声が聞こえる…。
「フリージア!」
フリージア?誰のこと?…わたしは確か、階段から落ちて…
だめだ。頭にもやがかかった様に、記憶が曖昧だ。
わたしは眠っていたの?それとも眠っているの?
「フリージア!」
肩を掴まれ、ハッとして振り返ると、そこにいたのは黒地に朱色のレースがあしらわれたシックなドレスを身に纏っている婦人が、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「え…あ…お母…様?」
なぜこの人を母親だと思ったのだろう…私は.私の名前は…。
フリージア。そうだわ。私はフリージアで今、目の前にいらっしゃるのはお母様じゃない。
「フリージア。こんなところでうたた寝をするなんて、よほど今日のローマン先生のご指導は厳しかったようね。」
そう、もうすぐお城で開かれる舞踏会に向けて、ローマン先生のもとでダンスのステップとマナーを習った後だったわ。妹のリリアとエラも一緒だった。
「お姉さまったら。今日はいつもと違ってぼんやりなさっていたものだから、先生の足を何度も踏んで
注意を受けていましたわ。当日は私たちに恥をかかせないでいただきたいわ。」
そう冷たく言い放ったのは次女のリリアだ。
リリアは人一倍の努力家で、運動神経も要領も良く、ダンスは完璧だった。
「明日は王妃様とご一緒にシアン王子も出席なさるそうよ。はじめて社交の場に出られると伺っているけれど、大舞踏会前に花嫁候補を絞る為じゃないかって、ルイズ侯爵家のお茶会で噂になっていたわ。」
お母様はソファにもたれて紅茶の入ったカップを持ちながら、すこし心配そうに私達を交互に見た。
「フリージアはスタイルがいいし、愛嬌がある。リリアはしっかりしていて努力家。良いところは沢山あるけれど…父親に似て顔が地味なのが問題なのよね。どうしたら王子に見染められるかしら…」
お母様は本棚の整理をしている三女のエラに目をやった。
エラは小柄できゃしゃな体に、キレイなブロンドの髪。瞳はぱっちりとしていて、誰から見ても目を惹く美しさだ。
(あの容姿なら、貴族の息子達は放っておかないだろう…あるいは王子も…)
お母様は、小さくそう呟いた。
お母様は一昨年再婚なされて、エラは義父の連れ子
なのだ。くっきりした目鼻立ちは母親ゆずりなのだろう。その美貌から恋多き女と噂されたエラの母親は、異国の皇族と恋仲となり、エラと夫を置いて出て行ったらしい。
エラの母親とは女学院で一緒だったというお母様は、エラの母親をとても嫌っていたので、再婚してこの屋敷にきて初めて、エラが彼女の娘だと気づいた瞬間から嫌悪している様子だ。
「お義母様。舞踏会には私も参加させて頂けるでしょうか?」
整理している本をいくつか抱えたまま、エラがお母様に近づいて、囁く様な綺麗な声で質問すると、お母様は、目尻に皺を寄せて目を細め、一瞥して小さくため息をついた。
「今度の舞踏会は仮面舞踏会です。エラ。貴方の唯一の取柄である顔が隠されてしまうんじゃあ、だれからもダンスに誘われはしないでしょう。行かない方が身のためじゃないかしら。」
皮肉たっぷりに言った言葉がエラを傷つけることは無く、エラは自信に満ちた面持ちでスカートの裾を上げて会釈し、
「舞踏会への参加を許可してくださりありがとうございます。お義母様♡」
そう言って自室に戻って行った。
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