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2話「真っ白な過去」
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2話「真っ白な過去」
青年のような彼は、それから毎日会いにきた。
仕事が終わり、1人とぼとぼと歩いていると先日告白された公園からひょっこりと出てきて、「お疲れ様です、しずく先生。」と呼ぶのだ。
そして、案の定今日も・・・。
「お疲れ様です。しずく先生。」
「・・・今日もいたのね。」
「もちろんです。」
満面の笑みでしずくの前に立つ男を、ちらりと見つめた。しずくも女にしては背が高く167センチある。だが、目の前の彼はそれをはるかに超えていた。180センチぐらいだろうか。
「179センチですよ。」
「・・・何も言ってないけど。」
「しずく先生は?」
「・・・167センチ。」
「なるほどなるほど。」
彼は、しずくの事を知れたのが嬉しいのか「167センチかー。」とブツブツ呟きながら、しずくを笑顔で見ていた。
この調子で、どんなにしずくが冷たい態度をとっても、彼は決して諦めなかった。置いていこうと早足で歩いても、隣にぴったりと寄って歩くし、無言で通してもずっとしゃべり通していた。
それが1週間続いた。
「しずく先生!」
「・・・先生で呼ぶの止めて。」
「んー、ずっと先生って呼んでたし。」
「ずっとって、たった1週間じゃない。」
「違うよ。ずっとだよ。」
「・・・? 」
何が駄目だったのか、彼はそれを強調して言った。ずっとというのはいつからなのだろうか。彼は、いつ私と知り合ったのか、そんなことをしずくは考えてしまう。
彼はいつから、しずく先生と呼び続けてくれていたのか。
それを聞こうと口を開けようとすると、その前に彼が何か思いついたのか「あっ!」と声を上げた。
「じゃあ、僕を名前で呼んでくれたら、しずく先生って呼ぶの止めようかな。」
「・・・そういえば、名前聞いてなかった。」
帰り道の20分ぐらいだが、1週間も一緒だったのに名前も知らなかった事に、しずくは言われてやっと気づいたのだった。自分がいかに逃げる事だけを考えていたのか、と思うと何故か申し訳ない気持ちになった。
彼は一生懸命行動してくれているのに、さすがに名前も知らないのは失礼だろう。
「ごめんなさい。名前も聞かずに。」
「ううん。僕も必死になりすぎてて忘れてたから。大丈夫。」
赤らめた頬を指で書きながら「名前は忘れちゃ駄目ですよねー。」と言い笑う彼は、やはり少年のようだった。顔だけ見れば本当に少年だが、身長やスタイル、服装を見ればどこを見ても成人男性なのだ。
初めて会った日に間違った自分が信じられないと思い、しずくは彼をこっそりと眺めた。
「僕の名前は、羽衣石白です。」
「ういし・・・変わった苗字ね。」
「つゆりも変わってます。」
「確かにそうね。漢字はどう書くの? 」
しずくが質問をすると、白は空に指で字を書きながら「羽の衣の石です。はくは、白ですよ。」と教えてくれた。
しずくは、教えられた漢字を頭で想像していくと、何故かある物が頭の中に浮かんだのだった。
「天使、ううん、妖精みたいな名前ね。」
「え・・・?」
白はすごく驚いた顔をして、しずくの顔をまじまじと見ていた。その驚きようが想像以上だったのでしずくは、また何か間違った事を言ったのではないかと思ってしまった。
「ごめんなさい! あの白い羽に衣、そして石は宝石なのかなーって想像したら何故か妖精が頭に浮かんで。男の人に妖精なんておかしかったね。」
焦りを隠せないまま、早口で謝罪を言い訳をするが、その言葉を聞くとさらに彼の目は大きく見開いていた。だが、しずくの言葉が終わる頃には口元には微笑みが見えたため、しずくは少しだけ安心した。
「あ、すいません。なんだか、嬉しくて。」
「・・・なんで喜んでいるの?」
「いやー、それは俺の憧れでもあるので。そっかー、妖精みたいな名前かー。」
「・・・?」
しずくにはどうしてそんなにも嬉しいのか理解出来なかったが、それからいつも送って貰う最寄の駅まで、白はいつもよりハイテンションで話をしつづけたのだった。
だかその次の日。
しずくに事件が起きた。
「おはようございます。」
職場の保育園に着き、更衣室に入ると先に後輩がいた。いつものように返事が返ってくると思いきや、今日は違った。
「しずく先輩。私、見ちゃいましたよー。」
にやりとした後輩の企んだ笑みに、しずくは後ずさりしそうになるが、後輩はそれさえも逃さずに、すぐに「それはー。」と話の続きを始めた。噂好きの後輩だ、もう逃げられないと悟りしずくは大人しく話しを聞くことにした。
「昨日、男の人と一緒に帰ってましたよね?」
「え・・・・!!?」
「仲よさそうに話しているの見ちゃったんですけどー。彼氏いないっていつも言ってたの嘘だったんですねー。ずるいですよー。」
「・・・・。」
ニヤニヤしながら話す後輩だが、しずくはそんな事もおかまいなしに頭の中は「見られたー!」という焦りで動揺しまくっていたのだ。
どうやって誤魔化そうかとも考えたが、話しをしているところを見られてしまっては、人違いと言っても通じないだろう。しかも、保育園から少し離れた場所とはいえど誰が見ているかはわからないのだ。
悪いことをしてるわけでもないのに、焦ってしまうのは、こういう経験がないからなのだろう。しずくは、男性と付き合うという恋愛経験がほとんどないのだ。
「しずく先輩?」
「・・・あれは彼氏でも友達でもないから!だから、忘れて!わかっった?」
「えー。そうなんですか、じゃあ誰・・・。」
「忘れてッ!」
「わ、わかりました。」
しずくのあまりの勢いに圧倒されたせいか、その後輩はその話題をそこで止めてくれたが、しずくの頭の中は白の事でいっぱいになって仕事に集中できない1日になってしまったのだった。
「と、いう事で、もうここで待ち伏せするのはやめてください!」
「あなたじゃなくて、名前で呼んでください。」
「・・・・白くん。」
「呼び捨てでよかったんですけどねー。」
「そこじゃなくて!」
仕事が終わると残業もせずに、しずくは白が待っているだろう公園へ急いだ。もちろん、彼がおり「お疲れ様です。今日は早かったですねー。」と、ブンブンと手を振ってしずくを迎えた。
だが開口一番に職場の人に目撃された事を話し、もう止めるように強めに話したつもりが、彼には全く通じてないようだ。
「別に悪い交際してるわけじゃないんだから、いいじゃないですか。」
「仕事柄、保護者に見られたら噂になったりすると困るでしょ。」
「彼氏いて幸せなほうがいいと思います。」
「そういう事じゃなくて。というか、彼氏じゃないでしょ!」
「・・・僕は、諦めませんよ。」
白はそういうと、いつものニコニコした顔から一変、真剣な表情にもなった。それは、少し怒りが入っており、いつもな少年の彼が初めて大人の男の顔をした瞬間だった。
その変化にしずくは強く言えずに、黙ってしまう、白は自分をいつもの自分を取り戻したかのように、はっ、となりいつもの微笑みを見せた。
「では、こういうのはどうですか?しずくさんが、僕の事を思い出してくれたら止めます。」
「え・・・。」
「しずくさん、まだ僕が誰かわからないんですよね?僕も昔を思い出して欲しいので。もし思い出してくれたら嬉しいなーって。それまで俺は好きになってもらうように頑張ります。」
そう言いながらも「思い出したら終わりってのも切ないですけどねー。」なんて笑いながらも、その約束を変えるつもりはないらしい。
しずくは、その約束を受けることにした。
彼がどうして自分を思ってくれるのか。彼はいつの私を見て恋をしているのか。私はいつ白に出会っているのか。
それは全て過去の記憶を思い出せば解決するのではないかと、しずくは考えたのだ。
会ったばかりの男性に一目惚れをするタイプでもないし、変わった出会いをしたからといって「運命の恋」と夢を見て恋愛をするタイプではないのだ。
もう長いこと「好き」という感情を感じていないしずくにとって、彼と接していても「恋愛」に結びつくものがないのだ。
彼はどうして自分に告白してくれたのか。思い出せないぐらい昔の記憶に恋をしているだけではないか。
しずくは、白の気持ちを正直に受け取れないのだった。
白と離れた帰り道。
頭の中はぐじゃぐじゃに混乱しており家に着く頃には、いつもより疲労感を感じた。だが、しずくは白との過去を知ることが何よりも近道となると思い、重たい身体に鞭うちながら家のクローゼットを開けた。
奥底にある10年分の卒園アルバムを引っ張り出してきたのだ。
もちろん目的は、羽衣石白の昔を見つけるためだ。1冊1冊、丁寧に彼の名前や彼の面影を頭に浮かべながら写真を見ていく。
10冊を2回ずつみて、自分の幼稚園や小学校、中学校に高校、大学のアルバムまでも目を通したが、彼の名前や写真は1枚も出てこなかった。
次の日、職場の先輩にも「羽衣石白」という卒園児はいたかを聞いてみたが、誰も知っている先生はいなかった。
しずくは、思いつく全ての方法で白の過去を探したが、彼を見つけることは出来なかったのだった。
青年のような彼は、それから毎日会いにきた。
仕事が終わり、1人とぼとぼと歩いていると先日告白された公園からひょっこりと出てきて、「お疲れ様です、しずく先生。」と呼ぶのだ。
そして、案の定今日も・・・。
「お疲れ様です。しずく先生。」
「・・・今日もいたのね。」
「もちろんです。」
満面の笑みでしずくの前に立つ男を、ちらりと見つめた。しずくも女にしては背が高く167センチある。だが、目の前の彼はそれをはるかに超えていた。180センチぐらいだろうか。
「179センチですよ。」
「・・・何も言ってないけど。」
「しずく先生は?」
「・・・167センチ。」
「なるほどなるほど。」
彼は、しずくの事を知れたのが嬉しいのか「167センチかー。」とブツブツ呟きながら、しずくを笑顔で見ていた。
この調子で、どんなにしずくが冷たい態度をとっても、彼は決して諦めなかった。置いていこうと早足で歩いても、隣にぴったりと寄って歩くし、無言で通してもずっとしゃべり通していた。
それが1週間続いた。
「しずく先生!」
「・・・先生で呼ぶの止めて。」
「んー、ずっと先生って呼んでたし。」
「ずっとって、たった1週間じゃない。」
「違うよ。ずっとだよ。」
「・・・? 」
何が駄目だったのか、彼はそれを強調して言った。ずっとというのはいつからなのだろうか。彼は、いつ私と知り合ったのか、そんなことをしずくは考えてしまう。
彼はいつから、しずく先生と呼び続けてくれていたのか。
それを聞こうと口を開けようとすると、その前に彼が何か思いついたのか「あっ!」と声を上げた。
「じゃあ、僕を名前で呼んでくれたら、しずく先生って呼ぶの止めようかな。」
「・・・そういえば、名前聞いてなかった。」
帰り道の20分ぐらいだが、1週間も一緒だったのに名前も知らなかった事に、しずくは言われてやっと気づいたのだった。自分がいかに逃げる事だけを考えていたのか、と思うと何故か申し訳ない気持ちになった。
彼は一生懸命行動してくれているのに、さすがに名前も知らないのは失礼だろう。
「ごめんなさい。名前も聞かずに。」
「ううん。僕も必死になりすぎてて忘れてたから。大丈夫。」
赤らめた頬を指で書きながら「名前は忘れちゃ駄目ですよねー。」と言い笑う彼は、やはり少年のようだった。顔だけ見れば本当に少年だが、身長やスタイル、服装を見ればどこを見ても成人男性なのだ。
初めて会った日に間違った自分が信じられないと思い、しずくは彼をこっそりと眺めた。
「僕の名前は、羽衣石白です。」
「ういし・・・変わった苗字ね。」
「つゆりも変わってます。」
「確かにそうね。漢字はどう書くの? 」
しずくが質問をすると、白は空に指で字を書きながら「羽の衣の石です。はくは、白ですよ。」と教えてくれた。
しずくは、教えられた漢字を頭で想像していくと、何故かある物が頭の中に浮かんだのだった。
「天使、ううん、妖精みたいな名前ね。」
「え・・・?」
白はすごく驚いた顔をして、しずくの顔をまじまじと見ていた。その驚きようが想像以上だったのでしずくは、また何か間違った事を言ったのではないかと思ってしまった。
「ごめんなさい! あの白い羽に衣、そして石は宝石なのかなーって想像したら何故か妖精が頭に浮かんで。男の人に妖精なんておかしかったね。」
焦りを隠せないまま、早口で謝罪を言い訳をするが、その言葉を聞くとさらに彼の目は大きく見開いていた。だが、しずくの言葉が終わる頃には口元には微笑みが見えたため、しずくは少しだけ安心した。
「あ、すいません。なんだか、嬉しくて。」
「・・・なんで喜んでいるの?」
「いやー、それは俺の憧れでもあるので。そっかー、妖精みたいな名前かー。」
「・・・?」
しずくにはどうしてそんなにも嬉しいのか理解出来なかったが、それからいつも送って貰う最寄の駅まで、白はいつもよりハイテンションで話をしつづけたのだった。
だかその次の日。
しずくに事件が起きた。
「おはようございます。」
職場の保育園に着き、更衣室に入ると先に後輩がいた。いつものように返事が返ってくると思いきや、今日は違った。
「しずく先輩。私、見ちゃいましたよー。」
にやりとした後輩の企んだ笑みに、しずくは後ずさりしそうになるが、後輩はそれさえも逃さずに、すぐに「それはー。」と話の続きを始めた。噂好きの後輩だ、もう逃げられないと悟りしずくは大人しく話しを聞くことにした。
「昨日、男の人と一緒に帰ってましたよね?」
「え・・・・!!?」
「仲よさそうに話しているの見ちゃったんですけどー。彼氏いないっていつも言ってたの嘘だったんですねー。ずるいですよー。」
「・・・・。」
ニヤニヤしながら話す後輩だが、しずくはそんな事もおかまいなしに頭の中は「見られたー!」という焦りで動揺しまくっていたのだ。
どうやって誤魔化そうかとも考えたが、話しをしているところを見られてしまっては、人違いと言っても通じないだろう。しかも、保育園から少し離れた場所とはいえど誰が見ているかはわからないのだ。
悪いことをしてるわけでもないのに、焦ってしまうのは、こういう経験がないからなのだろう。しずくは、男性と付き合うという恋愛経験がほとんどないのだ。
「しずく先輩?」
「・・・あれは彼氏でも友達でもないから!だから、忘れて!わかっった?」
「えー。そうなんですか、じゃあ誰・・・。」
「忘れてッ!」
「わ、わかりました。」
しずくのあまりの勢いに圧倒されたせいか、その後輩はその話題をそこで止めてくれたが、しずくの頭の中は白の事でいっぱいになって仕事に集中できない1日になってしまったのだった。
「と、いう事で、もうここで待ち伏せするのはやめてください!」
「あなたじゃなくて、名前で呼んでください。」
「・・・・白くん。」
「呼び捨てでよかったんですけどねー。」
「そこじゃなくて!」
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だが開口一番に職場の人に目撃された事を話し、もう止めるように強めに話したつもりが、彼には全く通じてないようだ。
「別に悪い交際してるわけじゃないんだから、いいじゃないですか。」
「仕事柄、保護者に見られたら噂になったりすると困るでしょ。」
「彼氏いて幸せなほうがいいと思います。」
「そういう事じゃなくて。というか、彼氏じゃないでしょ!」
「・・・僕は、諦めませんよ。」
白はそういうと、いつものニコニコした顔から一変、真剣な表情にもなった。それは、少し怒りが入っており、いつもな少年の彼が初めて大人の男の顔をした瞬間だった。
その変化にしずくは強く言えずに、黙ってしまう、白は自分をいつもの自分を取り戻したかのように、はっ、となりいつもの微笑みを見せた。
「では、こういうのはどうですか?しずくさんが、僕の事を思い出してくれたら止めます。」
「え・・・。」
「しずくさん、まだ僕が誰かわからないんですよね?僕も昔を思い出して欲しいので。もし思い出してくれたら嬉しいなーって。それまで俺は好きになってもらうように頑張ります。」
そう言いながらも「思い出したら終わりってのも切ないですけどねー。」なんて笑いながらも、その約束を変えるつもりはないらしい。
しずくは、その約束を受けることにした。
彼がどうして自分を思ってくれるのか。彼はいつの私を見て恋をしているのか。私はいつ白に出会っているのか。
それは全て過去の記憶を思い出せば解決するのではないかと、しずくは考えたのだ。
会ったばかりの男性に一目惚れをするタイプでもないし、変わった出会いをしたからといって「運命の恋」と夢を見て恋愛をするタイプではないのだ。
もう長いこと「好き」という感情を感じていないしずくにとって、彼と接していても「恋愛」に結びつくものがないのだ。
彼はどうして自分に告白してくれたのか。思い出せないぐらい昔の記憶に恋をしているだけではないか。
しずくは、白の気持ちを正直に受け取れないのだった。
白と離れた帰り道。
頭の中はぐじゃぐじゃに混乱しており家に着く頃には、いつもより疲労感を感じた。だが、しずくは白との過去を知ることが何よりも近道となると思い、重たい身体に鞭うちながら家のクローゼットを開けた。
奥底にある10年分の卒園アルバムを引っ張り出してきたのだ。
もちろん目的は、羽衣石白の昔を見つけるためだ。1冊1冊、丁寧に彼の名前や彼の面影を頭に浮かべながら写真を見ていく。
10冊を2回ずつみて、自分の幼稚園や小学校、中学校に高校、大学のアルバムまでも目を通したが、彼の名前や写真は1枚も出てこなかった。
次の日、職場の先輩にも「羽衣石白」という卒園児はいたかを聞いてみたが、誰も知っている先生はいなかった。
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