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「ほたるさんがいなかったら、陰陽師にお願いして式神で私とそっくりの人をつくって逃げようかと思ってました。でも、こうやってほたるさんと一緒になれてよかったです」
「う、うん。陰陽師に式神って何の話?」
「花霞さん、ごめんなさい。透碧は綺麗だし普通の子に見えるんだけど、中身は妖怪とか都市伝説とか好きな変わり者なんだ」
「婚約者の説明が変わり者なんて、おかしいですよ、ほたるさん」
「ふふふ。でも、本当に仲良しさんになってくれてよかったわ」
「ありがとうございます。花霞さん。花霞さんが助けてくれていなかったら、こんな結末になっていなかったと思います」
「そんな事ないよ。2人が互いに同じ気持ちで惹かれ合ってた。婚約は必然だと思うよ」
「……ありがとう」
花霞の言葉に感動して思わず涙ぐんでしまう透碧の肩をポンポンと優しく叩き、蛍は彼女にお礼を伝えた。
この日は花霞のお店を貸切でブーケを作ってもらうことになったのだ。
無事に透碧と蛍が婚約したと伝えると、花霞はとても喜び、泣きながら「よかったねよかったね」と祝福してくれた。花霞の手料理を食べた後に、2人のリクエストを聞いて花霞はブーケを作った。
オーダーは「冬のダイヤモンド」だった。2人の出会った季節と繋げてくれたダイヤモンドのピアス。花霞は「まかせて」と張り切った様子でテキパキと花を選び、話をしながらブーケを作ってくれた。
出来上がったブーケは白と水色を基調としたブーケであった。ダイヤモンドの中に雪が舞っているような、そんな素敵な花束に透碧は大喜びをした。
「花霞さん。結婚式はまだまだ先だと思うけど、絶対に来てくださいね」
「もちろんだよ。ほたるくん、本当におめでとう」
帰り際、蛍は花霞とそんな話をしていた。花霞は蛍の手を強く握りながら話をしている。本当に彼を大切にしてくれたのだとその姿でよく伝わってくる。
やはり蛍という男性は、透碧にとって奇跡の人物である。
偶然の出会いからの再会、そして透碧を助けてくれた存在である。そして、初めて好きになった人。
そんな人との関係がトントン拍子で結婚という深いところまでいこうとしている。幸せな時ほど、スムーズに事が進むと言われるのだから、きっとこの道が成功なのだろう。それがまた透碧にとっても幸福を感じられる瞬間であった。
ブーケを両手で持ちながら、2人は帰り道をゆっくりと歩く。
まだまだ冬が深い。空には厚い雲が覆われており、先ほどからチラチラと細かな雪が落ちて来ていた。
今まで、透碧は冬が大嫌いだった。寒さに弱い透碧は、寒くなると家に出るのもイヤになるし、服装もパンツスタイルばかりになるぐらいに苦手だった。
けれど、今は違う。
特別な季節。
「ほたるさん、今日は寒いですね」
「今年一番の寒さらしいぞ」
「今日も一緒に寝てもいいですか?」
「なんだ、今日は透碧から誘ってくれるの?積極的だね」
「寒いから温まって寝たいって意味です」
「同じ事だろう」
恥ずかしい話をしているはずなのに、彼は冷静を装った表情で飄々とそんな事を言ってのける。
けれど、知っている。彼だって、実はまだ慣れてない事を。
私たちはどこまでも似ていた。
恋愛をしたこともなければ、恋人がいたこともない。
初めての恋愛だったのだ。そのため、手を繋ぐのもキスをするのも、一緒に夜を過ごすのも初めてだった。
それがお互いに嬉しくて、気恥ずかしかった。
過ごしずつ、2人の恋愛の形を作り上げていくのが幸せでしかたがなかった。
「この雪が全部蛍だったら、綺麗だろうね」
「蛍なんて見たことないです」
「私もです」
「同じだね」
透碧と蛍は足を止めて、大粒の雪が降ってくるんを眺めながら、蛍の光りを想像する。
なんて幻想的な景色だろうか、と透碧はうっとりしてしまう。
「夏の予定、決まりましたね」
「そうだね」
「きっと河童の伝承が残る場所は川も綺麗なので、そこにはいるはずです。仕事にもなります」
「仕事熱心だな。でも楽しみですね」
変わり者と元犯罪者の夫婦はきっと、これからも苦難が待ち構えているだろう。
けれど、2人なら大丈夫。それに、見守ってくれる人もいる。
それだけで幸せなのだから。
それほど寒さを感じない冬は、2人にとって初めてだった。
(おしまい)
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