漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~

蝶野ともえ

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24話「依頼」

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   24話「依頼」



 「そう言えば、おまえの事なんて呼べばいい?」
 「え?どういうこと?」


 隣に座って朝食を食べなからそう言う千絃を見て、響は聞き返した。
 付き合い始めて数週間が経ち、どちらかの家に泊まる事が多くなってきており、この日は千絃が響の家に来ていた。彼の家より小さいし、ベットも狭いけれど、彼はまったく気にならないようで、「一緒に居れればどこでもいいだろ」と、言ってくれたのだ。料理道具も揃っているので、夕飯を作る事も多くなり、千絃もそれを楽しみにしえくれているようだった。
 順調に恋人同士として生活するようになっていたが、千絃が質問してきた事がわからずに、考え込む。すると、彼はすぐに詳しく教えてくれた。


 「昔はひびって呼んでただろ。今は響って呼んでるけど。おまえはどっちがいいのかと思って」
 「そう言えば、そうだね………」


 昔は「ひび」と呼ばれていたけれど、今では普通に「響」と名前で呼ばれている。それは千絃と言い合いになってしまった時に、響が「ひび」と呼ばないでと言ったからだ。


 「昔の方がいいなら、戻すけど………?」
 「ううん。響がいいな………。ひびは幼馴染みの頃っていうか子どもの頃の思い出にする。響って呼んで貰うのは、恋人っぽいでしょ?」


 関係性が変わると呼び方が変わる事が多いのだから、響も違う呼び方の方がいいなと思ったのだ。ただの幼馴染みではなく、千絃の彼女になったのだと呼ばれる度に感じられるのならば最高だと思った。


 「そうか………なら、変わらず響って呼ぶ」


 響の言葉を聞いて、千絃は微笑みながら響の頭をポンポンと撫でてくれる。響の想いをよく感じてくれたのだろう。

 彼と過ごす日々は、新鮮で刺激的でもありながら、穏やかな時間でもある。
 強くなる事だけを考えていた日々とは違って、ゆったりとした時間。
 それもまたとても素敵な過ごし方だな、と響は毎日のように実感していた。








 その日、響が出社をすると、すぐに関に声を掛けられた。


 「おはよう、漣さん」
 「おはようございます、関さん。お話があると聞いたのですが……」
 「あぁ。そうなんだよ。今日は君のお客さんが見学にいらっしゃる予定なんだ」
 「お客様、ですか?」


 響に思い当たる事がなく、首を捻る。この会社に入ってまだ数ヵ月。そんな自分にお客さんと言われても全くわからなかった。
会議室に一人呼ばれたので、てっきり契約の事なのだろうかと思っていたので、驚いてしまった。
 誰が訪れるのか聞こうと思った瞬間に、関の携帯が鳴った。


 「あぁ……取引先からだ。漣さんは普通に仕事をしてもらっていて構わないよ。いらっしゃったらご案内するから」
 「わかりました」


 響はすぐに頭を下げて、会議室から出た。

 関に相手の事を詳しく聞きたかったけれど、仕事が入ってしまったのならば仕方がない。響は不思議に思いながらも、その時に挨拶をすれば大丈夫だろうと、深く考えなかった。


 その日も相変わらずにモーションキャプチャーの仕事をこなしていた。いろいろなキャラクターの仕草を考えるのには苦労した。
 そのキャラクターの設定やストーリー上にどように関わりが出てくるのかをスタッフから聞いたり、見た目を知るためにイラストをしっかりみたりと撮影に入る前にやる事は沢山あった。今日は、初めてのキャラだったために念入りに打ち合わせをして仕草などをあーだこーだと言い合い、やっとの事で取りはじめたのは昼前の事だった。


 「さっきの動きよかったですよー!天然キャラなのに動く時は俊敏であっという間に敵の懐に入ってしまうところ!」
 「短剣の使い方はまだ慣れてないんですけど……ちゃんと出来ていたようで安心しました」
 「私、この女の子が推しなのでよかったですよー!」
 「そうなんですね。斉賀さんの推しは可愛い女の子なんですか」
 「そうなんですよ!」


 撮影が一旦落ち着き、斉賀とモーションの確認をしながらそんな話をしていると、撮影室の扉が開いて、関が姿を表した。


 「みんな、お疲れ様です」
 「「お疲れ様です」」


 部屋に居たスタッフ達が一斉にそちらを向き挨拶をする。すると、関の隣に誰かが立っているのに気づいた。
 細身で長身、そして女性が羨むような白い肌。そして、薄い緑色の和服に茶色の羽織り、そして綺麗なダークブラウン足袋と草履。そして黒く長い髪を結った男性の姿に釘付けになっていた。そこだけが、空気が違う、凛とした雰囲気を出しており、まるでモデルのような男性がにこやかに微笑んでいたのだ。


 「かっこいい人ですね……誰でしょう?」


 斉賀が小声でそう言ったのがわかったが、響はそれに反応する事が出来なかった。
 周りの人達とは違った理由だが、響もその男性を見て驚いてしまったのだ。


 「和歌さんっ!?」
 「やぁ、漣さん」


 そこに居たのは響の管理人である和歌だったのだ。彼はニッコリと微笑んで、和服の袖をヒラヒラとなびかせながら、小さく手を振っていた。


 「響さんの知り合いだったんですか?!」
 「そうなんです。挨拶してきます」


 斉賀や他のスタッフに声を掛けた後、響は関と和歌の元へと向かった。

 
 「和歌さん、こんにちは。どうしてこちらに?」
 「漣さんと和歌さんは知り合いでしたか。漣さん、朝に話したあなたのお客様と言うのが和歌さんなんだ」
 「え………和歌さんが?」


 響はその理由を聞いても、和歌がわざわざこの会社に来て会いに来る意味がわからなかった。話があるぐらいならば、あのマンションで話せばいいはずなのだ。と、いうことはきっと仕事の話だろうと、響は思った。けれど、和歌は作家だ。ゲームとはほとんど関係ないように思えて首を傾げた。
 すると、響の反応が嬉しかったのか、和歌はとても楽しそうに微笑んだ。


 「漣さんのモーションキャプチャーを先ほど見せて貰っていたんだ。素振りをする姿を綺麗だけれど、やはり実際に刀を持って戦う姿は素晴らしいね。とても感激したよ」
 「…………そんな。私はまだ始めたばかりの新人なので……」
 「けれど、剣の道ではプロだったのだろう?剣道の基礎と、そこから自由に舞いながら剣を振るう姿は本当に華麗だよ。動画で剣舞を見た時と同じように、いやそれ以上に感動したんだ」
 「………褒めすぎですよ。和歌さん」


 和歌の口からは次から次へと賛辞の言葉が出てくるので、響もさすがに気恥ずかしくなってしまう。けれど、こうやって感想を言ってもらえるのは嬉しい事だった。
 響は、「ありがとうございます」と素直に感謝の言葉を口にした。


 「そこで、今日は漣さんにお願いしたい事があって、ここに来たんだ」
 「お願い、ですか?」
 「そう。今度僕が台本を書いた舞台で斬陣を披露して欲しいんだ」


 和歌の突然の依頼に、響はポカンとし、しばらくの間固まってしまったのだった。


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