漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~

蝶野ともえ

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23話「薔薇のボディソープ」

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   23話「薔薇のボディソープ」



 自分の見てきた千絃という男性は、昔と変わっていないようで、とても変わったのかもしれない。
 響を求める彼の表情や視線は、まさしく男そのものだった。けれど、それもまたかっこいいと思ってしまうのだから、惚れた弱味という事だろう。

 普段は強引で、口調も強い。
 けれど、昨夜の千絃は響に対してとても優しく扱ってくれた。強く求め、彼が夢中になる事もあったけれど、それでも「体、大丈夫か?」や「無理させて悪いな」と、頭を撫でながら響を労ってくれる姿さえ見られたのだ。
 そんな彼を見ていると、我慢しないと言いつつも、きっと我慢しているのではないか。そう思って、「我慢しないで……」と伝えると、千絃は動揺した様子を見せ、「おまえは俺にどうなって欲しいんだ……」と苦笑いをした後に、小さくキスを落とし「それはいつになるか………。今日はだめだ」と、言って大切に大切に抱いてくれたのだ。


 響はそんな夜の時情を思い出しながら、隣りで眠る彼を見つめる。あどけない表情で無防備に眠る千絃は、昔と変わらない。うっすらと記憶に残る幼い頃に共にお昼寝をした時も、彼はとても近くで寝てくれていたなと思った。
 彼の寝顔は少し前にも見たけれど、今朝は違った意味を持つ。彼との距離は今までのどんな時よりも近くなったのだから。


 響はまだ彼の腕の中で眠っていたかったけれど、寝室の時計を見るとそろそろ起きなければいけない時間が近づいていた。
 早めに起きて朝食を作ろうとも思ったけれど、ベットから出た途端に彼が起きてしまいそうだと思ったのだ。
 彼の寝顔を見るのはそろそろおしまいだと、響は意を決して千絃を起こすことにした。


 「千絃……そろそろ起きて。私、朝ごはん作ってきてもいい?」
 「………ん……まだ、いいだろ……少し寝てろ」
 「でも、1回家に帰りたいから、ね?もし眠かったら私だけ先に出るよ」
 「今日はそのまま出社すればいいだろ……」
 「でも………」
 「…………これ以上言うと、噛みつく……」


 千絃はまだ眠いのか、それとも冗談で言っているのかわからないが、そんな事を言って響を強く抱きしめた後にまた瞼を閉じてしまう。
 そうだ。前回は機嫌のよく起きてくれたけれど、昔から千絃は寝起きは最悪だったのだ。
 響きは苦笑しながら、寝ている千絃を見つめた後、「どうぞ」と冗談で返事をしながら、ベッドから起き上がろうとした。昨夜は倒れるように寝てしまったため、今は裸になってしまっている。彼に明るい所で見られるのも恥ずかしいので、チャンスだと思った。
 が、それは敵わなかった。


 「………いっ………千絃っ!?」
 「噛んでもいいって言っただろ?」
 「そ、それで本当に噛む人いないでしょー?!しかも、首筋になんてっ!」


 彼は響の思いもよらない事をする天才なのかもしれない。無防備になった響を再び抱き寄せて、なんと首筋に噛みついたのだ。

 響は驚き悲鳴を上げた。軽い痛みとぬるりとした感触は、恐怖感よりも背徳的な気持ちにさせられる。響は睨みながら後ろを向くと、千絃はニヤニヤとした笑みで響を見た。


 「おはよう」
 「………もう絶対に噛まないで」
 「跡にはなってないだろ?戯れだ」
 「痛いのは嫌っ!」
 「はいはい。わかった」


 そう言うと、千絃は立ち上がった後体を屈めて響にキスをした。おはようのキスなどするのだなと、響は意外に思いつつもそれが嬉しくてニヤける口元を我慢するのに必死だった。


 「シャワー浴びてくだろ?俺は夜に起きて浴びたから」
 「ありがとう」


 彼も眠たそうにしていたのに夜中に起きてくれたのは、こうなる事を予想していたからだろう。
 響は彼の気持ちに感謝しながら、浴室へと向かったのだった。










 「ねぇ、千絃はあのローズのボディソープ使ってるの?」
 
 千絃の車に乗り、自宅まで帰宅する車内で、響は気になっていたことを訪ねた。
 彼の準備してくれた薔薇の香りのボディソープ。響はそれをとても気に入っていた。自分でも買おうかと思うほどだ。とても華やかで、本物の薔薇のような香り。今でも香ってくるような気さえするのだ。
 けれど、彼からは香りはしてこない。
 不思議に思っていると、千絃は「俺は使ってない」と、ぶっきらぼうに言った。


 「………そうなの?」
 「おまえが好きそうだから買った。俺のうちに呼ぶつもりだったし」
 「………そう、なんだ………」


 彼はまっすぐ前を向いて運転している。
 だから、きっとこの浮わついた表情を見られることはないはずだ。
 自分のために千絃が準備をしてくれたのだ。あの無表情の彼がこの女性もののボディソープを買っているところを想像してしまう。すると、また笑みがこぼれた。


 「おまえ……笑ってるだろ」
 「ふふふ……そんな事ないよ。私も気に入ったから欲しいなって思って。どこで売ってたの?」
 「買っといてやる」
 「………ありがとう」


 彼が照れているのはわかっている。
 けれど、そんな事を言ってしまっては彼が嫌がるだろう。響は、心の中で彼の優しさを感じながら、また微笑んだ。
 きっと、このボディソープはしばらくの間……いや、ずっと変える事はないだろう。そんな気がしていた。


 今から家に帰って、準備をしたら仕事に行かなければならない。彼と離れるのも憂鬱だし、仕事だって本当ならばいかずにぐだぐだしていたい。
 けれど、職場に行けばまた彼に会える。
 それが今は何よりも嬉しくて、励みになっているのだった。


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