34 / 40
33話「溶けたアイスクリーム」
しおりを挟む33話「溶けたアイスクリーム」
「とても似合っていますね。かぐや姫を初めて見た男性はこんな気持ちなのかもしれませんね」
「…………和歌さん、ふざけすぎです」
「私はいつでも正直者ですよ」
響は照れ隠しでそう言ったけれど、それも上手くかわされてしまい、ぎこちない笑みを返すしか出来なかった。
響は、改めて着物を見つめる。うぐいす色の淡い緑に黄色やピンクなどの花が描かれ、小鳥も飛んでいる生地はとても華やかだった。明るすぎない色は落ち着きを感じさせる。帯は白いもので、こちらも花に刺繍が入っていた。どことなく和歌のものと雰囲気が似ているなと思い、ちらりと彼の帯に目を向けると和歌はそれに気づいてにっこりと笑った。
「たぶん、その帯は私と同じ人が作ったものでしょうね。私が好きなものです」
「わかっていただけましたか。先生が大好きた柄だと思って。帯はお揃いにしましたのよ」
「それは嬉しいですね」
「とってもお似合いですわ。やはり私の見立ては完璧です」
「えぇ、本当に。では、頼んでいた足袋はこちらの住所にお願いします」
そう言うと、和歌はさっさと手続きや会計を済ませてしまう。仕事の支払いだと言っていたが、きっと響の着物は和歌自身の買い物になるはずだ。この場で断りを入れるのは良くないと思い、響は着物を選んでくれた女性に見送られた後、すぐに和歌に声を掛けた。
「和歌さん、このお着物……買っていただくわけには………」
「いいんですよ。袴姿ではなく着物に身を包んだあなたが見てみたかっただけなのですよ。なので、私の我が儘なのです。それに……仕事の話もありますし」
「仕事、ですか?」
「えぇ。その事については美味しいものを食べながらしましょう」
「………はい」
気づくと、和歌に買って貰ってしまったという話は流れてしまっている。彼はとても女性なれしているなと感じた。
けれど、ここで終わりにすることなど出来ず、話を戻すのは申し訳ないが響はまた口を開いた。
「和歌さん、素敵なお着物ありがとうございます。……浴衣以外の和装だなんて、剣道着か成人式でしか着た事がないので……。とても嬉しいです。大切にさせていただきますね」
「こちらこそ、サプライズがしたかったとは言えど、何も言わずに無理矢理させてしまって申し訳なかった。………けれど、やはり漣さんは素敵ですね」
「え…………?」
和歌の手がこちらに伸びて来て、中庭の花を愛でるように響の髪を優しく触れた。
「男は単純な生き物なんです。好きな人に贈り物をしたい。そして、その人に喜んでもらえればとても嬉しいものなのですよ。こちらこそ、ありがとう、と言いたいぐらいにね」
響が着物を素直に受け取ってくれたのが嬉しかったのだろうか。そう言って、和歌は目を細めて優しく微笑んだ。
「さて、デートの続きをしましょうか」
「……仕事の買い出しです」
「そうでしたね。では休憩をしましょう」
和歌は楽しそうに笑うと、ゆっくりと歩き始めた。着物姿の2人は肩を並べて歩く。草履まで準備してくれた和歌だったが、響が慣れていないのをわかってか歩みを遅くしてくれる。
そんな2人を街の人達は、珍しいものを見るように視線を向けてくる。けれど、どれもにこやかで、微笑みかけるようなものばかりだった。
その視線を感じながら、自分と和歌はどのような関係で見られているのだろうかと響は考えてしまう。きっと、恋人同士に見られているのではないかと思うと、妙にそわそわしてしまう。
けれど、他人の目は気にしないと決め、響は仕事の事について集中した。先程和歌が話していたその着物についても気になる。カフェについたら、すぐに聞こう、響はそう考えた。
けれど、その気持ちは誘惑に負けてしまう。
「わぁー!この黒蜜の餡蜜美味しいです!抹茶アイスとほうじ茶も合いますね」
響は運ばれてきた餡蜜とほうじ茶のセットを堪能しており、感動で思わず声が漏れてしまった。
和歌が案内したのは古民家を改装して作った平屋の和風カフェだった。歴史ある木造住宅と広い庭園があり、店内はガラス張りになっているため、外の景色を堪能しながら美味しいお茶やコーヒー、そして和菓子やケーキなどが楽しめるお店になっていた。店内は女性やカップルが多かったが、店員は皆男性のようだった。
「ここの店は私の友人がつくったものなんですよ。だから、漣さんがそんなにも美味しく食べてくれたと知ったらとても喜んでくれるでしょうね」
「そんな……でも、本当においしいので通ってしまいそうです」
「そうですか。私も気分転換によく訪れるので会えるかもしれませんね」
「そうですね。ここはお庭も素敵なので休憩には最適ですよね」
「漣さんがこんなにもここを気に入ってくれたのならば、またぜひ一緒に訪れたいですね。……もちろん、今度はデートとして」
「………和歌さん………」
返事に困ってしまう響を見て、ニッコリと笑うと「冗談ではないので考えておいてくださいね」と言ったので、更に響は戸惑ってしまうのだった。
「さて……仕事中なので、仕事の話をしなければならないですね。響さんに着ていただいているその着物を購入した理由ですが、こんど宮田さんと金剛さん、そして響さんとで公開直前のテレビの特集でインタビューがあるのですがそれに主演していただく事になったのです」
「以前お話していたものですね」
舞台に出演が決まった際に、インタビューをする時間を作る事で騒ぎにならないようにしたという話を聞いていた。そのため響が驚くことはなかった。それに、ヒロイン役である金剛と一緒ならば力強いとさえ思えた。
「その時に響さんにも和装で出て欲しいのです。2人は舞台でも使っている衣装を使うのですが、響さんの役どころは見てくれた人のみ知るようにしたいので真っ黒の衣装は来たくないのです。なので、宮田さんと金剛さんに合わせて和装にしてほうがいいと思って、今回準備したのですよ」
「そうだったんですね。舞台も和装が多いので、イメージにピッタリですね。ですが、インタビューだけのためにこんな高価なものを……」
「いいんですよ。今回だけではなく、また着てみせていただければ。もちろん、着付けは私も出来ますのでお任せください」
「………それは、その……恥ずかしいです」
「毎日着物を着ている私は綺麗に着付けられるのに残念です」
クスクスと笑い、和歌は両手で抹茶を飲んだ。彼は抹茶とほうじ茶のシフォンケーキを頼んでいた。「ここはケーキもおいしいのですよ」と、和歌は絶賛していたのだ。
そして、一息入れたところで、和歌は再び口を開いた。
「では、仕事の話はおしまいです。漣さんに1つお聞きしたかったのですが………恋人とはお別れになったのですか?」
「………え………」
突然、千絃の話になり響は驚いて持ってたスプーンを落としそうになった。
そして、響と千絃の関係が上手くいっていない事に気づいていたのだ。
今1番響が心配している事を言い当てられてしまい、響はすぐに顔色が変わってしまう。「そんなことないですよ」と言ったとしても、説得力はない表情だっただろう。
「少し前まで仕事の送り迎えもしてもらっていたのを何回か目撃していましたが、最近は見ていなかったですし、彼の姿も拝見していなかったので……。あぁ、ずっと見ていたわけじゃないですよ。管理人として玄関先に居る事が多いので、少しでも変化があると気づいてしまうもので…………すみません。気になってしまって」
「いえ………大丈夫です」
和歌はアパートの玄関の掃除や中庭の手入れなどで敷地内に居る事が多いのだ。住人の様子を知ってしまうのは、当たり前だろう。
それに彼といざこざがあってから、響の生活は変わってしまったのだ。和歌が気づくのも仕方がない事なのだ。
けれど、第三者に2人の事を問われてしまうと、どうしても胸が苦しくなってしまうものだ。
「……すみません。聞くべき話ではなかったですね。申し訳ないです」
「いえ………」
響の言葉が止まってしまい、戸惑っているのがわかったのだろう。和歌はそれ以上追求する事はなかった。
けれど、響の鼓動は早くなり、和歌と目が合わせられなくなった。
先ほどまで美味しいと思っていた甘味は、もう全く味がわからなくなってしまっていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる