漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~

蝶野ともえ

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 「売り切れ続出だって!」
 「追加注文がすごいな……」
 「雑誌の取材と、漣さんや声優さんへのオファーが増加してるみたいだよ」


 社内はそんな幸せな騒動で皆が盛り上がっていた。
 響もそのうちの一人で、自分が参加したゲームについてのニュースや書き込みなどを見つける度に、ついつい見てしまうのだ。

 響がモーションキャプチャーの仕事を引き受けた、ゲームがついに発売になった。発売前から人気があると聞いていたが、発売日当日は店舗に並べればすぐに完売してしまい、予約者のみが買えたという話をきいた。今では普通には買えないため追加生産をして数日遅れての入荷待ちの状態だ。
 そのため、人々の関心も高まり、ゲーム実況の動画の再生回数は高くなり、関連グッツは売れに売れた。
 そして、主人公やヒロイン、人気キャラクターを務めた声優や、響にインタビューが殺到していたのだ。
 そして、すでに続編を求める声もあった。

 響に多かった依頼もある。それは他の作品でのモーションキャプチャーのオファーだった。



 「さっきも有名会社からオファー来ましたよ。すごいですね」
 「発売して少し不安だったのですが……やって来た事が認められたのは嬉しいです」
 「そうですよね。初めてでこの反響はすごいから、自信を持っていいと思いますよ」
 「作品自体がいいから……そこは私がすごく幸運だったのだなと思います」
 「漣さんは自分の実力を低く見ているようですが、私や月城が認めたのですよ。それにオファーもくるぐらいだ。これからの活躍を楽しみにしていますよ」
 「ありがとうございます」


 関は「ここの会社に留まらずに、いろいろな所で経験を積んでほしい。そして、またこの会社とも仕事をして欲しい」と言ってくれていた。


 「……漣さんはとても人気者だ。しっかり捕まえておかないと、他の人にとられてしまいますから、気を付けてくださいね、月城くん」
 「………え……」


 関と自分だけで話をしていたと思っていた響は驚き、周りをキョロキョロと見る。すると、すぐ後ろに不機嫌そうな千絃が立っていたのだ。


 「千絃………いつからそこに………」
 「関さん、こいつ借ります」
 「え……なに………」
 「はいはい。10分後には会議だからな」
 「わかってます」


 千絃はそう言うと、さっさと歩きだしてしまう。ついてこい、という意味だろうと理解し、響は彼の後を小走りでついて行った。

 千絃が入ったのは、響もよく利用する小さな会議室だった。響が入ると、彼はドアを閉めた後、鍵まで閉めた。
 その後はあっという間だった。


 「千絃……んっっ………」


 響は逃げられないように、ドアに体を押し付けられ、そのまま社内とは思えないようなキスを繰り返した。
 響が驚き口を開けてしまうと、そこからぬるりとした舌の感触を感じて、体が震えた。
 体をよじったり、千絃の胸をドンドンッと叩いたりしたが、彼は止める事はなく千絃が満足するまでキスは続いた。


 響の体の力が抜けてしまい、千絃の体に支えられなければ立てなくなった頃に、彼はようやく唇を離した。


 「………ん………」
 「ちょ………今何したの?!」


 彼が体を離す間際に、響の首筋に彼の唇が落ち、チクリと痛んだ。
 響は驚いて、声を上げながらそこを手で触れる。場所的に自分ではどうなっているのかはわからないのだ。


 「誰にも取られないように印つけといた」
 「…………も、もしかして、キスマーク………?!」
 「これならインタビューで響を見たファンや声優とかからも守れるからな。お守りだ」
 「こんなところにつけるなんて……」
 「…………初めてつけたんだ。嬉しいだろ」
 「…………次からは見えないところにして」


 彼が自分の体にキスをしたという事が目に見える跡。それに憧れた事がないわけではない。
 だからこそ、少し嬉しく思いつつも、見える場所はダメだと響は葛藤していた。
 千絃がキスマークを落としたのは、シャツから見えるから見えないかの際どい場所だった。
 コンシーラーで隠さないといけないな、と響は考えながら、キスマークを手で覆った。



 「じゃあ、他の場所は今夜な」



 低く甘い色気のある声で千絃が囁くと、響は胸が大きく震えるのがわかった。

 やはり彼の前では弱い。いつも負けてしまうな、と思ったのだった。


             (おしまい)
 
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