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12話「新米魔女」
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☆☆☆
希海と契約を結んだ次の日。
朝御飯を食べた後に、魔女としての基礎練習をスタートすることになった。
「昼食から俺が作るよ」
「………なんで?………おいしくなかった?」
「そうじゃなくて………おいしいけど、おまえいつか怪我するんじゃないかってハラハラしたから。料理は好きだからやらせてくれ」
「……………わかった。でも、時々手伝わせてね」
「…………おまえ、細かい作業苦手なんだな」
「料理以外は結構得意なんだけどなぁー………」
昨日は、夕飯まで希海に作ってもらったため、朝御飯は作ろうと張り切って早く起きた。
けれど、空澄がキッチンに向かうとすでに彼はそこに立っていた。そのため2人で料理をしてのだが、空澄の危なっかしい包丁捌きを見て、希海はオロオロとしていたようだった。確かに璃真にも同じような事を言われていたので、さすがにショックだったけれど料理自体は「おいしい」と言って貰えたので、空澄は少しは満足していた。だが、男2人には負けてしまうのは悔しいので、内心では料理の腕前を上げる事を誓った。
璃真がいなくなってから2日目の朝。
やはり、彼がこの家に帰ってくる事はなかった。朝も璃真の部屋を見たけれど、彼の姿はない。少しずつ「死んでしまった」という現実を感じ始めていた。けれど、検査の結果が出るまでは判断しないと空澄は心に決めていた。
この家に、どんな姿であっても璃真が戻ってきてから悲しもうと決心したのだ。
彼がいなくなってから孤独を感じたのは数時間だった。璃真がいなくなってから、この家にはもう1人が家族が住むようになったからだ。それら鴉の呪いをかけられていた希海だ。
「布団ではよく寝れた?」
「あぁ……久しぶりに布団で寝たから嬉しかったよ」
「いつもはどこで寝ていたの?」
「鴉の時は外だったし、後は………ソファとか?」
「………ベット買わないとね」
「いいよ。布団で」
希海には昨夜は両親の部屋で寝てもらった。
2人の荷物はほとんど片付けられていたので、本棚ぐらいしか部屋にはなかった。クローゼットには服などはまだ残っていたけれど、室内は殺風景だった。2人で一戸建ての家に住んでいたのだ空き部屋は多い。そのに布団だけをとりあえず移動して、希海の部屋にしたのだった。
そんな会話をしながらリビングを出た。希海が案内したい所があると言ってきたのだ。
空澄は、彼は両親の店に案内してくれるのだと思っていたけれど、玄関とは逆の方向へと歩いて行った。
「希海……どこ行くの?お店じゃなかったの?」
「店じゃない。ここ」
「ここって………」
希海が指差した場所。
そこは、階段下の空いたスペースだった。けれど、そこには何もないただの壁だった。木製の少し古びた壁があるだけだった。
「まぁ、見てて」
変哲もない壁に手を当てた希海は、ゆっくりと呪文を唱え始めた。すると、突然壁が光り始め、人一人がやっと通れるほどのドアが現れたのだ。壁と同じ木製のもので、取っ手は少し古びた金属で出来ていた。まるで、そこには昔からドアがあったかのように、とても馴染んでいた。
「………こんなところに部屋があるなんて知らなかった………」
「花里家と黒鍵家の魔女しか使えない呪文だ」
「………ここは………」
「魔女の部屋。ようこそ、新米魔女さん」
そう言うと、希海はドアをゆっくりと開けてくれる。そして、ドアを開けてにこやかに微笑み空澄を部屋の中へと促してくれた。
その部屋に1歩足を踏み入れると、そこはまるで異世界のようだった。よくファンタジー映画で見る、魔女の部屋そのものだった。
通路にはびっしりと古びた本が並び、至る所にビーカーや薬草、虫の標本、蝋燭や瓶が置いてあった。臭いも独特で漢方のお店に入った時の、土や草などの少しくすんだ匂いがした。ランプには不思議な光りがあり、火ではない事もわかった。きっとこれも魔法なのだろうと、空澄はまじまじと見つめた。
その後、細い通路が下へ続く階段になっており、最後まで降りると小さな部屋が見えてきた。木製の机が2つ置いてあり、今まで誰かが作業をしていたかのように、本や草などが乱雑に置いてあった。
「ここで、お父さんとお母さんが働いていたの?」
「そうだな。まぁ、勉強したり、薬つくったりしてた。そして、俺はそのソファで定位置だったな」
壁際に置いてある茶色の皮のソファ。そこには、大きなフワフワのブランケットがかけられていた。そこで彼は夜になると寝ていたのだろう。床に黒い羽がいくつか落ちていた。
「ここには資料も沢山揃ってるし、何より空澄の両親が残している大切なものがある。だから、ここからいろいろ探して勉強していこう」
「うん。わかった………よろしくお願いします。」
そう言って、空澄は彼に頭を下げると、希海は笑顔で頷いた。
「スパルタでいくから、頑張れよ」
「うぅ………でも、早く覚えたいから頑張るよ」
「よろしい」
腕を組み、まるで先生のように言う希海を見て、思わず微笑むと、希海も笑っていた。
さっそく、2人は勉強をスタートする事にした。希海は大量にある本の中から、数冊選ぶと、それを小さなテーブルに置き、ソファに座った。彼の隣に腰をおろし、彼の持っている本を見た。
「まずは、文字を覚える事だな。あと発音も。そうじゃないと本を読むことも呪文を唱える事も出来ない」
「なるほど………」
「魔女が使っている言葉や文字は、1つ1つに魔力が込められていると言われてる。それに実際呪文を使うだけで、魔力は消費しているから注意だな。不必要に使えばその分魔力は損なわれる」
「でも、寝れば復活するでしよ?」
「まぁ、大体はそうだけど戦ったり人を助けたりする、いざって時に使えないと困るだろ。だから、無駄遣いは避けるべきだ。それに、魔力は結局は自然物の力を借りることが多いからな。ありがく使うべきだな」
そう話しをする彼の横顔はとても真剣だった。魔女の力を使う時はきっと彼のように真剣に取り組まないといけないのだろうと空澄は思った。
普通の人には使えない、特別な力。
それを使える人は、使い方をしっかりと考えなくてはならない。そんな風に彼は言いたいのだろうと思った。
それからは、ひたすら見たこともない文字を必死に覚えていくしかなかった。
英語を覚えた時のように、実際に声に出して読んだり、紙に書いて文字に覚えるしかないのだ。元々、物を覚えるのは得意だったので、空澄は新しい国の言葉を覚えていく感覚で楽しんで勉強出来ていた。
昼食を挟み、夕方まで勉強をした所で、空澄は大体の文字を言えるように出来るようになっていた。
「すごいな。1日でここまで覚えられたら上出来だ」
「本当?よかった」
希海は驚きながらも、空澄を褒め頭を撫でてくれる。まるで、本当の家庭教師のようだなと、空澄は思った。
「じゃあ、今日はこれぐらいにするか」
「うん。ありがとう、希海」
そう言って空澄はお礼を言った後にソファから立ち上がろうとした。けれど、空澄の左手首を掴まれ、希海に腕をひっぱられソファに戻されてしまう。
「希海?」
「ほら、今日の報酬は?」
「あ………ん…………」
空澄が言葉を発する前に、希海に唇を塞がれてしまう。魔力を渡すための口づけ。
希海の舌の感触に、空澄は体を震わせた。
報酬の事を忘れていたわけではなかった。
いつ希海とキスをするのか。空澄は少しだけソワソワしてしまっていた。
希海のキスに翻弄され、ボーッとした思考のまま、これからは夕方に近づくにつれてドキドキしてしまいそうだな、と空澄は思った。
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