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21話「聞きたくない」
しおりを挟む21話「聞きたくない」
頭が真っ白になって、自分が今どこを歩いているのかもわからなくなっていたが、今の吹雪にはそんな事はどうでもよかった。
人混みに紛れながら、フラフラと歩く。先程までは春の心地いい温かを感じられ気分もよかったはずだ。けれど、今はその太陽の光さえもうっとおしく感じてしまう。
今は誰もいない、そして、光のない部屋に戻りたかった。
結局は、周も幼馴染みたちと同じだったのだろうか。
彼も何か自分の目的を果たすために自分を選び近寄ってきたのだろうか。ホストのために関係を結んだのは、お互い合意の上だった。けれど、それ以外吹雪には内緒で考えていたことがあったのかもしれない。
そんな事も知らずに、吹雪は周を好きになったのだ。
やはり、彼の中ではただ利用出来る女の一人だったのだろう。
あの温かいほどの優しさと温かい笑顔は全て作られたものだったのか。
もしそうだとしたら、彼は最高のホストになれる。いや、もうホストそのものだと吹雪は思った。
それ自体が嘘かもしれないが………。
周を信じたい気持ちもあった。
けれど、それ以上に彼から「嘘だったんだ」も言われてしまったならば、吹雪は立ち直れないと思った。だから、本当の気持ちを確認することなど出来なかった。
そんな事を考えている内に吹雪は無意識の内に電車に乗り、自宅の最寄り駅に到着していた。
今、彼の事を考えてしまうの泣いてしまいそうで、何も考えずに自宅まで戻れるように必死に我慢をしてマンションまでをやり過ごした。
ようやく、マンションが見えてきた。
この道を雨が降ったときに2人で手を繋いで走ったな。そんな事を思い出してしまい、吹雪は我慢していた涙が一粒落ちてしまった。
すぐに涙を拭いて、人目から離れるように道の端を歩いた。
マンションに到着し、ホッと安心したのも束の間だった。
タイミング悪く、吹雪の部屋の方から人影が向かってきた。泣き顔を見られたくなく、吹雪は俯きながらその場をやり過ごそうとした。
「吹雪さんっ!!」
「…………周くん…………」
その人影は吹雪の部屋の前で待っていた周だった。
吹雪は驚き、そしてすぐに彼から目を逸らした。あんな事を聞いてしまい、彼の事を直視出来るはずもなかった。
「吹雪さん、探してたんだ。突然いなくなったから……。連絡もしたんだよ?どうしたの………?」
「………ごめん」
「それはいいんだ。体調悪くなったとか?………大丈夫?」
「周くん、もう帰って欲しいの。………一人にさせて」
「……ぇ………」
全く彼の顔を見ずにそう言うと、彼を無視して通り抜けた。すれ違い間際に、一瞬だけ彼の表情が見えたが、何故か彼がショックを受けた顔をしていたのだ。………こちらの方が傷ついたというのに。
吹雪は素早くバックから鍵を取り出して、鍵穴に差し込んだ。
「待って!!………どうしてそんな事言うの?俺の事も見てくれないよね?」
「…………」
「…………もしかして、柴田さんとの話しを聞いたの?」
周は吹雪の手を掴み、顔を覗き込んできた。それでも、吹雪は視線をそらしたままにした。すると、その様子を見ておかしいと思ったのだろう。周はしばらく考え込んだ後、柴田との会話を思い出したようだった。
「違う、あれは勘違いだ!俺は、そんなつもりなんて………」
焦ったように声を荒げて吹雪に説明しようとするが、吹雪はそれを拒否するかのように、首を横に振った。
「………じゃあ、私に嘘をついてる事はないの?」
「え…………」
「私に話してくれてない事は?どうして、私に声を掛けたの?ホストになるっていうのは本当だったの?」
「そ、それは…………」
吹雪の静かな問い詰めに、周は言葉を失い、吹雪から視線を逸らした。
その行動を見て、吹雪は彼を信じたいという最後の気持ちが消えてしまった。
やはり、彼には後ろめたいことがあるのだ。
吹雪にはそう感じられる態度に見えてしまった。
「話しを聞いて、吹雪さん。僕は、あなたの事を………」
「周くん、学生なんでしょ?」
「………どうしてそれを………」
吹雪の力ない声で告げられた言葉に、周は驚きで目を大きくして言葉を失っていた。
「もう周くんの役には立てないから、ごめんね」
「吹雪さんっ!お願いだ、俺の話しを………」
「離してっ!…………もうこれ以上傷つきたくない………」
吹雪は我慢していた涙が最後の言葉により溢れ出てしまった。冷静にはなれず、大きな声をあげて、彼の手を振り払うと吹雪は逃げるように部屋に入り、ドアの鍵をしめた。
その後すぐに、ドンドンッとドアを叩く音が、静かな部屋に響いた。
「俺、吹雪さんが話してくれるまでずっとここで待ってるから!………お願い、俺の話しを聞いて欲しいんだ………」
周の懇願する周の声が聞こえる。
けれど、吹雪は玄関にずるずると座り込み、そのまま声を殺して泣いた。
言い訳なんて聞きたくもない。
もう誰も信じたくない。
吹雪はそれでも彼の気配を微かに感じる玄関から離れる事は出来なかった。
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