25 / 31
24話「雨音」
しおりを挟む24話「雨音」
恋は苦しい。
呼吸が出来なくなるような息苦しさを感じる事がある。
誰かを好きになると、疑ってしまったい素直な好きだけの気持ちでは相手を見れなくなってしまう。それに、自分が好きだけれども相手は違うともっと悲しくなるし、傷つけられ手しまう事もある。
吹雪はそれを痛いほど感じていたはずだった。
それなのに、どうしてまた好きになってしまったのだろうか。
出会ってしまったのだろうか。
けれど、彼は今まで会ってきた男の人とは違う。そんな予感というか、勘があった。
昔に出会った幼馴染みなどの男性にも、そんな風に思っていたのかもしれない。好きな時は周と同じように純粋に信じていたのかもしれない。
吹雪はそれでも違うと強く思えるのには理由があった。
それは、今でも好きなのだ。
もし裏切られたとしても、会えなくなっても、まだ周が好きだった。
どうしてそこまで彼に惹かれているのかわからない。けれど、嫌いになりたい、忘れようと思っても胸の奥底から「嫌いになりたくない」「忘れたくない」と叫び声が聞こえてくるのだ。そして、彼に会いたいと強く思っていた。
未練がましい事かもしれない。
けれど、その心が他の人とも違う何かがあるような気がしてならなかった。
だが、すべては自分の気持ちだけの事。
周がどう思っているのはわからず、ただただ会えない日を、もうおしまいになってしまったのだと悲しんで暮らすだけだった。
そんな時に、周が1つの贈り物をくれたのだ。
彼に会えたこと、そしてきっとまた会える時間をくれた。
お別れの話しになるのかもしれない。
また、泣いてしまう事があるのかもしれない。
けれど、吹雪は1週間をくよくよ心配して過ごすことを止めた。
何があってもこの日は彼に会えるのだ。
少し変わったデートだと思えばいい。
この1ヶ月を思えば、どんな事よりも辛くはないのだから。
待ちに待った、1週間後。
梅雨に入ったこの日はあいにくの雨だったけれど、吹雪の心は晴れやかだった。
初めて彼とデートをした時と同じぐらいに緊張している。けれど、何故だか不安などなかった。
お別れの日になるかもしれない。そうだとしても、今日はしっかり話しをすれば、彼の気持ちがわかる。フラれてしまったらば、きっと泣いてしまうだろう。
けれど、彼を好きになった事は後悔はしないだろう。そう思えた。
彼が自分に声を掛けた理由を知りたい。それを知れば、周を嫌いになる事はないだろう。吹雪はそう強く思えた。
吹雪はおしゃれをして彼に会いに行こうと思っていたけれど、普段通りのメイクと髪型にした。いつもの自分て周に会いたいと思ったのだ。
予定より早く出発の時間だったが、吹雪は家を出た。少し雨足が強かったけれど、街に溢れる雑踏を雨音が消してくれる。吹雪は雨音を楽しみながら少し離れた隣町を目指した。
電車を乗り継ぎ着いた街は、吹雪が住んでいる街より静かな雰囲気の街だった。ほどよく栄えている街だった。住みやすそうなゆったりとした町並みを吹雪はスマホで地図を見ながら歩いた。駅からも歩くようで、吹雪は迷子にならないように注意して、確認しながら目的地を目指した。
しばらく濡れた道を歩くと、住宅街に入っていく。その道路沿いに周からもらった店の名刺に書かれたカフェの看板が見えてきた。
吹雪はその店に入ろうとした時だった。その店の隣に飾られているものに目が入った。
「蒼の食器…………『雨音』………?」
そこには、小さなギャラリーがあり、入り口には蒼い食器が写ったポスターが飾ってあった。そして、そこにはタイトルらしき『雨音』と文字が書かれていた。
吹雪はその食器がどうしても気になってしまい、ギャラリーに歩みを向けた。先日周に招待された柴田のギャラリーよりかなり小規模で、作品の数は少ない。けれど、一つ一つにどんな作品なのか、説明や食器の名前などが書かれていた。蒼い食器だからか、全てに雨や水の名前がつけられていた。
照明により更にキラキラと光る陶器に、吹雪はうっとりとした視線を向けながら、ギャラリーをゆっくりと歩き回る。
そのうちに、吹雪はある事に気づいた。
「私が持っているものと…………ここにある作品に似てる………?」
吹雪がハッとして独り呟いていた。静かなギャラリーにその声が響いた。
「そうだよ。吹雪さんが買ってくれたものと同じだよ」
「周くん」
背から聞きたかった声が聞こえ、吹雪はすぐに振り替える。すると、そこにはいつものふんわりとした笑みの周が立っていた。
彼を見ると、瞳の奥が熱くなる。目が合っただけで気持ちが溢れ出てしまいそうになり、吹雪は必死にそれを堪えた。
「………吹雪さんの部屋にお邪魔した時に、俺の食器がまだ置いてあって嬉しかったよ。…………来てくれてありがとう、吹雪さん」
「このギャラリーは、周くんの……?」
「そう。俺は大学院生で、今は陶器の先生について技術を磨いてるんだ。青い食器が好きで………こうやってギャラリーを開くのが夢だったんだよ」
「………そうだったんだ……」
吹雪はその言葉を耳にして、彼から目をそらしたくなった。ギャラリーを開きたいから柴田の所に自分を連れていった。そんな自分の勝手な憶測が頭をよぎったからだ。
けれど、吹雪はそんなマイナスな考えを自ら払いのけた。今日ここに来たのは、悲しむためじゃない。
自分の気持ちを伝え、彼の本心を聞くためなのだから。
「…………私は、ずっと周くんに会いたかったよ」
「ぇ…………」
「周くんがどうして私に声をかけてくれたり、あのギャラリーにつれていって行ってくれたのか、わからない。けど………私は、あなたに会えなくて寂しかったの。会いたくて仕方がなかった」
「吹雪さん………」
吹雪は自分の頬に温かさを感じ、その時初めて自分が泣いているのに気づいた。
泣くつもりはなかった。
けれど、気持ちが膨れ上がり、彼を見た瞬間に会いたいが涙に変わったのだろう。
吹雪は、涙を拭くこともせずに、言葉を紡ぎ続けた。
「………だから、周くんが図書館に来てくれたのとっても嬉しかったの。おしまいじゃないってわかったから………。ずっとずっとあなたが来るのを待ってたの。………私、周くんの事が………」
早く彼にこの気持ちを伝えたい。
終わりになったとしても、彼の思いが自分とは違うものだとしても。
そう思ったはずなのに、その言葉は全身が温かいものに包まれた事で止まってしまった。
「………その続きはまだ言わないで」
耳元で周の言葉が聞こえる。
周に抱きしめられている、とそこでやっと気づいたのだ。
吹雪の事を抱き彼の腕や手は、まるですぐに割れてしまう陶器に触れるように優しいものだった。
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる