アラサー女子は甘い言葉に騙されたい

蝶野ともえ

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25話「出会いの前の出会い」

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   25話「出会いの前の出会い」



 「ごめん………泣かせちゃったね………」


 周は指で吹雪の涙を優しく拭い、申し訳なさそうな表情で謝った。


 「連絡もしないで不安にさせたよね。本当にごめん。………俺の話し、聞いてくれる?」
 「うん。私も……周くんの話し聞きたいよ」
 「ありがとう。そこのソファに座ってて………」


 そういうと、周は1度吹雪から離れて、ギャラリーの入り口を閉めた。そして、「CIose」と看板をドアノブにかけて戻ってきた。


 「え………閉めちゃうの?」
 「うん。このギャラリーは、吹雪さんに来てもらうために準備したから」
 「私のため?」


 吹雪は驚いて声をあげると、周はクスクスと笑って、吹雪の手を取った。そして「そうだよ」と言いながら、ソファに招いてくれた。
 窓際に置かれたソファに座ると、飾られている周の食器が全て見ることが出来た。吹雪は特等席だなと、思った。


 「俺はずっとギャラリーを、開きたかった。吹雪さんを招待するためにね。でも、俺は学生で、独り暮らししてて、学費も払ってたから、毎日カツカツの生活だったんだ。だから、ギャラリーを借りる事も、準備する事も出来なかった。でも、吹雪さんには立派で豪華なギャラリーに来て欲しいなって、ずっと思ってた。だから、ホストで稼ごうかなって考えたんだ」
 「えっ……ちょっと待って。ずっとって………周くんはホストの店の前で出会った時より前に私を知っていたの?」


 周の話しには、気になるところが沢山あった。けれど、1番驚いたのはその部分だった。吹雪は周と出会ったのは、あの時が初めてだと思っていたのだ。吹雪が驚いていると、周は「知っていたよ。少し前からね」と、恥ずかしそうに苦笑していた。


 「覚えてなくても仕方がないと思う。初めて吹雪さんに会った時は、俺の全ては陶芸で、他はどうでもいいと思っていたんだ。髪もボサボサで、服だっていつも白のTシャツにデニムのパンツ、そして汚れたスニーカ。そして、大きな眼鏡もしていたんだ。土ばっかりいじっているから、手も服も汚かったしね。大学ではダサい土人形とか呼ばれてたよ」


 周はそう言って恥ずかしそうに頭をかきながら、吹雪を見た。その視線はとても優しく、吹雪はドキドキしてしまう。


 「そんな時に出会ったのが、吹雪さんだよ?」
 「私、いつ出会っていたの………周くんと………」
 「少し恥ずかしいけど………話すね」


 そう言って、目尻に溜まっていた涙を彼が拭ってくれ、そして周はそのままソファの上に置かれていた吹雪の手を握りながら、昔の出会いの話しを始めた。



 「数年前、俺が大学生3年ぐらいの時かな。教授の工房で、陶芸の体験教室があったんだ。俺は教授に「弟子だから手伝え」って言われて、その日は助手をすることになったんだ。陶芸教室って、年配の人とか若くても友達同士とか、親子が多かったんだけど。その日は、若い女の人が1人で来ていたんだ」
 「あ………それ………」
 「そう。吹雪さんだよ。体験教室が始まると、キラキラした瞳で教授の話しを聞いていたんだ。いざ、陶芸が始まると、その人はすごく楽しそうで……そして、真剣にお皿を作っていだ。けれど、なかなかうまく形が作れなくて困ってるみたいだから、俺が声を掛けたんだ」


 懐かしそうに話してくれる周。
 吹雪もその日の事は覚えていた。時々食器をみにお店で、体験教室があると知り吹雪は、どうしても参加したくなったのだ。いつもならば、こういう場所に率先して行くタイプではなかったけれど、いつも惚れ惚れするぐらいに美しい食器を作ってくれる人がどうやって作っているのか知りたかったのだ。なので、勇気をだして申し込んだのだ。
 当日はとても楽しい時間だったのを吹雪は今でも覚えていた。教授も助っ人の男性も覚えているけれど、顔まではしっかり記憶には残っていなかった。
 その時の男性が周だとは思いもよらなかった。


 「ごめんなさい………私、気づかなくて」
 「いいんだよ。俺の容姿が違いすぎたんだから。俺が吹雪さんの手直しをして、どうやったら上手く行くのかを伝えたんだ。その時、吹雪さんの手に触れてしまって、俺が謝ったら、吹雪さんは優しく微笑んでこう言ったんだ」


 周は吹雪を見つめ、そして昔の吹雪の姿を重ねて見ているのか遠くに視線を向けているように見えた。


 「『魔法の手は温かいんですね』って、感心したように言ったんですよ」
 「え………私そんな事言ったの?恥ずかしい………」
 「俺は可愛い人だなって思ったよ。その後も真剣に俺の手を動きを見てて。本当に好きなんだなって思ったから。この人と話してみたいって思ったんだ」
 「周くん………」
 「でも、もちろんそんなに話すことなんか出来ずにその時間は終わったんだ。出来た皿は送る事になっていたから、もう会えないって思ってたんだ。だから……その……少し住所を見て、近くに住んでるってわかって。あぁ!!ストーカーじゃないからね!」
 「ふふふ、わかってるよ」
 

 少し焦ったように言う周が面白くて、吹雪は笑ってしまった。先程まで泣いていたのにこうやって笑顔になれているのは、そんな昔の事まで周がしっかりと覚えていてくれたから。
 自分が忘れてしまったのが悔しいけれど、けれど、彼がこんなにも自分を知っていたことが嬉しかった。



 「それにね、その教室の後、吹雪さん、食器買ったでしょ?」
 「うん。一目惚れしちゃったから、工房の隣にあるお店で買ったよ。大好きすぎて、沢山使ってるんだ」
 「あれ、俺の作品なんだ」
 「え、えぇ………!?そうだったの?」
 「うん。教授が置いてみろって言ってくれて。教授の知り合いとか、俺の友達とかは買ってくれたりはあったけど、俺の事を何も知らないで、作品を見て気に入って買ってくれたのは………吹雪さんが初めてなんだ」
 「そうだったんだ………」


 周はそう言うと、周はもう1度、吹雪を抱き寄せた。
 ドクンドクンッと彼の早い鼓動が吹雪の体に伝わってくる。その鼓動の音を聞いていると、不思議と安心する。
 


 「それを知った瞬間から俺は吹雪さんが気になってしまったんだ。初めての一目惚れだったと思うんだ」


 そんな夢のような言葉が耳に入ってきて、吹雪は彼の胸に顔を埋めた。
 私もきっと夜の華やかな街の中で周に出会った時から、何か特別な感情を抱いていたよ。吹雪はそんな事を思っていたのだった。



 
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