26 / 31
25話「出会いの前の出会い」
しおりを挟む25話「出会いの前の出会い」
「ごめん………泣かせちゃったね………」
周は指で吹雪の涙を優しく拭い、申し訳なさそうな表情で謝った。
「連絡もしないで不安にさせたよね。本当にごめん。………俺の話し、聞いてくれる?」
「うん。私も……周くんの話し聞きたいよ」
「ありがとう。そこのソファに座ってて………」
そういうと、周は1度吹雪から離れて、ギャラリーの入り口を閉めた。そして、「CIose」と看板をドアノブにかけて戻ってきた。
「え………閉めちゃうの?」
「うん。このギャラリーは、吹雪さんに来てもらうために準備したから」
「私のため?」
吹雪は驚いて声をあげると、周はクスクスと笑って、吹雪の手を取った。そして「そうだよ」と言いながら、ソファに招いてくれた。
窓際に置かれたソファに座ると、飾られている周の食器が全て見ることが出来た。吹雪は特等席だなと、思った。
「俺はずっとギャラリーを、開きたかった。吹雪さんを招待するためにね。でも、俺は学生で、独り暮らししてて、学費も払ってたから、毎日カツカツの生活だったんだ。だから、ギャラリーを借りる事も、準備する事も出来なかった。でも、吹雪さんには立派で豪華なギャラリーに来て欲しいなって、ずっと思ってた。だから、ホストで稼ごうかなって考えたんだ」
「えっ……ちょっと待って。ずっとって………周くんはホストの店の前で出会った時より前に私を知っていたの?」
周の話しには、気になるところが沢山あった。けれど、1番驚いたのはその部分だった。吹雪は周と出会ったのは、あの時が初めてだと思っていたのだ。吹雪が驚いていると、周は「知っていたよ。少し前からね」と、恥ずかしそうに苦笑していた。
「覚えてなくても仕方がないと思う。初めて吹雪さんに会った時は、俺の全ては陶芸で、他はどうでもいいと思っていたんだ。髪もボサボサで、服だっていつも白のTシャツにデニムのパンツ、そして汚れたスニーカ。そして、大きな眼鏡もしていたんだ。土ばっかりいじっているから、手も服も汚かったしね。大学ではダサい土人形とか呼ばれてたよ」
周はそう言って恥ずかしそうに頭をかきながら、吹雪を見た。その視線はとても優しく、吹雪はドキドキしてしまう。
「そんな時に出会ったのが、吹雪さんだよ?」
「私、いつ出会っていたの………周くんと………」
「少し恥ずかしいけど………話すね」
そう言って、目尻に溜まっていた涙を彼が拭ってくれ、そして周はそのままソファの上に置かれていた吹雪の手を握りながら、昔の出会いの話しを始めた。
「数年前、俺が大学生3年ぐらいの時かな。教授の工房で、陶芸の体験教室があったんだ。俺は教授に「弟子だから手伝え」って言われて、その日は助手をすることになったんだ。陶芸教室って、年配の人とか若くても友達同士とか、親子が多かったんだけど。その日は、若い女の人が1人で来ていたんだ」
「あ………それ………」
「そう。吹雪さんだよ。体験教室が始まると、キラキラした瞳で教授の話しを聞いていたんだ。いざ、陶芸が始まると、その人はすごく楽しそうで……そして、真剣にお皿を作っていだ。けれど、なかなかうまく形が作れなくて困ってるみたいだから、俺が声を掛けたんだ」
懐かしそうに話してくれる周。
吹雪もその日の事は覚えていた。時々食器をみにお店で、体験教室があると知り吹雪は、どうしても参加したくなったのだ。いつもならば、こういう場所に率先して行くタイプではなかったけれど、いつも惚れ惚れするぐらいに美しい食器を作ってくれる人がどうやって作っているのか知りたかったのだ。なので、勇気をだして申し込んだのだ。
当日はとても楽しい時間だったのを吹雪は今でも覚えていた。教授も助っ人の男性も覚えているけれど、顔まではしっかり記憶には残っていなかった。
その時の男性が周だとは思いもよらなかった。
「ごめんなさい………私、気づかなくて」
「いいんだよ。俺の容姿が違いすぎたんだから。俺が吹雪さんの手直しをして、どうやったら上手く行くのかを伝えたんだ。その時、吹雪さんの手に触れてしまって、俺が謝ったら、吹雪さんは優しく微笑んでこう言ったんだ」
周は吹雪を見つめ、そして昔の吹雪の姿を重ねて見ているのか遠くに視線を向けているように見えた。
「『魔法の手は温かいんですね』って、感心したように言ったんですよ」
「え………私そんな事言ったの?恥ずかしい………」
「俺は可愛い人だなって思ったよ。その後も真剣に俺の手を動きを見てて。本当に好きなんだなって思ったから。この人と話してみたいって思ったんだ」
「周くん………」
「でも、もちろんそんなに話すことなんか出来ずにその時間は終わったんだ。出来た皿は送る事になっていたから、もう会えないって思ってたんだ。だから……その……少し住所を見て、近くに住んでるってわかって。あぁ!!ストーカーじゃないからね!」
「ふふふ、わかってるよ」
少し焦ったように言う周が面白くて、吹雪は笑ってしまった。先程まで泣いていたのにこうやって笑顔になれているのは、そんな昔の事まで周がしっかりと覚えていてくれたから。
自分が忘れてしまったのが悔しいけれど、けれど、彼がこんなにも自分を知っていたことが嬉しかった。
「それにね、その教室の後、吹雪さん、食器買ったでしょ?」
「うん。一目惚れしちゃったから、工房の隣にあるお店で買ったよ。大好きすぎて、沢山使ってるんだ」
「あれ、俺の作品なんだ」
「え、えぇ………!?そうだったの?」
「うん。教授が置いてみろって言ってくれて。教授の知り合いとか、俺の友達とかは買ってくれたりはあったけど、俺の事を何も知らないで、作品を見て気に入って買ってくれたのは………吹雪さんが初めてなんだ」
「そうだったんだ………」
周はそう言うと、周はもう1度、吹雪を抱き寄せた。
ドクンドクンッと彼の早い鼓動が吹雪の体に伝わってくる。その鼓動の音を聞いていると、不思議と安心する。
「それを知った瞬間から俺は吹雪さんが気になってしまったんだ。初めての一目惚れだったと思うんだ」
そんな夢のような言葉が耳に入ってきて、吹雪は彼の胸に顔を埋めた。
私もきっと夜の華やかな街の中で周に出会った時から、何か特別な感情を抱いていたよ。吹雪はそんな事を思っていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる