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26話「甘い余韻」
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「本当に………そんな風に思ってくれてだ……」
「うん。でも、その当時は俺はまだ大学生だったし、吹雪さんは社会人だったから。声を掛ける自信がなかったんだ」
「そんな事、気にしなくていいのに。むしろ、私の方が年上だから気にしてたのに」
「年上とか年下なんて関係ない、今ならそう思えるんだけど。でも、カッコ悪いと思ってたから」
周は吹雪を抱きしめていた手で、吹雪の両頬を包んだ。吐息が感じられるほどの距離で吹雪を見つめた。その視線もそして口調も全てが優しく、愛に満ちていて吹雪は幸せで胸が苦しくなってしまった。
「その時、俺はギャラリーをすれば一人前になれる。社会人と同じように見えてもらえるはずだって、バカな事を思ってて……でも、お金がないから、先輩の柴田さんに相談したんだ。そしたら、冗談で「彼女でも出来たらお祝いにギャラリー開く資金を少し手伝うぞ。おまえの作品は俺も好きだからな」なんて、言われたんだ。もちろん。俺は本気にしてなかったけど、柴田さんは本気にしてたみたいで。そんな話しを聞いたら不安になるよね。本当にごめん。でも、俺はそんなつもり全くなかったんだ。ギャラリーをするなら自分でやりたかったんだ。柴田さんのギャラリーに連れていったのは、吹雪さんが好きな世界観だろうなって思ったからで………」
「うん。わかった………信じるよ」
「………吹雪さん、ありがとう」
彼の話しを聞くと自然と不安が消えていた。
周が話した事は本当なのだろう。彼の表情を見ていれば、それがよく伝わってきた。
「まずはボサボサの髪を綺麗にしてもらったり、先輩達から洋服を教えてもらったり、まぁいろいろしたよ。吹雪さんに会いに行くのに恥ずかしくないように頑張ったんだよ?」
「ふふふ………とってもかっこよかったよ」
「よかったー!」
周は自分の髪に触れたり、洋服を眺めたりして心配そうに話していたが、吹雪の言葉を聞いてホッとした表情になった。
「早くお金を貯めてギャラリーを借りたくて。ホストを少しだけやろうと思ってお店に行こうとしたら、吹雪さんに会ったんだ。その時ら驚いたよ!吹雪さんがホストに行くなんて思ってもいなかったから」
「ははは……そうだよね」
「だから、焦って声を掛けたんだ。他に男に取られたくないって思って。ホストの男だとしても嫌だったんだ。………その後は、吹雪さんとの関係を続けたくて、練習台になって欲しいって思い付いた事を咄嗟に言ってしまったんだ。でも、それで吹雪さんを少しずつ知っていくと、更に気になる存在になっていって…………早く自分の気持ちを伝えたいって思ったんだ。大きな会場じゃなくてもいい。小さくても俺の作品を見てもらえればいいんだって………だから、ここに吹雪さんを招待したんだよ」
そつ言うと、周は吹雪の顔を覗き込みニッコリと笑った。そして、優しく頬を撫でながら吹雪を見つめた。
ずっと会いたかった彼が目の前にいて、優しく微笑んで、そして抱きしめてくれていた。それだけでも幸せなことなのに、先程からの周の言葉の数々は、吹雪を期待させるものばかりだった。
昔の出会いも、ギャラリーを開いた理由も。全てが、今の吹雪に繋がっている。
周は自分の事をずっと考えていてくれていたのだと思えたのだ。
そして、もしかして、今日は別れの日ではいのではないか。そう思えてしまうのだ。
少し緊張しているのか、周の頬は赤くなり、目を潤んでキラキラと光って見える。
それ恥ずかしさが吹雪にも伝わってきて、先程よりも鼓動が早くなっている。
逃げ出したい気持ちになるけれど、けれど、周の言葉を聞きたくてしかたがなかった。吹雪は顔を同じように赤くさせながら、周と視線を合わせた。
「俺の気持ちは、もう伝わった?」
「………言葉にして欲しい………私、周くんの気持ちを言葉でも知りたい」
「うん…………。俺は初めてあった時から吹雪さんに惹かれて、初めて女の人を好きになったんだよ。………俺は吹雪さんが好き。恋人になってくれませんか?」
「はい。私も周くんが好き、です…………
「ほ、本当に!?やった………嬉しいよ………!」
周はそう言うと吹雪を先程とは違って強く強く体を抱き寄せ、「夢みたいだ……」も呟いた。
自分が好きだと伝え、それをこんなにも喜んでくれる人がいる。しかも、それは自分の想い人なのだ。周と同じ気持ちだったのが嬉しくて、目が熱くなる。
「やっと恋人になれるんだね」
「う、うん………」
「恥ずかしい?」
「恥ずかしいよ!だって………幸せすぎるよ」
「じゃあ、不安にさせた分、もっと幸せにするから……」
そう言って、周は吹雪に顔を寄せた。
綺麗で優しい顔が、男らしいものになっている。
吹雪はそんな彼の表情に見つめ、そして彼の唇が触れそうになると、自然と目を瞑り彼のキスに答えた。
恋人になれたと確認する甘いキス。
その行為を周は何度か繰り返した。その間に、互いのクスクスと笑う声を聞こえる。
そんな幸せな時間を、彼の夢だった空間で過ごせるのが吹雪にとっても夢のような時間だった。
「これから、よろしく」
「こちらこそ、よろしくね。周くん」
そうやって2人でソファに座り、キスの余韻に浸っている時だった。
「あのー………お取り込み中のところ申し訳ないんだけど……カフェに来たお客さんが君のギャラリーを見たいと言ってるんだけど、いいかな?」
そう声を掛けてきたのはギャラリーからドアで繋がっているカフェの店員さんだった。
吹雪はハッとし、真っ赤になりながら俯いてしまったけれど、周はそれを見て微笑みながら、頭をポンポンッと撫でてくれた。
「あー………今回は一般公開してないんです」
「周くん!せっかくのチャンスなんだよ?見てもらおう?」
周は吹雪のためにギャラリーを開催してくれた。自分だけの特別というのはとても嬉しい。けれど、周の作品に興味を持ってくれるのもとても嬉しいのだ。
吹雪は、周の言葉を遮りながら、そう伝える。すると、周は優しく微笑み返し、「そうだね」と言うと、カフェの店員さんに「ぜひ、見て欲しいです」と返事をした。
周はその後も少しずつ来客が訪れるギャラリーで、自分の作品を楽しそうに紹介していた。
そんな姿を見つめながら、吹雪は幸せな余韻に浸って、彼と蒼い食器をいつまでも眺めていた。
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