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27話「同じ気持ち」
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降り続いて雨は、周と吹雪がギャラリーを出るときには止んでいた。
周が借りたギャラリーは、本来はこの日のみの予定だったが、カフェの店長兼ギャラリーの店長が、周の作品を気に入り「この後の予定はしばらくないから、置いておいていいよ」とご厚意でそう言って貰えたのだ。そのため、この日の片付けはなく、吹雪と共に帰る事が出来た。
2人は傘を持ち、反対の手を繋いで歩いた。
「そう言えば、どうして俺が学生だってわかったの?」
「周くんが酔っぱらって家に来た事があったでしょ?その時に周くんのバックから財布の中身が飛び出てて。学生証が見えたんだよ」
「あ………あの日か……あの日は本当にカッコ悪かった」
「そんな事ないけど?何か、素の周くん見れてよかったよ。それに寝顔も可愛かったし」
「可愛い寝顔なのは吹雪さんでしょ?」
「………ぇ………」
面と向かって可愛いと言われてしまった吹雪はすぐに顔を赤くさせてしまった。すると、周はニコニコと笑いながら顔を覗き込んできた。
「初めて吹雪さんの家に泊まった時に夜中に起きて見ちゃったんだー。すっごい可愛かった」
「泣きはらして顔が変だったからおかしかったんでしょ?」
照れまぎれにそう返事をすると、周は首を横に振った。そして、「そんな事ないよ」と言った。そして、何故か彼も頬を赤くしてまた口を開いた。
「キスしたくなるぐらい……ドキドキして寝付けないぐらい可愛かったよ」
「………っっ………そんな事、言わないで……」
「だって、本当の事だし」
「私、そんな事言われて、どうすればいいの?」
「………また、キスしたくなった」
吹雪は目を潤ませて彼を見上げた。すると、周は頭をかきながら、視線をそらした。
そんな照れ屋な年下の彼を見て、更に顔だけではなく首や耳まで赤く染まってしまう。そして、どう返事をしていいのかわからずに口を開けたまま彼を見つめたまま固まってしまうと、周は「ごめん、困らせたね」と苦笑した。
「でも、俺はもっと吹雪さんと一緒に居たいし………もっと触れていたんだ」
「そ、それは私も一緒だよっ」
「………じゃあ、俺の家に来てくれる?」
突然の言葉に、吹雪はハッして彼の事を見上げる。だが、その表情には冗談など言う雰囲気ではなく、周は吹雪の返事をただただまっすぐな視線を向けて待っていた。
その視線は真剣なものでもあったが、少し熱を帯びていて、吹雪は胸がキュッと締め付けられる感覚に襲われた。
彼の家に招かれる意味など、アラサーの女が知らないはずもない。吹雪は、その言葉に迷いながらも、心の中ではすぐに決まっていた。
ずっとずっと彼と会えない日が切なかった。そして、恋人になる事が夢のような事だと想像しては胸をドキドキさせていた。
迷う必要などないはずだ。
吹雪は周が好きなのだから。
「ごめん……やっぱり困らせてばかりだね、俺は。今日はキスだけでも幸せだったから………」
「…………行く………」
「え………」
「周くんの家に行きたい」
「吹雪さん」
はしたないと思われただろうか。
恋人になってすぐに、そんな事を女が言うのは嬉しくないのだろうか。
けれど、吹雪は彼に本心を伝えたかった。自分はあなたと離れたくない。もっと近くに、触れあって居たいのだと。
吹雪は自分の声が震えてしまっているのに気づいたけれどもう彼には伝わっているのだ。
きっと、泣きそうな情けない顔をしてあるはずだ。年上らしく、スマートに誘えばいいのかもしれないけれど、そんな事を出来るはずもなかった。
そんな不安をよそに、周はいつもの優しくそして安心しきった顔で微笑むと、周の額に軽いキスを落とした。
「………よかった。俺と同じ気持ちで。嬉しい」
「…………ん…………」
周の突然のキスに驚き、吹雪は額を抑えながら周りをキョロキョロと見つめる。人通りが少ない場所だったため、他に人はいないようだったが、外でキスをされるとは思わず、口を開けて驚いてしまう。
そんな様子の吹雪を見て、周は嬉しそうに微笑み、吹雪の手を引いて歩き始めた。
タクシーに乗っている間、2人は手を繋いだまま無言だった。きっと、運転手は付き合い始めたばかりの恋人なんだろうと思ったかもしれない。吹雪は、その無言の空間は「何かしゃべろうか?」と不安になるものではなく、心地がいい間だった。繋いだ手からは、彼の気持ちが伝わってくるような気さえした。
タクシーが止まった場所には、少し古びた5階立てのアパートが建っていた。そこの2階の1番端の部屋が彼の部屋だった。
「少し散らかってるけど………どうぞ」
「お邪魔します…………」
ドアを開けて、部屋の中へ促してくれる。
吹雪は緊張しながら彼より先に部屋に入る。靴を脱いで、ストッキングのままフローリングのひんやりとした床に足をつける。
バタンッと、ドアが閉まった瞬間。周に後ろから抱きしめられてしまう。「あ……」という声は、彼の唇が首筋に触れたために出た言葉だった。
「吹雪さんが俺の恋人になったなんて………信じられないんだ。こうやって抱きしめているのに、夢みたいな感覚だ」
「…………大丈夫だよ。私は、周くんが好き。だから、恋人になったの」
「確かめさせてよ………もっともっと吹雪さんを感じさせて」
そう言うと、周は吹雪の顎を優しく支え、後ろを向くようにと指先で導く。そして、振り返りながら周からのキスが降ってくる。何度も何度もキスをするうちに、吹雪の体はいつの間にか周の方を向いており、隙間などないように2人はピッタリと体を寄せあってキスを繰り返した。口の中を貪るようなキスは、静かな部屋に荒い呼吸や水音を響かせた。キスの感覚だけではなく、その音が更に2人を興奮させていた。
「はっ………ん………」
「ん………ダメだ………止まらなくなる」
周はそう言って、髪をかきあげてながら吹雪を間近で見下ろした。その視線はギラギラとした動物的なもので、食べられてしまいそうだと吹雪はゾクリと体を震わせた。
「俺、初めてだから上手くないかもしれないけど……大切にさせて欲しい」
「うん………」
「吹雪さんの事、貰ってもいい?」
「うん…………いいよ」
吹雪が恥ずかしがりながらも、濡れた瞳のままで返事をすると、周は短いキスを吹雪の唇に落としたのだった。
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