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17話「妖精、初デートをする」
しおりを挟む17話「妖精、初デートをする」
「シュリ、今日は町に行ってみようか」
婚約した次の日。
ラファエルは朝食時にそう誘ってくれた。メイナは驚いた様子だったが、その誘いは朱栞にとっては嬉しいものだった。シャレブレ国に来てから半月、もう少しで1ヶ月ほどになるが、朱栞は城の外には出たことがなかった。部屋の窓から城下町を見るだけの日々だったので、朱栞は心踊った。
後ろに控えていたリトは、「ラファエル様ではなくメイナに行かせればよろしいのです」と反発していたが、ラファエルに「デートなのに、一緒に行かなくてどうする」と言われてしまってはどうすることも出来なかったようだった。
朝食を早めに済ませた朱栞とラファエルは、支度を終わらせて出掛ける事となった。朱栞は自室で着替えを済ませて、メイナは留守番になった。「楽しんできてくださいね」と笑顔で見送ってくれる彼女だが、ラファエルの後ろにはリトが立っていた。
「………リト、せめて隠れてついてきてくれよ。後ろについてこられては、デートにならないからな」
「それでは護衛できません」
「俺とおまえではどちらが強いのだ」
「………ラファエル様です」
「わかったなら、俺の言った通りにしろ」
「……かしこまりました」
リトは納得できないようだったが、ラファエル達から離れていき、朱栞が見た限りでは彼の姿は見えなくなった。
「シュリ、行こうか。本当は手を繋ぎたいけれどその姿なら仕方がないからね。俺の手や肩に乗るかい?」
「いえ、飛行の練習にもなるので、大丈夫です」
「わかった。疲れたら言ってくれ」
朱栞がまだ慣れない飛行でゆっくりと前に進むとその隣をラファエルが早さに合わせて歩いてくれる。
しばらくすると飛ぶのにも安定してきた朱栞を見て、ラファエルは話をかけてくれる。
「君に書簡室で地図を見せたけれど、シャレブレ国のシエレア領はシャレブレ国全域でも南の地域になるんだ。だから、1年を通して
暖かい気候なんだよ」
「確かシャレブレ国の首都は中央にあるでだよね?」
「あぁ、シャレブレは中央にある島国だよ。そして、その周りをぐるりとほぼ円状に囲んでいるのが、シャレブレ領になるんだ。12地域に分かれているから、寒い国もあれば日本のように四季がある国もある。シャレブレは四季があるよ」
シャレブレ国の地図はとても可愛らしい。
ドーナッツのように中央が穴が空いており、そこにシャレブレ国の本土があるのだ。シャレブレ国の首都を守っているような地形だった。
「四季があるなんて、本当に元の世界とそっくりだわ……」
「そうだね。気候とかは似ているだろうね。大陸は妖精と共に少しずつ変えていったという伝記があるから、きっとそうなんだろうと思うよ。君がいた世界と昔話と、シャレブレでは似ている所も多い。面白いよね」
そう言って、ラファエルは自分が守る町を見つめていた。その瞳はとても生き生きとしており、愛おしそうな慈愛に満ちた眼差しだった。
彼は本当にシャレブレという国を大切に思っているのだろう。それが十分に伝わってくるものだった。
「あ、王子様とハーフフェアリ様だー!」
「ほら、人々が君を歓迎してるよ。笑顔で、ね」
「う、うん」
初めて2人に気づいたのは小さな子ども達だった。ラファエルとその婚約者だとわかると笑顔で駆け寄ってくる。子どもの大声で、それに気づいた大人達も自然と近づいてくる。
「元気か?ちゃんとおうちのお手伝いはしてるのか?」
「してるよ!僕は王子様の護衛隊に入るために稽古もしてるんだ!」
「そうか。それは頑張っているな」
「シュリ様、初めまして。そして、ようこそシャレブレへ」
「初めまして。シャレブレ国の事はまだわからないことばかりですが、精一杯務めますので、よろしくお願い致します」
「妖精さん、きれーね。大きくなってもこんなに綺麗なの?」
「あぁ、もっと綺麗だ。俺には勿体ないぐらいのお姫様だよ」
「ラファエル様………」
ラファエルは子ども達、朱栞はその母親達に挨拶をしていく。歓迎してくれる人々ばかりで、朱栞はホッとしていく。城のような雰囲気だったらどうしようと、実際に話すまでは不安でもあった。
けれど、町を歩きながらいろんな人と話しながら、「温かい町だな」というのが第一印象だった。田舎街のような雰囲気という、遠目からの印象と、実際では良い意味で違いはなかった。
露天や店が立ち並ぶ場所を少し歩いただけで、ラファエルの手荷物はとても多くなっていた。露天で売っているシエレア名物の食べ物や小物、お花などを「お祝いの品です」と次々に渡されたのだ。最後の方は断るぐらいになってしまい、朱栞の耳元でヒソヒソと「少し逃げようか」と笑った。
そして、朱栞を自分のシャツの中に入れてしまった。朱栞は突然、彼の匂いと肌に包まれ顔が真っ赤になってしまう。けれど、ラファエルは朱栞が抗議の声を上げてもかまう事なく「しっかり掴まっててね」と言うと、魔法を使って高らかに飛び上がってしまった。
下から「ラファエル様お待ちください!」「また遊びにいらしてくださいねー」という人々の声が耳に入ったが、あっという間にきこえなくなってしまった。
そして、それと同時に体がふわりと浮いたのだ。
突然の浮遊感に、朱栞は目を丸くしながらも、必死にラファエルのシャツを内側から必死に掴んだ。その後は、落下からまた浮遊という感覚に襲われ目が回りそうになってしまった頃に「着いたよ」と、ラファエルをシャツの中から救出してくれた。
開口一番に「やめてください!」とでも言おうかと思っていたが、爽やかな風と目の前の光景を見たらそんな事を伝えようとした事をすっかり忘れてしまっていた。
「わぁ………すごい……」
そこは見渡す限りの草原であった。
高い木はほとんどなく、低い草が見渡す限り続いていたのだ。所々に緑以外の色も見えるがそれは花なのだろう。風が今とこに吹いているのか。それが草花を見ているとよくわかった。それに、雲で日陰になっているところもゆっくりと動いており、その部分が生き物が移動しているようにも見えた。
「ここってもしかして……」
「そうだよ。君が転移してきて、ここで出会ったんだ」
忘れるはずはない。
不安の中でも、異世界の美しい光景を、ラファエルの手の中で風を受けながら見た景色。
心躍ったのを今でも忘れない。
妖精がいる世界、魔法が使え、空を自由に飛べる異世界。それはここから始まったのだ。
朱栞にとって、大切な場所になるだろう。そう予感していた。
「ここは大切な場所なんだ」
「え……」
自分の心と同じ言葉をラファエルに言われ、驚いて彼の方を見てしまう。
すると、ラファエルはひどく懐かしそうに目を細めて微笑んだ。けれど、また視線を草原へと向ける。
「ここで幼い頃に魔法の練習をしたんだよ。懐かしい場所で、俺の大切な思い出が詰まっている景色なんだ」
「こんな広い場所で一人で練習していたの?」
「………うん。一人だったよ。でも、妖精はいたよ。とても小さくてかわいらしいね」
「もしかして、アレイ?昔から、一緒だったのね」
「そうだね………」
何故か苦笑いを見せるラファエルを見て、朱栞は不思議に思った。
もしかして、アレイとは仲が悪かったのだろうか。それともスパルタな練習方法だったのか。
それはわからないが、彼にとっては思い出がたくさんあるのだろう。
「私もきっとこの場所を思い出すわ。あなたと初めて会った場所だもの」
「そうだね。また大切な場所になる理由が増えたよ」
2人がいるのは、シエレア領の城下町の端に大木だった。
元の世界では見る事が出来ないほどの太い幹と高さの木の上は、雲にも届くのではないかと思わされるほどだった。
朱栞1人では、まだこの高さまで飛ぶことは出来ないだろう。
また、ラファエルに連れて来てもらおう、と朱栞は心に決めるほどの草原。
朱栞とラファエルは、そこの枝に座り、お祝いでも貰ったパンや飲み物を食べながら、初めてのデートを心ゆくまで楽しんだのだった。
そう、この場所は邪魔される事はないのだから。
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