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18話「妖精、怒られる」
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しばらくの間、朱栞とラファエルは大樹の上でゆったりとした時間を過ごした。
「それじゃあ、やはりラファエルというのは、私の元の世界での神話を元に伯爵がおつけになった名前だったのね」
「あぁ。この世界ではなかなか名前で始めは珍しがられたそうだよ」
ラファエル。
キリスト教での三大天使の1人。「癒しを与え輝く者」という言葉を伯爵が気に入ったらしく、自分の息子に名付けたらしい。
「俺に妖精たちを癒す存在になって欲しい、らしい。それは、難しいけど」
「そうなの?ラファエルは国をよくするために頑張っているなら関係しているんじゃ………」
「確かにそうかもしれない。けれど、アレイには迷惑をかけているからね」
「それはどういう………」
彼にそう質問しようとした時だった。
目の前に話に出ていたラファエルの契約妖精であるアレイが、朱栞と彼の目の前に姿を現した。
彼女は何故かいつも苛立っており、今も腕を組みながらジロリとラファエルを睨んでいた。
「そんなくだらない話をしている暇はないわよ」
「……アレイ。君は盗み聞きをしていたのかい?困ったものだ」
「だから!そんな事言ってる場合じゃないの!それに私はあなた達の盗み聞きをするほど暇じゃないわ」
「で、アレイ。その急ぎの用件というのは?」
「草原で1人の子どもが居るわ。その場所に魔物はいないけど、ずっと先にはいる」
「もしかすると遭遇かもしれないな。場所は」
「案内するわ。それと、あんた」
「は、はい!」
ラファエルと話をしていはずのアレイが突然こちらを向いて指さした。同じ妖精という小さい体だが、迫力を感じ思わず体をビクつかせて返事をする。アレイの表情はラファエルに向けるものよりも厳しいものだった。
「あなたもハーフとはいえ妖精でしょ?なんで、遠くを見ようとしないのよ。少しの魔力でも判別できないの?ボーっとしすぎじゃない!?」
「遠くを見えるって、どこまで」
「あの遠くに見える木の下よ」
「………あれって木なの?」
アレイが指さした方向。そこは、遥か先にあるぼんやりとした影が見えるか見えないかの場所のようだった。けれど、それは人間では到底見えるような距離ではないのだ。
朱栞は、目を凝らしたけれど何も見えない。
「アレイ。朱栞はまだここに来て1か月ほどだよ。急な変化は体に悪いだろう」
「ラファエルは甘やかしすぎよ。そして、あなたは甘えすぎっ」
フンッと顔を背けると、アレイはさっさと先に飛んで行ってしまった。
朱栞は慌ててついていくけれど、彼女の速さには追い付けずにどんどん離されてしまう。
知らない事が多いからと言って、知らないままでいたのは確かなのかもしれない。
やらなければいけない事があって、それに必死になっていたのは事実。
人間に教えてもらう事は確かに教えてもらっていた。けれど、自分はハーフフェアリ。人間だけではなく、妖精からも教えてもらう必要があった。
それをアレイに気付かされたのだ。
悔しいけれど、馬頭されても仕方がない事だろう。
彼女は何に苛立ったのかわからない。
けれど、本来の妖精ならば出来る事、朱栞に出来る事を「出来ない」と思ったままだったからだろう。
朱栞は必至にアレイを追った。
「シュリ。そんなに気にしなくていいんだ。俺も気づかなかったから。浮かれすぎていた、ごめん」
「ラファエルは、人間です。けれど、私は半分妖精の血が流れているから気づかなきゃいけないことがあったんですよね?」
朱栞の隣をラファエルが心配そうな表情を浮かべながら飛行している。
けれど、朱栞は悲しげな表情ではなく、必死な姿を見て彼はにっこりと微笑んでから、朱栞の質問に答えた。
「本来、妖精は人間よりも視力がずば抜けて高いんだ。かなり遠くまで見える。その目的が魔力を持つ存在であれば更に気づくのも早くなるそうだよ。それが自然の力なのかもしれないね」
「じゃあ、その遠く離れた子どもを私が見つけられたはずなのに、いつまでも気づかなかったからアレイは怒ってしまったんだ………」
「そうだと思う。けれど、本当にそこまで気にするような事じゃない。1か月、君はよくやっている」
「だけど、アレイや他の妖精とも関わるべきでした。異世界人を妖精は嫌っているという話を聞いて、自分でも気づかないうちに少し怖がっていたのかもしれない。今度からは妖精と話していかなきゃ」
自分に言い聞かせるようにそういうと、ラファエルは「わかった」と頷いてくれた。
それはとても満足そうな笑みだった。
そして、朱栞の体を優しく両手で捕まえると、一気に加速して飛び始めた。
「ラファエル?自分で飛ばないと練習の意味が………」
「今は子どもの救出が最優先だからね。急がないといけない。それに、ありがとう。シュリ」
「どうして、ラファエルがお礼を言うの?」
「アレイはあんな強気な性格だろう。だから、人間とも妖精ともトラブルになる事が多いんだ。彼女は言い方がきついけれど、思いやりもある。なかなか言えないことも気づいた方がいいことはしっかり伝えてくれるだろう。まぁ、言い方がきついのだけれども」
彼の手の中で、ラファエルを見え上げると、苦笑いをしていた。
けれど、彼の笑みはとても晴れやかだった。
「だから、あんな風にキツく言われても、言葉の意味を考えて向き合おうとしてくれたのが嬉しいんだ。アレイは、俺の大切な契約妖精。契約がなくても、彼女はいい仲間だと思っているんだ。だから、これからもアレイと仲良くしてやってほしい」
「えぇ、もちろん」
ラファエルの願いに、朱栞は力強く頷いた。
そして、風が向かってくる正面を向いて、じっと遠くを見つめる。
妖精なら、見えるはず。「出来る」と思って先を見据えると、先程とは全く違う視界が広がった。アレイが言った遠くを見ることは出来なかったが、先を飛ぶ彼女の姿をはっきりと見ることが出来たのだ。これは、先程までの視力では絶対に見えるはずのない距離だ。
「ラファエル!アレイが見えるっ!」
嬉しさのあまり飛び跳ねてながらそう言い、くるりと彼を見る。
すると、ラファエルは顔を近づけにっこりと微笑んだ。
そこでハッと気づく。はしゃぐなんて、恥ずかしい。いい年の女性が何をやっているのだろう。そう思い、一気に恥ずかしくなってしまった。
けれど、そんな事は全く気にしていないのか、ラファエルも「すごい、もう見えるなんて。さすがはシュリだ」と同じテンションで返してくれる。
その素直さと純真さ、そして優しさをまじかで感じ、朱栞は胸の奥が温かくなり、鼓動が早くなっているのに気づいた。
けれど、その感情の正体は深く追求しないように、気づかないようにしなければ。
そう冷静に思ったのだった。
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