囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。

蝶野ともえ

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19話「妖精、夕暮れを飛ぶ」

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   19話「妖精、夕暮れを飛ぶ」




 アレイにようやく追いついたラファエルと朱栞は、すぐに「妖精の事知ろうとしない私の責任だわ。これからは、いろいろ教えてね」と伝えると、アレイはあんぐりとした表情で朱栞を見つめた。そして、「面倒な時は教えないから」と返事をした後、光をまとって姿を消した。
 ラファエルが言うには照れ隠しらしい。そんな少女のように純粋なアレイが、朱栞はかわいいなと思った。


 「さて、アレイが見つけた少年はあそこだね」
 「………魔物は、近くに魔力の気配は感じないね」
 「きっと逆の方へと向かったのだろう。大事に至らなくてよかったよ。けれど、こんな遠くまで子どもが一人で居るのは危ないから町の方へと送り届けよう」


 ラファエルの提案に朱栞も頷いて同意を示した。
 ラファエルは高度を下げて、草原にあった大きな岩に座って何かをしている少年へ声を掛けた。


 「君、何をしていんだい?」
 「あ!ラファエル様と、ハーフフェアリ様だ!」
 

 天から降り立った2人を少年は笑顔で歓迎してくれる。作業を中断した彼の手にはペンと紙が束ねられた冊子を手にしていた。どうやら、何か書き物をしていたようだった。


 「絵を描いていました。新しいペンを買ってもらったから、この草原を描いてみたかったんだ」
 「見せてくれるかな?」
 「はい、もちろんです」


 そう言って少年は自分の書いた絵を見せてくれた。
 そこには大人顔負けのリアルな風景がが描かれていた。線画で黒一色だったが、その風景がすぐ想像でき今でも風を受けて草花が揺れそうなほどだった。


 「すごい、とても上手ね」
 「あぁ、本当に。君は絵が大好きなんだね」
 「ありがとうございます!すごく好きですっ!」


 そう言って、少年は自分の書いた絵を次々に見せてくれた。
 彼の絵は自由だった。風景画もあれば人物画、食べ物や想像画もあった。

 元の世界でいえば中学生に上がる前、10歳未満の子どもだろう。
 その少年はホープという名だと教えてくれた。彼はサラサラの灰色の髪に少し日に焼けた肌、そして垂れ目が印象的な子で小柄な体系だった。そして、丁寧な口調で穏やかな性格をしていた。


 「ホープ。俺達はそろそろ町に戻ろうと思うんだ。君も一緒に帰らないかい?飛べばあっという間だよ」
 「空を飛んでみたいんですけど…。でも、もう少しここで絵を描いてから帰ります。この絵を完成させたいんです」
 「君を怖がらせるわけではないけど、実は少し先に魔物がいてね。だから、君のところへ来たんだ。ここは町から離れすぎている。少しだけ距離を移動しないと危ないだろう」
 「え、魔物……」


 すっかり怯えてしまったホープだったが、やはり絵を描きたいのか迷った様子で持っている絵を見つめる。そんな彼を見てしまうと、申し訳なくなってしまう。彼にとって、この時間は何よりも楽しい時間なのだとわかる。けれど、身の危険は避けなければいけない。ホープからはほとんど魔力を感じない。おさらく、火をつけたり、物を避けたりする程度の簡単な魔法しか使えないだろう。魔物が出たら自分を守る手段はないだろう。


 「それなら、完成するまでここに居るわ」
 「あぁ。そうだな、それがいい」
 「え、でもラファエル様達は帰るって………」
 「今日はデートなんだ。デートのプランは2人で決めるものだからね。たった今、ホープと一緒に居ようと2人で決めたんだ。だから、ゆっくり絵を描くといいよ」


 朱栞とラファエルは顔を合わせて微笑む。同じ考えだったのが嬉しかった。
 それをホープは驚いた顔を見せた。「本当にいいの?」と何回も聞いた後、「ありがとう!」と2人の笑み以上の笑顔を見せてくれた。

 その後、ホープはニコニコしながらペンを走らせていた。
 細かく動くペン先から、繊細な絵が産まれていくのを、感心しながら見つめた。だが、朱栞は気になることがあった。それは、先程ホープに見せてもらった絵の中にあった。
 彼が真剣に絵を描いているのを邪魔をしたくなかったが、朱栞は恐る恐る問いかけた。


 「ホープ。絵を描きながらでいいから聞いて欲しいんだけど。さっき見せてくれた絵の中に、足は魚で上半身は人間の絵があったでしょ。あれは、ホープが考えたのかしら?」
 

 彼の自由な絵の中に、小さくだかそんな絵があった。そこに描かれていたのは、元の世界でよく見られるような女性ではなく、上半身は男性のものだった。けれど、それはどこから見ても人魚だったのだ。メイナは、人魚姫の話をした時に人形の事は全く知らなかった。それを魔物だと思ったぐらいだ。
 それなのに、何故彼は知っているのだろうか。
 メイナは知らないだけで、元の世界と同じような伝説がこの世界にもあるのかもしれない、と思ったのだ。


 「僕が考えたんだよ。面白いでしょ?でも、海はとっても広いって聞いたことがあるから、知らない生き物がいるかもしれないなーって思ったんだ」
 「えぇ、素敵だわ。でも、もしかして、人魚の事を知っているのかと思ってしまったわ」


 やはり、シャレブレ国には人魚の伝説は残っていなかったようだ。
 元は同じ世界だとしても、違いはあるものだ。


 「人魚?そっか、ハーフフェアリ様は異世界人だったんだよね。もしかして、本当に半分お魚の生き物がいたの?」
 「実際に見た事がある人がいるわけじゃないんだけど。伝説として残っているの。本当か嘘なのかわからないけれど。「人魚」と言われていたわ。そのほかにもいろんな架空の生き物がいたわよ。羽と角が生えた馬や、角がある人間、竜とよばれる巨大な生き物とか。いろいろなお話があるわ」
 「すごい!!いっぱい聞いてみたい」


 初めて聞く異世界の話に、興味津々になってしまったホープは、すっかり手が止まってしまっていた。そんな様子をラファエルは微笑ましく見ていたが、ゆっくりと口を開いた。


 「ホープ。まずはその絵を完成させよう。それから、シュリから話しを聞くと言い。俺も聞きたいと思っていたんだ。今日は3人で物語を楽しもうじゃないか。夕暮れの空を飛びながらはどうだい?」
 「いいの?じゃあ、お母さんに聞いてみないと!あ、その前に絵を描いちゃうね!待ってね」


 そういうと、彼は先程よりも早く、そして賢明に手を動かしていた。
 それでも、手を抜くことはなく真剣に描くところが彼らしい。


 無事に草原の絵を描き上げたホープを抱き上げたラファエルと、ラファエルの肩に乗った朱栞は夕暮れの赤に染まる空をゆっくりと飛んだ。
 そして、「物語会」と呼ばれた穏やかな時間を、3人で過ごした。

 朱栞は、ラファエルとホープの真っ赤に染まり輝く瞳を見つめながら、心躍る物語たちをゆっくりと紡ぎ続けたのだった。
 それは陽が落ちて朱栞が人間の姿に戻るギリギリまで続いた。



 
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