囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。

蝶野ともえ

文字の大きさ
21 / 41

20話「王子、闇夜に決意する」

しおりを挟む





   20話「王子、闇夜に決意する」




 ホープを家に送った朱栞とラファエルは、そのまま城へと戻ることにした。予定はかなり変更になってしまったけれど、とても素敵な出会いになった。
 それに、朱栞にとっても大きな収穫にもなった。やはりこの世界でも子ども達は空想の物語が大好きだという事だ。
 物語を通して、自分と違う人の考え方を知ることも出来るだろう。作者の考え、登場人物の考え、そして知恵や言葉も得られるはずだ。夢中になりながら学ぶ事も出来、そして大きくなってからのかけがえのない思い出にもなる。
 ホープにもそうなって欲しいと思った。

 帰り道、そんな事を考えていた。
 が、その思考は途中で遮られてしまう。


 「っっ!……ラファエル………」
 「あぁ………大きな魔法を使った気配があるね」


 調度、2人が飛んでいた場所の真下にはあの祈りの聖堂があった。堂内からは、もう夜になっており光りは見られない。人がいるとは思えないが、朱栞も魔力を感じていた。
 今は人間の姿になっており、ラファエルに抱き抱えられて宙に浮かんでいる。彼を見上げると、そこには見たこともない鋭い視線と引き締しめている口元が見えた。真剣そのものの表情は怒りがあったのだ。綺麗な顔が更に迫力を感じさせる。


 「ラ…ラファエル……」
 「リト!」
 「はい」


 ラファエルが呼ぶと、後方にどこかに控えていたリトが姿を表した。こちらはいつもと変わらない無表情だったけれど、焦りは見られる。
 やはり、ただ事ではないのだった。朱栞にも緊張が走った。


 「行ってくれ」
 「かしこまりました」


 言い捨てるように命令するラファエルの声はとても低い。温度が通っていない冷たい声音だった。リトは来たとき同じように音もなく闇に消えた。


 「ラファエル……大丈夫?」
 「大丈夫さ。リトがしっかり調査してくれる。それに他の護衛隊や警備隊もかけつけるだろう」
 「何か……あるの?」


 ただの魔力を感知しただけならば、そこまで神経を尖らせる必要がないように思われた。場所が場所だけに、心配ではあるが。
 ラファエルは何かを危惧しているのではないか。朱栞はそう感じてたのだ。


 「そんなに気にすることではないよ。ごめん、シュリを怖がらせるつもりはなかったんだ」
 「……私は大丈夫よ」


 何か困っている事があるなら話してほしい。あなたは、何を心配しているの?

 そう聞きたかった。
 けれど、異世界から来たばかりで力があるだけのハーフフェアリ。
 そして、いつも大切にしてくれるが自分は契約の婚約者だ。自分からそれを持ちかけたのに、何かあったら頼って欲しいなどおかしな話だろう。


 「……私の力が必要な時はしっかり話してね」


 けれど、契約妖精なのは事実なのだ。
 莫大な魔力を制御するため、他の存在や犯罪に使われないようにするためだとしても、王子である彼が適正に使用するならば。そう思った。
 そんな事でしか役に立てない自分を恥じながらそう彼に伝えると、ラファエルは目を細めて「ありがとう。いざという時は頼りにしている」と、微笑んでくれた。
 それだけで、どこかホッとしてしまう自分が、朱栞は嫌になりそうだった。








   ★★★



 魔法と言っても種類はそれぞれだ。
 思った通りの事を魔法で行うためには魔力が必要になる。

 人を一人殺すのと、街全体を焼き滅ぼすのでは、必要となる魔力の大きさが異なるのは当たり前の事だった。


 「ラファエルよ。それではシャレブレの祈りの聖堂にまで、奴らは現れたののか」
 「はい。夜だと言っても、日が暮れて間もなくの時間帯です。確かに聖堂は閉まっており人気はありませんでしたが、それでも表通りには人はたくさんいましたので、かなり大胆な犯行でした」


 今、ラファエルが話している相手。
 それは、鏡の中に映る者とだった。と、いってもそれは自分自身ではない。
 そこにはシャレブレ国国王の姿があった。シャレブレ国王は、本土に居る。もちろん、ラファエルも自分の領地にいるので、遠く話せた場所にいる。
 けれど、鏡に姿を映すことで、会話をする事が出来るのだ。これはかなり高度な魔法であり、それを行っているのは、国王とラファエルの契約妖精の魔力のおかげだった。
 しかも、鏡を通じての会話はもちろん2人しか聞くことは出来ないので、内密な話をするときはかなり有効であった。


 「それで被害は?」


 国王は厳しい顔つきでラファエルに質問をした。
 シャレブレという大国を纏める今の国王は若い。ラファエルの年の離れた兄のような存在であった。肩まで伸びた髪はダークブラウンで、その髪を後ろで縛っている。顔は少し強面のため年齢よりも年上に見られる。
 そして、若い国王だとしても一国の長だ。彼は親戚でもある王子に厳しい。いや、自分にもそしてどんな相手であっても厳しい。そのため、ラファエルは国王に謁見する時は、いつも肩に力が入ってしまう。
 しかも、今回は全て良い報告ではない。ラファエルは、眉を下げて小さく頭を下げた。


 「被害に遭った者はいません。ですが、首謀者には逃げられました」
 「またか。優秀なものが多い領土なのにどうした」
 「申し訳ございません」
 「謝罪の言葉などいらんよ。望むのは奴ら組織の壊滅だ。ラファエル、私はおまえの力を頼りにしているんだ。そのために、おまえの婚約を認めたのだ。わかるか?」
 「はい。感謝しております。国王の信頼に恥じぬよう必ずや成功させてみせます」
 「期待している。もし難しい場合は婚約者のハーフフェアリの力を使う事も許可する。そのための契約妖精でもある。婚約を認めたのも半分それが要因だしね。使えるものは使えばいい。被害は最低限に抑えるのは守って欲しいがな」
 「最後の手段として考えています」
 「それはおまえに任せる。いい報告を期待している」
 「はい」


 そう言って、深く頭を下げると、鏡の表面がゆらいで国王の姿はゆっくりと消えていった。そしてラファエルが顔を上げる頃には、普通の鏡に代わっており、そこには無表情な自分の表情が写っていた。


 「俺はシュリを守るために契約したんだ。使うためじゃない」


 聞く相手もいない鏡の前で、強くそう言葉を落とし、その場を後にした。
 やることは一つ。
 奴らを見つけて、殲滅することだ。

 ラファエルは、鏡が置いてある地下室を後にして、彼女が眠る自室へと向かった。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...