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20話「王子、闇夜に決意する」
しおりを挟む20話「王子、闇夜に決意する」
ホープを家に送った朱栞とラファエルは、そのまま城へと戻ることにした。予定はかなり変更になってしまったけれど、とても素敵な出会いになった。
それに、朱栞にとっても大きな収穫にもなった。やはりこの世界でも子ども達は空想の物語が大好きだという事だ。
物語を通して、自分と違う人の考え方を知ることも出来るだろう。作者の考え、登場人物の考え、そして知恵や言葉も得られるはずだ。夢中になりながら学ぶ事も出来、そして大きくなってからのかけがえのない思い出にもなる。
ホープにもそうなって欲しいと思った。
帰り道、そんな事を考えていた。
が、その思考は途中で遮られてしまう。
「っっ!……ラファエル………」
「あぁ………大きな魔法を使った気配があるね」
調度、2人が飛んでいた場所の真下にはあの祈りの聖堂があった。堂内からは、もう夜になっており光りは見られない。人がいるとは思えないが、朱栞も魔力を感じていた。
今は人間の姿になっており、ラファエルに抱き抱えられて宙に浮かんでいる。彼を見上げると、そこには見たこともない鋭い視線と引き締しめている口元が見えた。真剣そのものの表情は怒りがあったのだ。綺麗な顔が更に迫力を感じさせる。
「ラ…ラファエル……」
「リト!」
「はい」
ラファエルが呼ぶと、後方にどこかに控えていたリトが姿を表した。こちらはいつもと変わらない無表情だったけれど、焦りは見られる。
やはり、ただ事ではないのだった。朱栞にも緊張が走った。
「行ってくれ」
「かしこまりました」
言い捨てるように命令するラファエルの声はとても低い。温度が通っていない冷たい声音だった。リトは来たとき同じように音もなく闇に消えた。
「ラファエル……大丈夫?」
「大丈夫さ。リトがしっかり調査してくれる。それに他の護衛隊や警備隊もかけつけるだろう」
「何か……あるの?」
ただの魔力を感知しただけならば、そこまで神経を尖らせる必要がないように思われた。場所が場所だけに、心配ではあるが。
ラファエルは何かを危惧しているのではないか。朱栞はそう感じてたのだ。
「そんなに気にすることではないよ。ごめん、シュリを怖がらせるつもりはなかったんだ」
「……私は大丈夫よ」
何か困っている事があるなら話してほしい。あなたは、何を心配しているの?
そう聞きたかった。
けれど、異世界から来たばかりで力があるだけのハーフフェアリ。
そして、いつも大切にしてくれるが自分は契約の婚約者だ。自分からそれを持ちかけたのに、何かあったら頼って欲しいなどおかしな話だろう。
「……私の力が必要な時はしっかり話してね」
けれど、契約妖精なのは事実なのだ。
莫大な魔力を制御するため、他の存在や犯罪に使われないようにするためだとしても、王子である彼が適正に使用するならば。そう思った。
そんな事でしか役に立てない自分を恥じながらそう彼に伝えると、ラファエルは目を細めて「ありがとう。いざという時は頼りにしている」と、微笑んでくれた。
それだけで、どこかホッとしてしまう自分が、朱栞は嫌になりそうだった。
★★★
魔法と言っても種類はそれぞれだ。
思った通りの事を魔法で行うためには魔力が必要になる。
人を一人殺すのと、街全体を焼き滅ぼすのでは、必要となる魔力の大きさが異なるのは当たり前の事だった。
「ラファエルよ。それではシャレブレの祈りの聖堂にまで、奴らは現れたののか」
「はい。夜だと言っても、日が暮れて間もなくの時間帯です。確かに聖堂は閉まっており人気はありませんでしたが、それでも表通りには人はたくさんいましたので、かなり大胆な犯行でした」
今、ラファエルが話している相手。
それは、鏡の中に映る者とだった。と、いってもそれは自分自身ではない。
そこにはシャレブレ国国王の姿があった。シャレブレ国王は、本土に居る。もちろん、ラファエルも自分の領地にいるので、遠く話せた場所にいる。
けれど、鏡に姿を映すことで、会話をする事が出来るのだ。これはかなり高度な魔法であり、それを行っているのは、国王とラファエルの契約妖精の魔力のおかげだった。
しかも、鏡を通じての会話はもちろん2人しか聞くことは出来ないので、内密な話をするときはかなり有効であった。
「それで被害は?」
国王は厳しい顔つきでラファエルに質問をした。
シャレブレという大国を纏める今の国王は若い。ラファエルの年の離れた兄のような存在であった。肩まで伸びた髪はダークブラウンで、その髪を後ろで縛っている。顔は少し強面のため年齢よりも年上に見られる。
そして、若い国王だとしても一国の長だ。彼は親戚でもある王子に厳しい。いや、自分にもそしてどんな相手であっても厳しい。そのため、ラファエルは国王に謁見する時は、いつも肩に力が入ってしまう。
しかも、今回は全て良い報告ではない。ラファエルは、眉を下げて小さく頭を下げた。
「被害に遭った者はいません。ですが、首謀者には逃げられました」
「またか。優秀なものが多い領土なのにどうした」
「申し訳ございません」
「謝罪の言葉などいらんよ。望むのは奴ら組織の壊滅だ。ラファエル、私はおまえの力を頼りにしているんだ。そのために、おまえの婚約を認めたのだ。わかるか?」
「はい。感謝しております。国王の信頼に恥じぬよう必ずや成功させてみせます」
「期待している。もし難しい場合は婚約者のハーフフェアリの力を使う事も許可する。そのための契約妖精でもある。婚約を認めたのも半分それが要因だしね。使えるものは使えばいい。被害は最低限に抑えるのは守って欲しいがな」
「最後の手段として考えています」
「それはおまえに任せる。いい報告を期待している」
「はい」
そう言って、深く頭を下げると、鏡の表面がゆらいで国王の姿はゆっくりと消えていった。そしてラファエルが顔を上げる頃には、普通の鏡に代わっており、そこには無表情な自分の表情が写っていた。
「俺はシュリを守るために契約したんだ。使うためじゃない」
聞く相手もいない鏡の前で、強くそう言葉を落とし、その場を後にした。
やることは一つ。
奴らを見つけて、殲滅することだ。
ラファエルは、鏡が置いてある地下室を後にして、彼女が眠る自室へと向かった。
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