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22話「妖精、怯える」
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ラファエルの魔力は不思議だった。
大きな魔力を持っているから気づきやすい。それなのに、なぜか怖いと思わないのだ。彼の人のなりを知っているからかもしれない。でも、それだけではないような気がしていた。
ラファエルは人を安心させるオーラでも出ているのではないか。そんな風に思うのだ。穏やかな気持ちにさせる彼の魔力。だからなのか、彼が城に帰ってきても気づかない事が多く、足音や声を聞いたり、彼に声を掛けられるまで感じない。けれど、彼の姿を見てしまえば魔力はあふれ出ている。不思議だ。
けれど、今日は違った。
そろそろ日が暮れてくる時間になり、妖精から人間に姿を変わってしまうため、朱栞が部屋に戻っていた。夕食前にはラファエルが戻ると聞いていたので、彼の部屋の明かりをつけて夜になるのを待っていた。フッと窓の外を見ると、鳥たちが空を同じ方向へと向かって飛んでいる。町からは離れ、草原の方へと向かっている。その先にある森にある自分たちの巣に向かっているのだろう。元の世界では、スズメやカラスをよく見られていたが、この世界では南国にいるような、色鮮やかな鳥が多い。この場所は南国なのだと感じられる瞬間だ。朱栞が見上げる空にも赤や黄色、青や緑色など、見ているだけで心躍る色が流れるように飛んでいる。
「っ………何、これ………」
その時だった。
朱栞は鳥肌が立つような感覚に襲われたのだ。
それは、自分の喉元に刃物を当てられたような緊張と恐怖感。鳥肌の後は震えさえ感じた。先ほどまで優雅に飛んでいた鳥たちも、今は大きな鳴き声を掛け合って騒がしく飛行し、蛇行しながら飛行している。魔力を感じなくても、この恐怖を野生の勘で察知しているのかもしれない。
目の前の空に鳥がいなくなったと思ったが、ある者たちが目に入って生きた。
それは、どこかから帰ってきたラファエルとリトだった。
朱栞はじっとその姿を見据える。アレイに教えてもらった通り、見たいと思ったもの照準を当てて、瞳に魔力を溜めていく感覚だ。そして、ラファエルを見る。そうすると、対象が目の前に居るかのように鮮明に見えるのだ。それが成功したのか、ラファエルもよく見える。
が、それは本当に彼なのか、と自分の目を信じられなくなるぐらいに表情が違う。いつも陽のように明るい笑顔はなく、冷たい血の通っていない顔。初デートの帰り道の時よりもそれは暗く、咄嗟に視線を逸らしてしまうぐらいだった。怒っている。そんな表情では足りないぐらい憤怒し、そしてそれなのに冷静さを感じるから更に恐ろしく感じる。
ラファエルもこの魔力を感じているから厳しい顔つきになってしまっているのだろうか。
それに自分の見違えなのかもしれない。影で雰囲気が違うように見えたのかもしれない。そう思って再度顔を向ける。
と、先程の魔力を使った視線に気づいたのか、ラファエルがこちらを向いていた。そして、いつも通りの笑みを浮かべて、にこやかに手を振っている。きっと、彼は朱栞を見ることは出来ないだろうが、朱栞だとわかったからの行動だろう。
朱栞は少しホッとして、彼を見つめた。
先程の魔力は何だったのか。彼にも聞いてみようと、朱栞は城の玄関へと駆け出した。
玄関まで彼を迎えに行くと、「シュリっ!」とホールに声が響いた。この白の入り口はとても広い。ダンスパーティーでも出来てしまうのではないかと思うほどだった。そんな場所で、名前を呼ばれると少し気恥ずかしくもあった。
「おかえりなさい、ラファエル」
「シュリが出迎えてくれるなんて初めてだね!すごく嬉しいよ」
そう言うラファエルはシュリに近づいて、頭の後ろに手を伸ばし朱栞を引き寄せて、抱きしめてくれる。そんな様子を城の者たちは、頬を染めたり、視線を逸らしたりしながたやり過ごしていたが、ラファエルの後ろに立つリトはいつも通り無表情のままだった。
だが、そんな事を主栞が気にしている余裕はなかった。
彼に触れた瞬間に、朱栞はわかってしまった。
先程恐怖を感じた凍えるように冷たい魔力は、ラファエルが発したものなのだ、と。先ほどの魔力と全く同じものがラファエルには微かに残っていた。普段とは違った魔力の雰囲気に朱栞は戸惑ってしまう。そして、怖さから自然と体が震えてしまう。
それを気づかれないように、朱栞はゆっくりと彼から離れた。顔を下に向けたせいもあってか、ラファエルは何も言わない。きっと恥ずかしさから離れたのだ、と思ったはずだ。
「ご、ごめんなさい。……いつもはあまり気づかなくて、今日は魔力を感じたの」
「……あぁ。だから、俺の事を妖精の眼で見ていたのか。どうしたのかな、と思ったよ」
彼が、話した通りラファエルが帰ってくると、朱栞が居る場所まで彼が訪れて「ただいま」と言ってくれていた。王子を迎えもしない婚約者なんて、本来ならば無礼な事だったのだろう。朱栞はそんな風に思いつつも、冷静に考えられなかった。
彼が何かに魔力を使ったのは明確だ。となれば、そんな強大で彼の気持ちが怒りを表しているほど安定しない事は何なのか。どんな事をしてきたのか。
それを聞きたいが、怖くて聞けるはずもなかった。
「シュリ」
「は、はい」
「今日は一人にしてごめんね。変わりの夜は時間を作るよ。今日は何をして過ごしていたのか教えてくれ。もちろん、君の素敵な物語の話を聞くのでもいい。それが俺の楽しみだからね」
「わ、私もラファエルに話したい事があったの。聞いてくれる?」
「もちろん。じゃあ、俺は仕事の整理と着替えをしませてから食事をするよ」
「待ってるわ」
「ありがとう。それじゃあ、また」
ラファエルは朱栞の頭を撫でると、颯爽とホールからいなくなる。
王子の後には何人もの部下がおり、朱栞に小さく礼をした後に彼について行ってしまう。
そんな部下たちは共通して、腰に長い剣や、短剣、拳銃などの武器おさめられているのがわかる。シャレブレでは武器の所持は認められていない。が、認められている人たちもいる。王子の護衛隊や警備隊だ。この国では魔法が使えるのでほとんど武器はしないようだが、それでも武器を目の当たりにすれば誰でも緊張感をもつ。犯罪の抑止力になるだろう、とラファエルは朱栞に教えてくれていた。
そんな物騒な部隊を引き連れて帰ってきたのだ。やはり、危険なことがあったのだろう。
今になって気づけば、近くに居たメイナや他のメイドたちも緊張した面持ちであった。
ラファエルは何か危険な事をしている。
朱栞は、そう確信したのだった。
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