囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。

蝶野ともえ

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38話「妖精と王子の赤い羽根」

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   38話「妖精と王子の赤い羽根」



 しかし、穏やかな時間はそう長くは続かなかった。
 ラファエルはカーネリアとの時間が、ずっと続くと思っていたが、そうは上手くいかないのだ。


 「ハーフフェアリを異世界へ避難させる。決行は明日だ」


 国王からその通達が来たのは、前日の昼過ぎだった。
 それを聞いたラファエルは、大きなため息が出た。

 カーネリアはシャレブレにとってかなり重要な存在だった。
 だが、もしカーネリアがシャレブレ国外の敵対する国や、国内であっても反勢力のものになってしまえば、かなりの脅威になるのだ。そのために、カーネリアの存在はかなり重要なのだ。
 そのため扱いが慎重である。
 今はシャレブレで戦力が高いとされているラファエルの元にいるのが安全とされているが、ラファエルも異世界へ避難した方が彼女にとっては安全ではないかと考えなかったわけではない。むしろ、1番始めに思いついた方法だったかもしれない。


 「やはり、カーネリアとは離れたほうがいいのか」


 ラファエルは、そう呟きながらも離れたくない思いが押し寄せてくるのを感じた。彼女と離れてしまう事を考えると、とてつもなく悲しくなるのだ。

 異世界に行くとなると不安要素もある。
 まずは記憶の事だ。異世界に行くとなるとラファエルの両親やラファエルは何故か記憶の影響を受けなかった。だが、他の人々が転移するとなると高い確率で記憶を失ってしまうのだ。魔力が高ければ何とかなる場合もあるが、異世界では魔法は使えない。そのため、全く意味がないものなのだ。だが、記憶を残しておく方法が1つだけはある。それを行うしかないのだ。
 そして、1番の不安は彼女の傍にいれないことだ。シャレブレ国からの脅威はなくなるものの、異世界で生活していれば、他の不安もある。病気、事件、怪我、そして妙な男がカーネリアに寄り付かないかも心配だった。ラファエルも異世界に行きたかったが、王子として領地を離れるわけにはいかないのだ。彼女を守れなくなる。それが心配で仕方がなかった。


 「どうして……?何で、異世界に行かなきゃいけないの?怖いよ……」


 カーネリアには黙って異世界に転移させた方が悲しませずに済んだのかもしれない。記憶をなくしてしまうのだから、そうすれば異世界を謳歌できたのかもしれない。
 けれど、ラファエルはカーネリアに嘘などつけるわけはなかった。
 彼女に正直に話しをすると、カーネリアは案の定不安な表情になり、ラファエルに問い詰めた。

 「カーネリアの安全のためだ。時々、会いに行くよ」
 「時々でしょ?今みたいにずっと一緒じゃないなら行きたくない」 
 「国王からの命令だ。それに背くことは出来ないよ」
 「守ってくれるって約束したじゃない……!」
 「俺だって君の傍を離れたくない。けど、この間だってカーネリアを誘拐しようとした奴がいただろう」
 「でもラファエルがいたから助けてくれた!それじゃダメなの?」


 つい先日もカーネリアは魔力目当ての人間に襲われた。
 だが、それをラファエルが助け、何事もなく終わった。だが、それはラファエルが傍にいたからだ。ラファエルがずっと一緒にいれるわけもないのだ。


 「君が戻ってくるまでに、俺は立派な王子になる。そして、妖精の密売組織をこの領地からなくすよ。それが、国王との条件なんだ」
 「そんな……」
 「カーネリアは異世界でいろいろな物語を覚えてきてくれないか。異世界ではたくさんの国があって、たくさんの物語があるんだよ。君が知っているのはほんの一部だ。俺は君の声で物語を聞くのが楽しみなんだって知ってるだろう。だから、異世界でたくさん学んできて。きっとシャレブレでも役に立つ。カーネリアは、立派な姫になるんだろ?」
 「……ずるいわ。そんな風に言うなんて…」
 「男はずるい者なんだ。覚えておいて」
 「……本当はラファエルはそんなにずるくないもの。いつも優しい。だから、今日だけはそのお願いをきいてあげることにする………」
 「カーネリア……」


 カーネリアの瞳には涙が溜まっていた。
 けれど、必死に堪えて、流れないように微笑んでいる。精一杯の強がりだ。本当に彼女らしい。
 ラファエルの大好きなカーネリアがそこには居た。
 笑顔で強くて、自分を大切に思ってくれる。美しいカーネリア。


 「君に、この羽をあげるよ」
 「これって、この間一緒に飛んだ鳥の羽?」


 ラファエルの手には、真っ赤な鳥の羽があった。
 それは少し前に山にいた色鮮やかな赤い鳥と共に空の散歩をしていた時に鳥からもらったものだった。カーネリアは鳥のような羽をもった妖精だ。そのせいか、鳥によく懐かれる。そのため、一緒に飛んでいたラファエルにもよく鳥が近づいてくるようになったのだ。その時は、赤い鳥がラファエルを気に入ったようで、自分の赤い羽根をくちばしで取り、ラファエルにくれたのだ。カーネリアは「その子、女の子よ。ラファエルはモテるのね」と鳥相手に嫉妬してくれた彼女がとてもかわいかったのを覚えている。
 その時の羽をラファエルはカーネリアに渡した。


 「君と大好きな空を散歩した時の大切な思い出の品なんだ。だから、帰って来たらきっと返してくれ」
 「うん。絶対に返す。ラファエル、無理はしないでね」
 「あぁ、カーネリアも……」


 最後にラファエルとカーネリアは抱き合い、どちらともなく短いキスをした。
 その日、2人ははじめてのキスをした。それがしばしの別れの合図になってしまう。



 ラファエルは、どうしてもカーネリアに記憶の事を伝えられなかった。
 自分の事を忘れると知ったら、きっと悲しむだろう。
 嘘は伝えなかった。けれど、彼女に伝えられなかった事を少しだけ後悔した。

 帰ってきたら、記憶を戻して謝ろう。
 たくさん怒られて、泣かれるだろうが、それもしっかり受け止めて、会えなかった時間を沢山愛でよう。

 何年会わないことになるのかわからない。
 10年以上はかかるだろうと、ラファエルは思っていた。

 カーネリアはラファエルの両親の魔法を使い、異世界へと転移した。
 そして、記憶を無くして、新しい異世界で、昔から過ごしていたかのように生活をし始めたのだ。ラファエルの事など全く思い出さずに。










    ☆☆☆



 「………怒ったか?」
 「怒った!!すっごい怒ってる。そんな大事な事、どうして早くに教えてくれなかったの?」


 朱栞は、話しを聞きながら大きな涙を沢山流していた。
 まだ記憶は戻っていないが、どこか懐かしくて、その話をすんなりと受け入れる事が出来た。体の1部分が少しずつ取り戻されていくような感覚だ。


 「本当はまだ君をシャレブレに戻す予定ではなかったんだ。まだ、妖精の密売組織を完璧壊滅できてなかったからね」
 「じゃあ、どうして、私を?」
 「俺が我慢できなかったっていうのもあるけど。1つは穂純だ。君を連れて来て魔力をあげたかった。彼の魔力は強かったからね。国王にお願いしたんだ」
 「だから、私と契約を結んだのね。じゃあ、婚約は……」
 「国王が、密売組織を壊滅できなければ婚約を認めないと言われていてね。仕方がなく、だよ。記憶を一気に戻せば、君の体が心配だった。ただでさ、久しぶりにこの世界に戻ってきて慣れない魔力を一気に戻したんだ。記憶はゆっくり戻そうと思ったんだよ」


 そう言って、ラファエルは朱栞の頭を撫でた。
 昔の話をし終わったからだろうか、彼の距離がいつも以上に近い。朱栞は話を聞いたにしろ記憶は戻っていないので、少し恥ずかしくなってしまう。昔から両想いだったなんて、信じられなかった。


 「じゃあ、穂純さんはもしかして……」
 「君に近づいたから、こちらに飛ばした。もちろん、悪さをするような存在ではなかったらそんな事はしなかったけど、あの男はあの世界でも十分悪かったからね。君が、そんな男を好きになるとは思わなかったけれど」
 「う………、ごめんなさい」
 「仕方がないよ。記憶がないんだからね」
 「って、ラファエル怒ってるでしょ?」
 「……怒ってる。俺はずっと寂しく君を思っていたのに、カーネリアは違う男を好きになっていたなんて。俺のお姫様になってくれるって言ってたのに……」


 そう言いながら、ラファエルは朱栞を抱きしめそのままベットに押し倒してしまった。
 彼の口調は冗談を言っているようなのに、表情は真剣そのものだ。
 本当に怒っているのだろう。
 先程まで朱栞が怒っていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転してしまっていた。

 けれど、今はそんな事はどうでもよくなっていた。
 ラファエルに見つめられ、彼の体温を感じながら、カーネリアと呼ばれた瞬間に、胸の奥底が熱くなっていくのを感じた。
 そうだ。ずっと、その名前で呼ばれたかった。大好きな彼にその名前で呼んで抱きしめてもらいたかった。最後に交わしたキスの続きをしてほしかったのだ。


 「あっちの世界の名前は、僕が決めたんだよ。朱栞。いい名前だろう?」
 「朱い栞(あかいしおり)。もしかして、あの羽の?」
 「そう。あの羽を受け取ったカーネリアは、「栞にして毎日みる」と言ってくれたからね。シュリもいい名前だけど。やはり、君はカーネリアの方がしっくりくる。君がこの世界に戻って来た時から、ずっとその名前で呼びたかったんだ」
 「もっと、たくさん呼んで。私もラファエルの声で、そう呼ばれるのが好き」
 「カーネリア、カーネリア。君に会いたかった。やっと本当の君に会えた気がする。ずっとこうやって抱きしめて、名前を呼んで、キスをしたかったよ…」
 「私も…」


 ラファエルと朱栞は、長い間見つめ合い、お互いの頬に触れながら、ゆっくりと唇を合わせた。ゆっくりだったキスは次第に深くなり、静かな部屋に水音と2人の吐息を混じり合う。
 そして、10年も会えなかった日々を埋めるように、お互いの名前を呼び合って、何度も何度もキスをする。


 もう誰も、記憶も、時空も、邪魔するモノはいない。

 2人の物語は、またゆっくりと進み、ハッピーエンドを迎え、またそこから進もうとしていた。








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