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エピローグ
しおりを挟むエピローグ
「カーネリア姫。本の発売、おめでとうございます!」
「ありがとう、ホープ。あなたが素敵な絵を描いてくれたからすごく好評なのよ。子どもたちにも読みやすいって、言われてね。嬉しいわ」
「お役に立てて光栄です。また、新しい本も出す予定なんですよね」
「えぇ。また時間があったらホープにお願いしたいと思ってるんだけど」
「もちろん、描かせていただきます。楽しみです」
「よかった、ありがとう」
本を発売してから数日が経った。
この日は、ホープが城まで訪れてくれ発売を祝ってくれた。
「人魚姫」の本は発売から大人気になり、売り切れが続出していた。みんなに楽しんでもらいたいと、値段もかなり安くした。そのため、子どものおこづかいでも買えるとあって、皆が本屋に集まって買ってくれたのだ。発売前に、カーネリアは城下町の噴水広場で朗読会をひらいたりして、物語を楽しめるようにとしていたおかげで、噂も広がっていた。始めは子どもたちだけの集まりになっていたが、少しずつ大人にも広まり、本を楽しみにしてくれる人々が多くなっていた。
お金を集める事は始めは悩んでいたカーネリアだったが、「お金は本のために使えばいい。図書館をつくるのはどうかな?」とラファエルに提案してもらい、それに賛成したのだ。
自分の伝えた異世界の物語の本が集まり、その本を自由に見られる施設。それを想像しただけで、カーネリアはワクワクした気持ちが止まらなくなったのだ。
図書館や物語などが出来ても、何の役にも立たない。
そう思っている人もまだ多く、カーネリアがやっている事に疑問をもつ城の者も多かった。
せっかくの魔力なのだから、警備隊などに入ればいいのに、と思う人間もいた。けれど、本が売れ始め、周りの人々から「感動して泣いた」「いい話だった」「本を読むのは楽しい時間だ」と勧められて手に取る者も多く、カーネリアを認め始める人も増えて来ていた。
カーネリア自身は、まだまだだと思っているが、やはり認められるのは嬉しいものだ。
城の中や、城下町を歩けば「素敵な物語をありがとうございます」と、声をかけられるのだ。もっと、頑張らなければ、と思う。
家に帰るというホープに手を振り見送りながら、カーネリアは発売したばかりの本をギュっと抱きしめる。
本により、人々の感情が豊かになって欲しい。それが、何かしらで影響を与えてくれるとカーネリアは思っていた。それが、自分を守り続けてくれたラファエルの恩返しになるだろうと、考えるようになっていた。
「もっと、頑張らなきゃ。シャレブレ国のために……」
「君は頑張りすぎだと思うな」
「わっ、ラファエルっ!びっくりした」
そう一人で呟いた時だった。
誰もいないと思っていたが、突然、後ろから抱きしめられ、耳元で愛しい彼の声が聞こえた。カーネリアは悲鳴に似た声を上げてしまう。彼はわざと囁く声を耳の近くで発したので、カーネリアは真っ赤になってしまった。
「……せっかく密売組織も壊滅させたし、君の片思いだった相手もいなくなったのに、君は俺を放っておきすぎだ」
「そんな事はないわ。ただ本の出版があったからわたわたしただけで……」
「結婚を後回しにしたのに?」
「う、だからそれは申し訳ないと思ってるわ……」
ラファエルは少し拗ねた表情でカーネリアの顔を見つめる。
彼は妖精の密売組織を壊滅させた後、肩の荷が下りたのか妙にカーネリアにくっつき甘えてくる。いつも冷静でいて、威厳のある姿で警備部隊をまとめている姿を見ていたので、少し驚いたけれど、自分だけにその姿を見せてくれると思うとくすぐったい気持ちになる。
それに、彼には申し訳ないが少し可愛いとさえ思えるのだ。
朱栞として生きてきた前の世界で片思いをしていた相手である、穂純。
彼は妖精密売組織でもトップに分類される存在だった。元の世界でもとても頭がよく、会社の社長として人々をまとめ上げてきたのだ。シャレブレ国に転移してきても、その手腕を発揮したのだろう。他の分野であれば功績を残したはずなのに、穂純は妖精の密売という悪にてを染めてしまった。
そのため彼に命じられた処罰はシャレブレ国からの追放。及び、記憶の抹消だった。
穂純は元の世界に戻される事に決まったのだ。
異世界に行った後に、時々戻ってくる人もいたが、それはシャレブレで犯罪を犯し追放された人間だったのだ。穂純もその1人になってしまい、そしてシャレブレ国と元の世界の記憶をなくして帰還する事になる。きっと、想像以上に過酷な生活が待っているのだろう。
それを聞いたカーネリアは、悲しみのあまりに数日間ふさぎ込んでしまった。
罪を犯してしまったのならば、罰をうけなければいけないのはわかっている。
どんなに彼に酷い事をされたとしても、穂純を憧れて好きなった過去は変わらないのだ。もちろん、嘘であっても彼に優しくされた記憶も。
そんな傷を癒してくれたのもラファエルであった。
昔のように空の散歩につきあってくれ、少しずつ昔の記憶を戻してくれていた。
カーネリアの記憶は、ラファエルが大切に持っていてくれたのだ。
瓶の中に入った小さな宝石たち。それが、カーネリアの記憶の結晶だった。一気に記憶を取り戻してしまうと、体、特に脳に負担がかかってしまうらしい。そのため少しずつ取り込んでいくのだ。始めはその宝石を食べると聞いて驚いたが、記憶を取り込むと、心が太陽に当たるような気持ちの良い感覚になるのだ。そして、その宝石に閉じ込められた過去が頭の中で再生される。
ラファエルとの温かな生活、そして辛い過去。どの映像でもカーネリアは泣いてしまうのだ。
それが嬉しさであり、悲しさ、そして安堵からくるものであっても。
そんなカーネリアをラファエルは、いつも抱きしめて、「おかえり」と言ってくれる。
ラファエルが傍にいてくれて、彼を好きになってよかったと改めて思える瞬間だった。
そんな事もあり、カーネリアは落ち着くまで結婚は待って欲しいと伝えた。
もちろん、本を出す事で忙しかった事もある。
けれど、カーネリアは決して彼との結婚を迷っているわけではなかった。それを何度も伝えているが、彼は納得出来ていないようだった。
「じゃあ、今日は俺がカーネリアを貰うよ」
「いつもあなたのもののつもりなんだけれど?」
「……君は俺を喜ばせる言葉を知っているね」
「本音よ」
「では、今日はこのまま部屋に連れて行こう」
「え、……空の散歩じゃないの?記憶を戻すんじゃ」
「違うよ。今日は、君を抱きしめて。俺は君が不足してるんだ」
ラファエルこそ私を喜ばせる言葉を知っているのでは、と言うつもりだったが、その言葉は彼からの短いキスで消されてしまう。
まさか、部屋でもない城の外でそんな事をされると思っていなかったのでカーネリアは頭が真っ白になってしまう。だが、彼はおかまいなしに、カーネリアを抱き上げると、魔法でゆっくりと飛びあがり、そのまま2人の部屋の窓から室内に入ってしまう。
そして、言葉のままにカーネリアを抱きしめたままベットに倒れ込んだ。
「ラ、ラファエルっ!まだ、昼間なのよ。お仕事だってあるんじゃ……」
「今日は朝一で全て終わらせた。俺達の邪魔をする奴は、許さないと伝えてあるから、今日は夜まで誰も来ないから安心してくれ」
「そんな。王子の命令を使ったなんて」
「たまにはいいだろう。俺も君もよく頑張っているだろう?」
「ラファエルは頑張っているけど、私はまだまだ……」
「いいから、もう黙って」
そう言うとラファエルは、今度はキスの雨を降らした。
カーネリアはそれに翻弄されながらも、彼が与える甘い口づけに酔いしれる。
愛しい相手からのキスは、どうしてこう気持ちよく、幸福感で満たされるのだろうか。気づくと、カーネリアは自分から求めるように彼の頭に手を伸ばしていた。そんなカーネリアを見て、彼は満足したのか笑みを浮かべながら、さらに深い口づけを続けた。
「カーネリア。やっと、そう呼ぶのにも慣れてきた」
「うん。私も呼ばれるのに慣れてきたよ。でも、やっぱりこの名前の方が不思議と馴染むの。きっと昔からラファエルのそうやって呼ばれていたからだよね」
「あぁ。これからもずっと呼ぶ。だから、カーネリアも、俺の名前を呼んで……」
「ラファエル」
「うん……」
「大好きよ、ラファエル……」
「俺も、好きだ。誰よりも君が、ずっと昔から愛している」
少し潤んだ瞳同士を見つめ合い、どちらともなく顔を近づけて、何度目になるかわからないキスを交わす。
きっと、これからの未来、こうやって何度となく名前を呼び合い、愛し合うのだろう。
そんな幸せな日々を思い描いては、笑みがこぼれる。
シャレブレという故郷で、彼とずっと生きていこう。
物語の王子様とお姫様のように、「いつまでも幸せに暮らしました」と、言えるように。
(おしまい)
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