極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

蝶野ともえ

文字の大きさ
2 / 38

1話「真夏の出会い」

しおりを挟む





   1話「真夏の出会い」




 サングラス越しに高い青空を見上げる。
 そこには強い日差しを放って輝く太陽が眩しさと共に守青畔(すあほとり)を見下ろしていた。
 久しぶりの外の世界に、畔は笑みがこぼれてしまう。パーマがかかった長い髪のせいか、すぐに首元や背中に熱がこもってくるのを感じ、畔は髪をまとめてくればよかったな、と思った。けれど、きっと彼が許さないだろう。そんな事を思っていた。
 視線を少し下に向けると、そこには大きな白いビルがある。いや、それだけではない、高い高層マンションや、屋根に緑の草木が見える施設や、低い建物だが足を踏み入れることのないレジデンスなどがある。
 1つの町のような場所には沢山の人々が歩いている。どういう場所なのかを知っているからだろうか、皆上品で気品があるように見えてしまう。


 『畔っ!何やってんだ。熱中症になるぞ』
 『あ、叶汰。久しぶりだったから日光浴しながらこのタウンを眺めてたの』
 

 肩を叩かれ、後ろを振り向くとそこには仏頂面の男がこちらを見て大きく口を開けてしゃべっている。


 『日に焼けるだろ。日傘させよ』
 『日傘さしたら日光浴にならないわ。少しぐらい太陽の光を浴びさせてよ』
 『………もう行く』
 『あぁ………待ってよ!』


 畔の手を引いて歩き出す、彼の背中には大きなリュック、そして手元には鞄もある。それなのに、畔の手をぐいぐいと引っ張るのだ。相変わらずに強引だ。

 畔の先を歩くのは、幼馴染みの内空閑叶汰(うちくが かなた)。畔が幼い頃からの幼馴染みだ。仲が良かったはずだが、少し前からイライラしている事が多かった。けれど、畔の事を心配しては何かと面倒をみてくれる。今日も手伝いをしに休日にわざわざ来てくれたのだ。


 畔達が向かったの、大きな総合病院だった。まず入って驚くのが院内の広さだった。外来の受け付けが、ホテルのフロントのように大きく豪華なのだ。大きなシャンデリアがありそうな明るさと雰囲気だが、天井は中央部分が吹き抜けになっており、天井から明るい光りが降ってきているようだった。そして、少し進むと吹き抜けの真下には、病院にはないであろうグランドピアノが置かれており、ちょっとしたコンサートが出来るようになっていた。


 『すごいね………ここが病院だなんて……』
 『部屋の一つ一つが防音になっているこらここでピアノを弾いても問題ないんだそうだ。それに、あの吹き抜けは2階部分で移動式の屋根も準備されてる』
 『さすがはベリーヒルズ』


 畔は、眩しい日光をサングラス越しに浴び、そして下のグランドピアノを見つめた。肉眼でみたら、とても艶があり綺麗なものなのだろう。そう思いながら真っ黒なグランドピアノを長い間眺めていた。


 『俺は手続きしてくるから、畔はここで待ってるか?』
 『うん。そうする』


 畔はまだそのピアノのある空間を眺めていたくて、叶汰の後ろ姿を見送った。周りをキョロキョロと見てみると、お洒落な丸のソファがあったので、畔はそこに座ろうと思い体を動かした。

 その瞬間、体にドンッと言う衝撃が走り、気づくと、床に体が投げ出され、足に痛みを感じた。痛みから顔が歪む。


 「…………っ………」
 「君、大丈夫?ボーッとしていたようで…………申し訳ない」
 
 
 畔とぶつかった相手がしゃがんで畔の事を心配そうに見ながら、手をさしのべて来た。その男性の姿を見て、畔はドキッと伸ばしかけた手が止まってしまった。
 少し垂れ目がちだが大きい瞳に長い睫毛。真っ黒な髪は艶があり、触れたくなるほどにサラサラだった。シュッとした顎と鼻は整っている。だが、それだけではない。「イケメン」と世間で呼ばれる人は、こういう人なのだろう、と見惚れてしまうほどに整っていた。
 
 手を止めた畔だったが、彼はその手を自分から掴み優しく引っ張り、畔を立たせてくれた。


 「怪我はしてないかな?」


 畔はコクコクと頷くことしか出来ずいるが、立ち上がると同時に先ほど痛みを感じた所が、ズキッと再度痛みが走った。
 それを見逃さなかった彼は、「どこか痛むのか………あぁ、足首が赤くなってる捻ったかな」と、彼の手が足に触れられた。彼の温かな指の感触にビクッと体が震える。初対面の男性に素足を触られるなど医者以外にはないだろう。それに幼馴染みの叶汰以外の男性には慣れていなかったため、驚いてしまった。


 「急に触ってしまってごめん。でも、心配だから我慢してもらえると嬉しい。仕事で使うものがあったから、ちょっと待ってて」


 畔はゆっくりと頷くと、男は安心した表情を見せた後、鞄から湿布と包帯を取り出した。どうしてそんなものが入っているのだろう?と思ったけれど、男はテキパキと処置した。そんな彼の男らしいゴツゴツした指先を見つめているうちに、あっという間に綺麗に包帯まで巻かれて、処置が完了していた。
 

 「どうかな?しみたり痛んだりはしないかな?」
 『ありがとうございます』


 畔は音のでない口の動きでそう言いながら、左手の甲から右手を垂直に上げて頭を小さく下げた。
 すると、男はハッとした表情を見せた。そう、畔が手で話をすると、みんなこんな表情をするのだ。そして、困惑した表情になり、逃げるように去っていく。
 きっと、彼もそうなのだろう。畔は咄嗟に視線を背けようとした。が、目の前の彼は何故かニッコリと笑った。


 『怪我をさせて、ごめん』


 と、言葉を出しながらそうゆっくりと手話をした。
 彼も畔と同じように手や口の動きを使って話を始めたことに、今度は畔が驚く番だった。


 『学生の頃に少しだけ習ったんだ。……気づかなくて、ごめんね』
 『いえ……』


 彼の表情からも、ゆっくりと確認しながら手を動かす仕草からも、優しさを感じられた。それが嬉しくて、畔もゆっくりと手を動かそうとした。
 が、男の顔が何か気づいたように1度止まった。


 『ごめん。電話だ………気を付けて帰ってね』
 『…………ありがとうございました』


 畔がそう手話をすると、彼は手を上げて病院の出口へと小走りで行ってしまった。
 畔はソファから立ち上がったまま、しばらくの間、彼の背中を見つめた。




 どこでもある、ただのちょっとしたトラブル。そして、人生においてたった数分だけの出会い。
 そんな些細な出来事なのに心が揺れるのを畔は感じた。

 彼と話してみたい。名前は何というのだろうか。また会いたい。
 そう思えたのに、畔は彼を呼び止める事が出来ないのだ。


 自分の弱さにギュッと拳を握り、もう見えなくなった大きな入り口を見つめる。
 欲しいものが買ってもらえなかった子どものように、きっと悲しげな顔をしていると自分でもよくわかった。



 『おいっ……何、ボーッと立ってんだ?』
 『………あ、叶汰』



 畔の肩を叩いた後に畔の視界に顔を出したのは、叶汰だった。怪訝な顔で畔を見ている。
 畔は、彼に『何でもないよ』と伝えると、叶汰は『じゃあ、控え室行くぞ』と、前をスタスタと歩いた。

 畔はその後についていこうと一歩だけ足を進めた。が、すぐに止まって、足の手当てをしてくれた彼が去って行った方をもう一度だけ振り返った。

 もちろん、そこにあの男性の姿などなかった。
 ガラス張りの玄関が夏の日差しを受けて輝いている姿があるだけだった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】大変申し訳ありませんが、うちのお嬢様に貴方は不釣り合いのようです。

リラ
恋愛
 婚約破棄から始まる、有能執事の溺愛…いや、過保護?  お嬢様を絶対守るマンが本気を出したらすごいんです。  ミリアス帝国首都の一等地に屋敷を構える資産家のコルチエット伯爵家で執事として勤めているロバートは、あらゆる事を完璧にこなす有能な執事だ。  そんな彼が生涯を捧げてでも大切に守ろうと誓った伯爵家のご令嬢エミリー・コルチエットがある日、婚約者に一方的に婚約破棄を告げられる事件が起こる。  その事実を知ったロバートは……この執事を怒らせたら怖いぞ!  後に後悔しエミリーとの復縁を望む元婚約者や、彼女に恋心を抱く男達を前に、お嬢様の婿に相応しいか見極めるロバートだったが…?  果たして、ロバートに認められるようなエミリーお嬢様のお婿候補は現れるのだろうか!? 【物語補足情報】 世界観:貴族社会はあるものの、財を成した平民が貴族位を買い新興貴族(ブルジョア)として活躍している時代。 由緒正しい貴族の力は弱まりつつあり、借金を抱える高位貴族も増えていった。 コルチエット家:帝国一の大商会を持つ一族。元々平民だが、エミリーの祖父の代に伯爵位を買い貴族となった資産家。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

敏腕SEの優しすぎる独占愛

春咲さゆ
恋愛
仕事も恋愛も、兎に角どん底の毎日だった。 あの日、あの雨の夜、貴方に出逢うまでは。 「終わらせてくれたら良かったのに」 人生のどん底にいた、26歳OL。 木崎 茉莉 ~kisaki matsuri~ × 「泣いたらいいよ。傍にいるから」 雨の日に現れた、30歳システムエンジニア。 藤堂 柊真 ~Todo Syuma~ 雨の夜の出会いがもたらした 最高の溺愛ストーリー。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...