極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

蝶野ともえ

文字の大きさ
4 / 38

3話「忘れたくない出会い」

しおりを挟む





   3話「忘れたくない出会い」



   ☆☆☆



 久しぶりに行ったミニコンサートは大盛況だった。
 畔が歌い終わると、病院内は拍手に包まれ、泣き出す人までいた。ステージから降りると、握手を求めて近づいてくる人もおり、畔が控え室に戻るまで時間がかかってしまった。けれど、歌を聞いてくれた人に「ありがとう」とより近くで言われると、感動の実感も大きくなり、畔はやってよかったな、と改めて思えた。
 

 『体調、大丈夫か?』
 『大丈夫だよ。むしろ、元気になった気がする!やっぱり歌の力はすごいね』
 『…………帰るぞ』


 控え室に戻ると、叶汰が心配そうに近寄ってきてくれた。けれど、畔が歌の話をすると顔を歪ませる。その話はしたくない、と言わんばかりだった。

 畔はその彼の表情を見ると何も言えなくなってしまい、頷いて叶汰の後ろを歩いた。
 帰宅する前に事務所スタッフから「CDもかなり売れましたよ」と物販の状況も教えてくれた。いいコンサートが出来れば、CDを買って聞いてくれる人もいる。それだけ、今回のミニライブが良いものだったのだろうと畔は感じられ、安心した。


 「歌の調子もかなりよかったですね!これなら、すぐにでもコンサートが出来るんじゃないかな?」
 『ありがとうございます。早く歌いたいです』


 手話が出来るスタッフも多いが、今日は出来ない人だったので、叶汰が代わりに手話で通訳してくれている。口の動きで大体わかるようになったけれど、やはり手話の方がわかりやすい。が、歌の話なので、叶汰は機嫌が悪そうだった。


 「コンサートはやりたくないって」
 『叶汰っ!私、そんな事言ってないでしょ!!』


 叶汰が畔が手話で話した事とは全く違う事を伝えるのに気づいた畔は、怒り叶汰に厳しい視線を向けると、彼は舌打ちをした後にプイッとそっぽを向いた。
 畔は仕方がなく、スマホで文章をうってスタッフと会話するしかなかった。




 帰りのタクシーに乗った後、遠くなるベリーヒルズビレッジを見つめた。
 彼と出会った場所。
 その場所から目が離せない。



 (あの人は私の歌を聞いてくれただろうか)


 いつもならば、ライブの成功の余韻に浸っているはずなのに。今回は違った。
 頭から離れないのは、昼間の男性の事だ。

 あんなに良いコンサートが出来たのだ。
 今の自分のでは満点だったかもしれない。そんなコンサートを彼に見てもらえていたならば……そんな事を考えてしまう。

 彼はあの場所に居ただろうか。
 歌を歌う畔を、あの時の女だと気づいてくれただろうか。
 そして、歌を聞いてどう思ったのか。

 そんな事を気にしても彼がその場所に居合わせていたかもわからないと言うのに。


 畔の意識はまた手当てをしてくれた足へと向く。
 包帯が巻いてあるあの場所が、またじんわりと温かくなるのを感じた。









  ★★★




 仕事中に、足を止めてミニコンサートを観ていた椿生は、後ろ髪をひかれる思いで、途中でその場から離れた。
 仕事の予定があるので仕方がない。彼女の歌をもっと聞いていたく、何度も振り返りそうになるが、それをグッと我慢してひさその病院を後にした。


 そして、その日の夜。
 帰宅してすぐにやった事はPCに向かう事だった。


 「hotoRi……。顔出しは一切していないのか」


 椿生はすぐに昼間に出会った彼女の事を調べた。やはり有名な歌手だったようで、公式HPもあり、CDもたくさん発売されていた。けれど、どのページにも彼女の姿はなく、あったとしても後ろ姿だけだった。
 動画サイトで見つけた彼女の曲を再生してみると、今日聞いた歌声と同じものだった。やはり、あそこで歌っていたのはhotoRiという女性だったのだ。


 椿生はその動画を再生しながら、ぼーっと彼女の歌声を聞き、昼間の事を思い出した。
 何故、彼女の事を思い出しているのか、わからない。
 けれど、こうやって仕事から帰ってきて、夕食も食べずに彼女の事を調べているのだ。気になる存在になっているのは明らかだった。


 「hotoRiか………俺にとっては遠い存在の人だったって事なのか………」


 そんな事を思わず呟いてしまい、ため息が出る。
 椿生はhotoRiの音楽を止めてPCを閉じ立ち上がった。










   ☆☆☆



 畔はその日から、また音楽活動スタートのために、いろいろと準備を始めていた。

 それに何故だろうか。
 曲が作りたくなった。

 作った音を畔は聞くことは出来ない。
 だから、楽譜で想像した。
 音も記憶の一部なので、時間と共に忘れてしまうものだ。だからこそ、畔はいつも音を忘れないようにした。
 ボイストレーニングの先生とも頻繁に合い音合わせを細かくして、歌を歌い続けていた。
 時々、自分の音楽は本当に綺麗なんだろうか。音が合っているのだろうか。
 そんな不安を感じてしまう事もあり、怖くなって止めたくなる事もある。
 けれど、歌をやめてしまえば完全に無音の世界に生きていくようで、畔はその恐怖から逃げるために歌い続けている。そんな一面もあった。


 けれど、今は純粋に音楽が作りたかった。歌を歌いたかった。

 そんな一心で数日の間、家にこもって曲を作った。バイオリンやピアノ、ベースなどで音を入れて、そして歌詞を作った。
 時間をかけたつもりだったけれど、頭の中には音楽が出来ていて、あっという間に完成してしまった。

 楽譜を見ても、音楽を流して音の振動を感じても気持ちがいい。
 

 (出来た………。うん、いい感じかも)


 畔はその楽譜を見つめながら、独り満面の笑みを浮かべた。
 こうなると、思いきり歌いたくなる。

 畔の部屋は防音が施されているので、いくら歌っても大丈夫なのだが、狭い部屋で一人きりで歌っても味気ないのだ。
 思いきり歌いたい。

 せっかく、お気に入りの曲が出来たのだ。その気持ちは止める事が出来ずに、畔は出来たばかりの音源とスピーカーを持って家を飛び出した。

 夕方過ぎの時間。
 薄暗くなってきた街を畔はメガネとキャップで顔を隠しながら軽い足どりで歩き出した。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】大変申し訳ありませんが、うちのお嬢様に貴方は不釣り合いのようです。

リラ
恋愛
 婚約破棄から始まる、有能執事の溺愛…いや、過保護?  お嬢様を絶対守るマンが本気を出したらすごいんです。  ミリアス帝国首都の一等地に屋敷を構える資産家のコルチエット伯爵家で執事として勤めているロバートは、あらゆる事を完璧にこなす有能な執事だ。  そんな彼が生涯を捧げてでも大切に守ろうと誓った伯爵家のご令嬢エミリー・コルチエットがある日、婚約者に一方的に婚約破棄を告げられる事件が起こる。  その事実を知ったロバートは……この執事を怒らせたら怖いぞ!  後に後悔しエミリーとの復縁を望む元婚約者や、彼女に恋心を抱く男達を前に、お嬢様の婿に相応しいか見極めるロバートだったが…?  果たして、ロバートに認められるようなエミリーお嬢様のお婿候補は現れるのだろうか!? 【物語補足情報】 世界観:貴族社会はあるものの、財を成した平民が貴族位を買い新興貴族(ブルジョア)として活躍している時代。 由緒正しい貴族の力は弱まりつつあり、借金を抱える高位貴族も増えていった。 コルチエット家:帝国一の大商会を持つ一族。元々平民だが、エミリーの祖父の代に伯爵位を買い貴族となった資産家。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

敏腕SEの優しすぎる独占愛

春咲さゆ
恋愛
仕事も恋愛も、兎に角どん底の毎日だった。 あの日、あの雨の夜、貴方に出逢うまでは。 「終わらせてくれたら良かったのに」 人生のどん底にいた、26歳OL。 木崎 茉莉 ~kisaki matsuri~ × 「泣いたらいいよ。傍にいるから」 雨の日に現れた、30歳システムエンジニア。 藤堂 柊真 ~Todo Syuma~ 雨の夜の出会いがもたらした 最高の溺愛ストーリー。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...