極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

蝶野ともえ

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7話「買い物」

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   7話「買い物」



 次の日。
 畔は近所の本屋に足を運んでいた。
 




 昨夜の偶然の出会い。
 お酒の影響もあってなのか、夢見心地だったためか、畔はそのままぐっすりと眠ってしまった。目覚めた時にはなんの夢を見ていたのか忘れてしまったけれど、とても気持ちよく起きれたのでいい夢だったはずだ。

 起きた頃には、すでに太陽が高いところまで昇っていた。ボーッとしながらスマホを見ると、昨夜に再会した椿生からのメッセージが開かれたままになっていた。その画面を見つめたまま寝てしまったようだ。


 (椿生さん、おはようございます。………って、メッセージするのはダメかな?)


 用件のない、挨拶だけのメッセージ。
 椿生と関わっていたい。それだけのために、メッセージなど出したら迷惑になるかもしれない。そう思うと、メッセージを送ることに躊躇ってしまう。
 迷っていると、畔のスマホがチカチカと光っているのがわかる。メッセージが届いているようだ。畔は仕事の話かもしれないと、急いでそれを開く。
 宛名を見た瞬間、畔はドキッと胸が高鳴り、一気に体温が上昇するのがわかった。


 『また、連絡するね。おやすみなさい。新曲発売、楽しみにしてるよ』


 そんなメッセージが夜中に届いていた。畔はそれに気づくことなく寝てしまったようだ。
 こんなにも嬉しい言葉をもらったのに、それに対してすぐに返事出来なかったのが悔やまれる。
 畔の歌を気に入ってくれて、楽しみにしてくれる。その言葉は畔を最高な気分にさせてくれた。

 すぐに『すぐに返事出来なくてすみません。あの曲が発売出来るように頑張ります』と返信をした。
 その返事はすぐには返ってこなかった。平日の昼間なのだから、仕事をしているのだろう。
 畔は、惚けながら呆然とブランチを食べた。昨日の夜の会話を回想しながら。
 そして、ある事を思い出してハッとした。畔はそれが気になり、すぐに準備をして外出をしたのだった。



 今日も雲ひとつない快晴。
 皆が顔を歪めて汗をかきながら、厳しい日射しを受けながら歩いていた。
 畔も眼鏡に日傘をさし、ノースリーブのロングワンピースを着て外出をした。
 暑さを感じ、じんわりと汗をかきはじめた頃に家の近くの本屋に到着した。畔が目指したのはハードカバーの小説が置かれているコーナーだった。


 (えっと………あ、あ………は、この辺だよね………)


 頭の中に探している作家の名前を浮かべながら、沢山の本が詰まった本棚を見つめゆっくりと歩いた。
 すると、目的の物はすぐに見つかった。有名な文豪なのだから当たり前だ。
 畔はその本に伸ばし、抜き取った。思っていたよりも分厚い本だった。

 豪華な表紙には、「芥川龍之介全集」と書いてあった。畔はその本の目次を開く。


 (あ、あった………。短いお話なんだ) 


 お目当て話の題名を見て、畔はそんな風に思った。立ち読みでも読み終えてしまうのではないかと思うぐらいの短編だった。
 けれど、畔はどうしてもこの話が気になり、分厚い「芥川龍之介全集」をレジに持っていったのだった。

 畔はまた暑い中を包まれながら歩き、すぐに帰宅しようとも思ったが、家に帰るより先にどうしても買った本が気になって近くのカフェにはいった。アイスココアを注文し、店内の奥のソファ席に座った。
 先ほど購入したばかりの本を取りだし、畔はパラパラとページを捲る。ココアの甘い香りよりも本独特の紙の匂いが勝り、畔の鼻先に届く。その匂いを嗅ぐと、ワクワクした気持ちになってしまう。昔から本を読むのが好きだった畔ならではの感覚かもしれない。古本の香りでも同じようになるのだ。


 (『海のほとり』………。椿生さんが話してたのはこれだ)


 畔がこの本を購入したのは椿生がこの小説の話をしていたからだった。現代文学ばかり読んでいた畔にとって、芥川龍之介という文豪の本を読むのは、新鮮だった。それに椿生がこの物語を読んだかと思うと、真似したくなった。海と呼んでくれた理由の本がどんな話なのかを知りたかったのだ。
 それに、畔には気になる事があった。



 それから、アイスココアの氷が溶けてしまう事も忘れて、畔は物語を没頭して読み続けた。頭の中で、その情景を想像しながら読んだ。けれど、そんなに長い時間ではなかった。途中で集中が切れたわけではない。その物語がとても短いものだった。

 内容は海岸で、主人公と友人が何事もない時間を過ごすという、とてもシンプルなものだった。海のほとりでの感じ方や何気ないやりとりがとてもほのぼのとしている。
 事件が起こる事もなく、感動や恋愛が描かれている事もない。
 けれどその何気ない、普段のやり取りが何よりも大切なのだ。畔はそんな事を感じられた。

 畔は、物語の余韻に浸りながら本を閉じ、少し氷が溶けて薄まってしまったアイスココアを一口飲んだ。その、ココアがやけに甘く感じられて、畔は一人微笑んでしまった。








   ★★★



 とても暑い夜の日。
 椿生はCDショップに足を運んでいた。仕事帰りはすぐにでも帰宅したいものだが、この日は違っていた。
 椿生の目的はもちろんhotoRiのCDだった。趣味もほとんどなく仕事ばかりだった。音楽はダウンロードで購入する事が多くなったのでほとんどCDショップに足を運ぶ事はなくなっていた。
 けれど、椿生の足取りは軽かったし、早かった。この時間のために仕事に励んでいたと言っても過言ではないかもしれない。それほどに、椿生が待ち望んでいたのだ。

 お目当てのhotoRiのコーナーはすぐに見つかった。特設のコーナーが大きく設置されていたのだ。椿生はその中から1枚のCDを手に取った。hotoRiの代表曲が入ったアルバムだ。その中に、椿生が病院のコンサートで聞いた初めての生歌の曲も入っていた。『青の音色』という曲だというのを椿生は初めて知ったのだ。その曲が入っているもの見つけ、椿生はそのCDを購入した。

 帰宅後にすぐにPCに取り込み、音楽を流した。スピーカーから畔の声が聞こえてくる。圧倒的な歌唱力で澄んだ歌声。それだけでも驚くが、彼女は耳が聴こえないと知ると、更に驚愕してしまう。事実を知っていても驚いてしまうのだから。
  夜の町をこうやって楽しむのは初めてだから嬉しいです
 あまり外に出れてなくて
 じゃあ、これから俺と一緒に楽しんでみない?
 椿生は目を瞑ってhotoRiの曲を聞いた。


 「この曲は………彼女にピッタリだ………」


 改めて、そう感じ思わず声が漏れてしまう。それと同時に早く畔の笑顔が見たいな、そんな風にも思ったのだった。


 
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