13 / 38
12話「これからの幸せ」
しおりを挟む12話「これからの幸せ」
椿生と畔は手を繋いで、湖の隣りゆっくりと歩いた。
会話はほとんどない。
それなのに、彼の手から伝わってる体温が畔を安心させた。先ほどまで話がない時間は不安でしかなかったはずなのに。
畔はちらりと彼の顔を見上げた。
いつも穏やかな彼の横顔を眺めながら、少し不思議な気持ちなる。
この人が自分の恋人になったのだ。
そんな実感など感じられない。だが、先ほどの言葉は嘘でも夢でもないのだ。
畔はギュッとノートを強く抱きしめる。畔の視線に気づいたのか、椿生はこちらを向き『どうかした?』と、微笑みながら口パクで言ってくれる?首をかしげてそういう彼を見て可愛いなと思ってしまう。かっこよくて大分年上の男性なのに。畔が微笑みながら首を振ると、椿生もニッコリ笑い、また木々に目を向けて散策を楽しんでいる。
穏やかな時間。
けれど、幸せな一瞬を畔は噛みしめながら、一歩一歩歩みを進めた。
椿生の車に戻ると、彼は畔をもう一度抱きしめてくれた。畔は、その瞬間は恥ずかしさもあるものの、彼に包まれるのが心地よくてつい目を閉じてしまう。彼の鼓動を肌で感じられる瞬間が、好きになってしまったのだ。
ゆっくりと体を離した後、椿生は少し照れた顔で、手を動かして話し始めた。
『本当にありがとう。………夢みたいだよ』
『私ももう椿生さんに会えないと思ってたから………諦めなきゃいけないと思ってた』
『諦める必要なんてなかったんだよ。両想いなんだから』
椿生の言葉に、引っ込んだ涙がまた込み上げてくる。畔は頬を赤くして下を向くと、そんな畔の片頬に椿生の手のひらが触れる。そのままゆっくり前を向けられると、椿生は『かわいい』と口で伝える。ハッとした表情で畔が更に頬を染める。
すると、ゆっくりと椿生の整った顔が近づいてきた。畔は次に何が起こるのかを察知して、咄嗟に眼を瞑ってしまった。
しばらくして、畔の額に指が添えられ、次に柔らかな感触が伝わってくる。温かいものだ。
畔はゆっくりと目蓋を開くと、そこには嬉しそうに笑う椿生の顔が近くにあった。
彼が額にキスをしたのだとわかり、畔は彼を見上げてるが、緊張からどうしても目が潤んできてしまう。
『本当は我慢するつもりだったんだけど、出来なかった。だから、ここのキスだけは許してくれる?』
『…………許さないわけ、ないです』
『よかった』
畔は恥ずかしさのあまりに視線を背けるが、また彼に抱きしめられてしまう。
心が落ち着く暇がないな、と思いつつもドキドキした気持ちが幸せで、畔はまだずっと抱きしめ続けてほしいな、と願ったほどだった。
遠出した事もあり帰りはすっかり遅くなってしまった。椿生は『寝てていいよ』と言ってくれたが、到底寝れる状態ではなかった。
畔と椿生は途中で夕食をとって休息しながらドライブをした。この日は、椿生が畔を自宅まで送ってくれる事になり、椿は道案内をしながら夜道を車が進んだ。
『ここで間違えないかな?』
『はい。このマンションです』
畔のマンションの前に車を停めると、椿生はマンションを見上げた。5階ほどの低階層のビルだが、比較的新しい造りのビルだ。セキュリティは万全で、入り口にはコンセルジュもおり、畔はいろいろと助けて貰っている。一応有名人ながら、セキュリティはしっかりしてる所に住め、と叶汰に
言われ、このマンションを勧められたので、畔はここに住む事に決めたのだ。
元々、防音完備で近くにスーパーなどがあればどこでもいいと思っていたので、畔は決めてくれたことを感謝しながら、このマンションに住んでいた。
『………やはり素敵な所に住んでいるね。周りも住宅街で静かそうだし』
『はい。とても住みやすいです』
『そう。じゃあ、畔ちゃんの家もわかった事だし今度からここまで迎えにくるよ』
『そんな……私は駅まで歩いていけますよ』
『いいのいいの。俺がそうしたいだけだから』
そう言うと、椿生は自分のシートベルトを取った後、畔に近づき、また優しく畔を抱きしめた。
耳元に息がかかる。それがどうもくすぐったく、少し体が震える。もしかしたら、耳元で彼が何かを言ったのかもしれない。そんな風に思って顔を上げようとすると、自分を拘束していたものが外れて体が楽になるのを感じた。椿生がシートベルトを外してくれたようだった。
畔は、『ありがとうございます』と少し恥ずかしそうに言うと、椿生はきょとんとした後、少し困ったように笑った。
『また、会いに来るよ。恋人になったんだ……沢山会いたい』
『私もです』
『うん、じゃあ………おやすみ』
椿生はそう言ってまた畔をジッと見つめた後、頭をポンポンと撫でてくれた。
畔は自分が思っていた事をしてくれなかったため、少し照れくさくなり慌てて車を降りた。
手を振って彼を見送りながら、畔は彼に顔が真っ赤になっているのがバレていない事を願っていた。
彼の車が見えなくなった後、畔は頬を両手で多いながら、大きな羞恥心に襲われていた。
(私………椿生さんにキスされると思った………。それを期待してた………!)
真剣な視線で畔を見つめた椿生を見て、畔はつい目を瞑ってしまいそうになった。
恋人になったばかりなのに、何を思ってしまったのか。
恋愛経験が少ない自分が、まさかそんな事を望んでいたなんて、と畔は自分の気持ちが恥ずかしくなった。
(けど………恋人になったら、キスとかもするんだよね………。今日みたいなおでこじゃなくて………)
そこまで想像してしまい、畔はハッとして頭をブンブンと横に振った。そして、マンションの中に駆け込んだ。
真っ赤になった顔も、そして恥ずかしい事を考える頭を冷やすために、畔はすぐにバスルームに飛び込んで温めのシャワーを浴びた。
(でも………本当に本当に恋人になったんだ。椿生さんと…………)
畔はシャワーを浴びながら、彼の唇が当たった場所に触れた。
そこがほんのり熱いような気がして、目を瞑る。すると、その時の記憶が鮮明に思い出される。
夏なのに涼しい湖のほとり。風で木々が優しく鳴り、小鳥や虫の鳴き声が心地が良い場所。
そんな素敵な場所で彼に「好きだ」と伝え、そして自分も伝えた。
今でもとても幸せなのに、これからの日々は椿生と共にあるのだ。
もっともっと幸せになる。
それが夢のようなのだ。
(でも、夢じゃない。………これからが、もっともっと素敵になる。………彼に負けないように私も頑張ろう!)
畔は普段あまり歌わない鼻歌を口ずさみながら、浴室で新しい歌を考え始めた。
次の曲はきっと今までで1番甘い曲になる。
そんな予感がしていた。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる