極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

蝶野ともえ

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16話「対峙」

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   16話「対峙」



 叶汰はズカズカと畔の方に向かってきた。畔は車を降りて、そんな彼の方へと向かう。叶汰に話を聞きたかったのだ。心配したのか、運転席から椿生も降りてきた。


 『おまえ何やってんだよ!あーゆー事やめておけって言ったよな?』
 『叶汰、来てくれてありがとう。でも、ごめんなさい。あーゆー事って何?何があったか教えて?』


 激怒している叶汰を落ち着かせようと、畔はゆっくりと手話で話を掛ける。なるべく、表情もいつものままでいようとした。けれど、畔の答えに彼はまた苛立ちを覚えたようだった。


 「知らないって………マネのやつ俺に仕事を押し付けたな。俺はこいつのスタッフでもないのに………」


 畔にはわからないように手話は使わずに何かを呟いている。口の動きで少しわかったが。きっと畔にとって良くない事だろう。


 『叶汰………』
 『hotoRiの新曲の発売告知がされた後すぐに、おまえがストリートライブをやった画像が流れたんだ。その時に歌ったものが新曲がほぼ同じ曲だったからhotoRiだとわかり、拡散したんだろうな』
 『………そんな………今さら公開って』
 『それでその時におまえを庇った男は誰だって注目されてるんだよ。かなりのイケメンで長身だったから、どこかのモデルだろうってな』

 
 叶汰はそう言って、畔の後ろに立つ椿生をジロリと睨んだ。叶汰は確信しているのだろう。その時の男が椿生だと。


 『なるほど……そういう事か。俺がもっと上手くフォロー出来ていればよかった。ごめん』
 『椿生さんは何も悪くありません』
 「おまえに何も出来ないだろ」
 『叶汰っ!』


 椿生言葉をバッサリと切り捨てそう強く言うと、叶汰はまた畔の方を見た。


 『こいつ、なんだよ』
 『前に話した方よ。この人は私の恋人の神水椿生さん』


 畔がそう断言する。
 すると、叶汰の眉がピクリと動いた。そして、「あぁ………」と言いながら、椿生を頭の先から爪先へと視線を向け、ジロジロと見た。


 『おまえがあの御曹司か。そんな有名な奴と付き合うのはやめておけ。それに、あんな事をしたら、こうなることは明白だろ。そんな事も予想出来ないお気楽な奴とは付き合わない方が畔のためだ』
 『椿生さんの悪口は止めてっ!』
 

 畔は声を出しそうになっり一瞬止まりながらも、大きな動きで叶汰へそう強い気持ちを伝えた。けれど、彼は全く気にしていない様子で、畔に向けて冷たい視線を落とした。
 そして、視線でだけではい。言葉もとても冷ややかだった。
 

 『そんなに言いたいことがあるなら、手話じゃなくて言葉で言えよ。歌えるんだからしゃべれるだろ?』


 叶汰の言葉に、畔は体を小さく震えさせた。何か彼に言い返さなければ。そう思っているのに、手が動かなくなった。
 彼はいつからそんな風に思っていたのだろうか。いや、ずっとそう思っていたのだろう。自分と話す時はいつもイライラしていたのだから。
 話す方が早いと、面倒だと思っていたのだろう。

 畔は彼に視線を送るだけで精一杯になり、その後に手を動かす事は出来なかった。


 『噂の種でもあるそいつと一緒にいればまた噂が大きくなる。それにいつまでもここに居るのもよくない。………俺のところへ行くぞ』


 そう言って、叶汰は畔の方へ近づき腕を掴もうとした。
 叶汰の言うことはいつも正しい。彼は厳しいが、自分の事を心配してくれている故だと畔もわかっている。
 けれど、椿生の事を悪く言って欲しくはなかったのだ。畔はそれを伝えるために、その手を避けようとした。

 が、それより先に畔の腕は掴まれ、何故か後ろにひかれていた。
 畔の腕をつかんだのは、叶汰ではなく椿生だった。
 畔は驚いて、後ろを振り向いたが彼とは視線が合わない。椿生はまっすぐに前を見据え、叶汰の方を向いていたからだ。


 「………何のつもりだよ」
 「俺の行動が彼女に迷惑をかけたのは謝る。けど、君が畔ちゃんを連れていってしまうのは恋人としては見逃せない」


 背が高い椿生の背を畔はただ見つめる。
 2人は手話を使わずに話始めてしまった。
 畔は彼が何を言ったかはわからなかった。けれど、叶汰に何かを言って自分を守ってくれているとはわかる。
 畔はハラハラしながらそのやり取りを見つめたが、叶汰の顔は一層厳しくなるばかりだった。


 「言ってくれるな………。おまえがあの御曹司なんだろ?そんな奴が、畔を守れるのかよ」
 「…………守るさ。俺がどんな人間でも」


 ハッとした表情を見せた椿生を怪訝な視線で落ち着いたまま叶汰が見つめる。


 「………1つだけ忠告だ。こいつは、嘘は死ぬほど嫌いなんだよ。まぁ、御曹司様そんな事をしないとは思うけどな。後は上手く逃げてくれ。そろそろここも危ないだろうからな」
 「………」


 椿生を睨み付けるように鋭い眼で見つめた叶汰は「やっとこいつのお守りから開放される」と、呟き持っていたヘルメットを被ろうとした。畔はそれを見て、叶汰が帰ってしまうのだとわかり、彼に駆け寄った。自分から彼に近づこうとしたので、椿生の手は放された。


 『叶汰、来てくれてありがとう。仕事だったのに、ごめんね』
 『…………これに懲りたら歌の仕事なんて辞めてしまえばいいんだ』


 一見冷たい言葉に聞こえてしまう。
 けれど、幼馴染みの畔にはわかる。叶汰が自分を心配してくれているからこその発言なのだと。でなければ、こんな所までバイクをとばして来てくれるはずないのだ。


 『今度、ご飯奢らせて?』
 『おまえな……俺を何だと思ってるんだよ』
 『食べないの?』
 『高級焼き肉だからな!覚悟しとけよっ!』


 悔しそうにそうに乱暴な手話でそう言うと、椿生はヘルメットを被って、バイクに跨がったと思うと、颯爽とその場を去ってしまった。
 畔は苦笑しながら、強がりな幼馴染みを見送った。
 言葉を悪いが、彼は悪い人ではないのは、畔がよく知っていた。
 畔は彼の背中を見つめながら、心の中で「ありがとう」と伝えた。


 ポンポンッと肩を優しく叩く感触に気づき、畔は後ろを振り向いた。
 いつもの柔和な笑顔の椿生が畔を見ていた。

 『仲いいんだね』
 『幼馴染みなので……仲がいいかわわかりませんが。大切な人なんです』
 『そうか。……そんな人と言い合いをしてしまって悪かったね』
 『いえ。どうせ、叶汰が強いことを言ったのだと思いますし。すみませんでした』


 叶汰が何を言ったのか詳しくはわからなかった。けれど、彼の表情からよくない事だとはわかった。そのため、申し訳なく思い、畔が代わりに頭を下げて謝る。と、椿生はまた苦笑したのだった。


 『じゃあ、そろそろ移動しようか。あ、でも必要なものは持ってきた方がいいかな。荷物が多くなるようだったら運ぶの手伝うからね』
 『え………。荷物ですか?それは、どういう事ですか?』


 椿生と叶汰がどんな話をしていたのかわからない畔は、彼が話した内容を理解出来ず、首を傾げる。

 すると、椿生は「あぁ、そうか……」と、一人呟きを残すと、サプライズの種明かしをする時のように楽しそうに畔に言った。


 『今日から、俺の家で一緒に暮らそうか』


 畔はその手話の動きを頭で理解するのにしばらく時間がかかってしまった。
 そして、驚きとあまりに急な展開に顔を真っ赤にしたまま言葉、いや手の動きを失ったのだった。



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