極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

蝶野ともえ

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19話「守って」

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   19話「守って」



 
 椿生がお風呂上がりに連れてきてくれたのは、もちろん寝室だった。『今日はいろいろあったから疲れたでしょ?』と言って早めに寝ることになったのだ。
 畔は最後まで『ソファで寝れます』と言ったけれど、椿生は『恋人同士なのに、どうしてそんな事しなきゃいけないの?』の一点張りだった。
 もちろん、好きな人と一緒に寝るのは嬉しい。けれど、最近付き合ったばかりであるし、恋人がいたこともない恋愛初心者の自分が変なことをしないかも心配だった。それに、もう少し自分磨きをして、準備万端にしてからがいい。そんな気持ちでいたけれど、やはり彼からの甘い誘惑を断れるはずもなかった。


 椿生の寝室はリビングよりは小さいものの大きな場所だった。淡いブラウンで統一された寝具と、サイドテーブルには、シンプルなライト。後はクローゼットと大きな窓だけの物がほとんどない所だが、それも彼らしいと思った。


 『はい。どうぞ』


 椿生は先にベットに座り、自分の隣を手でポンポンと優しく叩く。畔に座るように促しているのがわかる。畔は、恥ずかしさから少し躊躇しつつも、ゆっくりとベットに座り、固い動作のまま彼の隣に近づいた。


 『フフフ……緊張してるね?』
 『それは……もう……すごく!』
 『そんなに緊張しないで。今日は何もしないから……でも、ギューとかお休みのキスぐらいはするけど』
 『っっ!?………椿生さん。私が恥ずかしがるのを楽しんでませんか?』
 『本当の事だよ』


 緊張したまま、ベットに横になった畔だが彼の方を向けるはずもなく。ただ、彼の手先だけを見つめて会話をしていた。
 が、彼が言ったように椿生は畔を優しく抱きしめてきた。更に緊張して肩が上がってしまうけれど、彼の体温を全身で感じ、鼓動や香りに包まれると、次第に体の力が抜けていく。ドキドキしているのに、どうしてそんな風になるのか。畔には不思議だったが、体の反応に任せるしかない。


 『ねぇ、畔ちゃん。これは、何?』


 畔を抱きしめていた椿生は、畔の腕にあったあるものに気づき、指をさして口の動きで伝えた。
 畔の腕には飾り気のない、黒色のデジタル型腕時計がつけたままになっていたのだ。取るのを忘れてしまったと思っていたようだが、畔はそれを取り忘れたわけではなかった。

 畔はサイドテーブルを指差して、ノートを取りたいと伝えると、彼の腕の力が緩まった。ぬくもりが離れてしまい、寂しかったけれど、彼に伝えておきたい事だったので、仕方がない。


 『これは振動型の腕時計なんです。普通の目覚まし時計だと気づかないので、この腕時計で起きる時間をセットして、振動で起きるんです』
 『なるほどね。そんなものがあるんだね』
 『はい。その他にも災害とかの場合もこの腕時計が通信して起こしてくれるんです』


 畔は彼に腕時計を見せながら、反対の手でそれに触れた。この腕時計は普段の生活から危険な時まで助けてくれる存在で、畔にとってはなくてはならない物だった。

 椿生は畔と同じようにその腕時計をジッと見つめて、何かを考えているようだった。が、畔がノートを閉じようとした腕を、椿生が優しく掴み取った。そして、あろう事かその腕時計を取ってしまったのだ。呆気にとられた畔をよそに、椿生はそれをノートと一緒にサイドテーブルに置いてしまったのだ。

 畔は、慌てて椿生の肩を叩き、抗議の声(手話)を上げた。


 『何で取ってしまうんですか!?大切なものなのに』
 『俺がいる時は俺が畔ちゃんを守るよ』
 『………え………』
 『朝は俺が起こしてあげるし、何かあったら俺が起こして畔ちゃんを助けるから。だから、俺と一緒の時は腕時計じゃなくて、俺を頼ってくれないかな』
 『…………』
 『腕時計になんか捕らわれずに、俺とゆっくり眠って。安心していいんだ』
 『…………っっ………』


 そんな自分を思ってくれる言葉を聞き、畔の目から一筋の涙が頬を伝った。
 耳が聞こえなくなった事は不運だったかもしれない。けれど、同じ境遇の人だって多くいる。辛い思いをしている人は沢山いる。だから、畔一人が寂しがり怖がって助けを求める事などできるはずもなかった。
 畔の耳が聞こえなくなって、怖いと思ったのが音楽が聞けなくなる事と夜だった。
 特に寝る時間はもちろん一人で寝るため、目を閉じてしまえば真っ暗で無音の世界に包まれてしまう。何か起こっても自分な気づかずに寝てしまうのだろう。

 このまま暗闇に閉じ込められて、起きることなくさ迷うのではないか。それとも次に起きたときは目も見えなくなるのではないか。そんな不安に襲われた畔はなかなか寝れない日が続いたのだ。

 今となっては、それにも慣れて一人で寝られるようにはなってきたが、それでは不安はある。
 
 椿生なら守ってくれる。
 彼になら甘えてもいいのだろう。「怖かった」「不安だった」と言ってもいいのだ。

 
 「何でも言ってごらん」


 椿生にそう言われたようて、畔の心は満たされ、安心した。


 『守って欲しい………です』
  

 畔はゆっくりと手をあげて手話を1つ1つ丁寧に作り上げた。涙は流れてしまうが、畔が必死に伝えたのを見て、椿生は笑みのまま頷き、畔の頬の涙を指ですくい、そしてそのまま体を抱きしめてくれる。

 そして、『おやすみ、畔ちゃん。いい夢を』。畔は彼がそう言ったのではないか。そうわかった。
 彼に抱きしめられているからなのか、彼の思いが強かったからなのか、それとも勘違いなのか。畔にはわからなかった。

 けれど、畔にはそれを気にすることはなかった。

 椿生と一緒に寝ているというのは本当の事なのだから。


 畔は耳が聞こえなくなってから、初めて心から熟睡できるような気がしたのだった。









   ★★★





 自分の腕の中でスヤスヤと眠る畔を見て、椿生は思わず笑みがこぼれてしまう。彼女と居るとどうも顔が緩んでしまう。それぐらいに幸せなのだろう。
 こんなにも心から好きで、守ってあげたくて、そして一人占めにしたいと思う女性と初めて出会うことが出来た。それぐらいに椿生は畔に夢中になっていた。

 そんな畔の目元は少し赤くなり、頬には涙の跡がある。椿生は彼女を起こさないのよう、ソッと彼女の少し赤くなった白い頬に触れた。
 歌が好きで、素直で純真な畔は、耳が聞こえない事に負い目を感じていて、けれどそれを苦しいとは言わない。椿生は甘えて欲しいし頼って欲しいと思っているけれど、そんな彼女を応援したいとも思えた。彼女が頑張っている姿もとてもキラキラしてり尊敬出来るからだ。好きなことで成功し、夢を叶えているのはとても羨ましいとも思う。
 けれど、苦しさや弱さを隠してしまう部分を見つけてしまうと、彼女の脆さも痛いほど実感してしまうのだ。
 必要以上に頑張る必要などない。人に頼ってもいい。甘えていい。それをこれから畔に伝えていかなければいけないな、と椿生は思っていた。


 「………おやすみのキスは出来なかったから、また明日だな」


 そう呟いて、畔の頬にこっそりとキスを落とした。


 そして、自分も眠りにつこうと目を閉じた。彼女のゆくもりを感じれば、すぐにでも寝てしまいそうだ。そんな風に思っていたが、椿生の頭に今日会った彼の声がよみがえってきた。


 『1つだけ忠告だ。こいつは、嘘は死ぬほど嫌いなんだよ』


 その言葉を思い出して、椿生はゆっくりと目を開けた。真っ暗な部屋だが、間接照明の微かな灯りを受けて、畔の寝顔が見える。畔は安心しきった表情で熟睡しているようだ。すーすーっと穏やかな寝息だけが部屋に響いているようだった。

 そんな彼女を1度だけ強く抱きしめて自分の腕に閉じ込める。
 畔は自分の元にいるのだと確認するために。


 「畔はどんな俺でも好きでいてくれるか?」


 その問い掛けに返事を、返事をする者はいない。言葉は誰にも聞こえないまま、暗闇に紛れて消えた。


 
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