【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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裏口から、侵入

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「あら、見違えたわね。町の子みたいよ?」

「洗濯出来るようになったし、お金も引き出せるようになったよ」

 店に入ると、店番をしていたセーナは新調した僕の姿を見てそう言った。生活が豊かになる程、町に溶け込んで行ける気がする。

「おばあちゃんのためにお洒落したのかと思ったわ」

「採集する前に来れば良かったかな」

「なら仕事が先ね」

 カウンターに乗せられた浅カゴへジャリソウを流し入れていると、セーナの手が伸びて来る。横に置いていた高いヤツに伸びているのだ。

「キズグスリじゃない。同じ所で採れたの?」

 キズグスリは高いのか?枚数数えて他のに手が伸びる。

「株数は多くないね。クモノスワタはもっと少なかったよ」

「採って来たなら出しなさいな」

「全部植えて来ちゃった」

「勿体無い……けど、あンたがそう判断したなら来年に期待って事なのかしら」

「20粒じゃ腹の足しにならないからね」

「成程。食べると思ってたのね」

 どうやら僕の考えていた使い方とは違うらしい。

ジャリソウ 2.84kg 28,40
ツルショウガ 10本1束 4,00
キセルタケ 5本14g 14,00,00
キズグスリ 20枚2束 3,00
計 14,35,40U

 重さを量って記録して、買取価格はこうなった。やはりキセルタケは高いな。キズグスリは町の子も採って来るのでギルドの買取価格と変わらないそうだ。

「町の子が採るから数が少なかったのかな」

「町の子に知識があればもっと安くなる訳ね」

「体張って魔物を狩るよりキセルタケ摘む方がお金になるもんね。高過ぎだよ」

「それだけの薬効があるのよ」

「それよりまた銀座行かなきゃ…」

「お財布1つじゃ足りないわよね。こっちもお釣りが欲しいし、両替してあげるわ」

 100枚超えた銅貨を銀貨にしてもらったが、風呂に入って食事をしたらまた重くなるんだろうな。切実にギルドカードが欲しい。

「銀座に行くのは後にして、おばあちゃんに紹介してあげる。一旦店を出て待ってなさい」

 大金持って外に出るのは不安なんだけど、堂々としてなさいって言われて外へ出る。後ろで鍵を掛ける音がして、暫く待つと裏口からセーナの声がした。

「こっちよー」

 そっちかー。来いって事だろう。声のした方へ小走りで向かう。人1人通れる程しかない建物同士の隙間を入って行くと、周りの建物全部が中庭を作ってあるおかげで広く感じる空間に出た。向かいの家同士がロープを張って、洗濯物を干したりしている。初めて見る光景に息が漏れた。

「ジロジロ見てると物盗り扱いされるわよ?」

「村では無かった光景なので、つい」

「確かにね。さ、入って」

 薬草や雑草の生える中庭を通り、裏口に入る。入って直ぐキッチンがあり、カーテンを仕切りにした向こうに小さなベッドと、そこに座る老婆の姿が見えた。

「おばあちゃん、オック村の子よ」

「こんにちは。ファートの息子のユカタ。東のユカタだよ」

「まあまあ。ファートさんのぉ。セーナの事、よろしくねぇ」

「こっちこそ世話になってるよ。路頭に迷う所を助けてくれたんだ」

「素材を安く手に入れられるんだからトントンよ。少し冷えたわね、薪を足すわ」

 セーナはストーブに薪を入れ、上に乗せたヤカンに水差しの水を注いだ。

「さ、こっちよ。私の仕事を見せてあげるわ」

「ホリーさん、また後でね」

 セーナに連れられ2階へ上がり、更に上がって3階へ。通された部屋は素材や器具が並べられ、正に作業場と言った感じだった。

「ホリーさん、脚悪いの?」

「ええ。もっと早く帰って来たかったわ」

「他所で修行でもしてたの?」

「修行、と言うか学院に通っていたのよ。卒院したら仕事に就いて。両親が亡くなったのを聞いて帰って来たの」

「凄いな」

「凄くないわ」

「僕はまだ、その場所に立ててないもん」

「…ユカタ。だったらあンた、学園に通いなさいな」

 部屋に吊るされ干された草をテーブルに乗せたセーナは、僕が思った事も無かった提案をした。




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