【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
73 / 385

早寝、早起き

しおりを挟む


 ペニーとカシーに足を引っ張ってもらい、柔らかいホールドから抜け出すと、2人はそれぞれ隙間に潜り込んで動かなくなった。強い子達だな本当に。焚き火の火を上げ過ぎず、且つ消さないように調整しながら時間を潰し、長い長い2時間を耐える。

 魔物が居らず、他のパーティーも近寄らない端っこの陣地には、小さく薪が爆ぜる音と、ネズミの足音、そしてネズミを食べる鳥の鳴き声。演習だから起きてるけど、これは辛い。少し音が出ちゃうけど、腕と脚を動かして、睡魔の誘いを抗った。

 2時間経ったのだろうか。まだ暗い中起き出したのはマキ。睡魔と和解した僕に目配せで挨拶すると、寝床を出て外へ。トイレするみたいだ。耳と鼻を閉じてれば良いかな?しばらくして戻って来ると、僕の隣に座った。

「紳士ですね」

 肩が触れる距離に寄ると、耳を塞ぐ僕の手を外して耳元で囁いた。

「寝なくて良いの?」

「普段からこのくらいですから」

 小さく呟いた僕にマキは返す。お世話係の朝は農家より早いようだ。それでも座ってじっとしてると睡魔の囁きが聞こえ始めたか、僕の肩に頭を預け、スーッと寝息を立ててしまった。

 次に起き出したのはロシェルだ。夜明け前から鍛錬してると言ってたし、習慣なのだろう。

「ユカタ…、イチャイチャしてんの…?」

「そう見える?」

「見える…かな…」

「おはようございます、ロシェルさん」

 寝床から這い出て来たロシェルにマキは小さく挨拶する。

「アタシも」

 そう言うと胡座をかく僕の腿に頭を乗せるロシェル。それはアタシもでは無いよな?

「脚が痺れちゃうから止めてよ」

 言ったが止めてくれはせず、睡魔に意識を持って行かれた。

「そろそろ食事の支度をしたいのですが…」

「火を強めると火傷するからなぁ。それに鍋はジュンのカバンだし」

「そうですね…」

 マキも睡魔に連れて行かれた。おかげで動けない。動かせるのは左腕だけだ。静かに腕を上げたり下げたりして過ごす。

 次に起きて来たのはペニーとカシー。左右に女子を侍らせてる僕を見て何を思うのか。

「時間よ」「少しでも、寝て」

「動けないんだ」

「でしょうね。みんな起きなさい。交代の時間よ」

「んぁ…」「もう、朝か…」「おはようございますレイナ様。おはようございます、皆さん」

 ペニーの声に反応し、ジュンとレイナが目を覚ます。4人が寝床から出て、ロシェルの顔を腿から外すと僕は寝床で横になった。



 夜が明けて、スープの匂いに起こされる。焚き火に掛けられた鍋からスープをよそるマキと目が合った。

「丁度良い時間ですね。起き抜けで食べられますか?」

「うん、お腹減ったよ」

 小さい丸パンとスープで腹を満たし、昼までの予定を話し合う。

「お昼ご飯も作んなきゃいけないんだよねー」

「麦粉はあるからパンは作れる。スープの材料もあるよ。水はどう?」

「1食分は、ありますね…」

 夜と朝の分で作った分は食べ切ったから昼は新たに作らなきゃいけない。前回はどうしてたかを聞くと、ロシェルは寝て空腹を紛らわせてた。3人衆は講師の陣地の近くで待機。気になる2人は生食出来る食べ物を摘み食いしながら散策してたと言う。

「奪われたりしなかった?」

「お腹の中の物を奪う気は無かったわね」

「何人か、ゾロゾロ付いて来てたけど」

「パンを焼くなら動かない方が良いかもね。けど他のパーティーがウロウロしだしたらココも見付かっちゃうかも」

「あの、素早く作ってココを離れるのはどうでしょう?」

「食事はどこでするつもり?」

 ジュンの意見にレイナは疑問を投げる。汁物を移動しながら食べるのは難しいよな。出来ればゆっくり食べたいが、そうも言ってられないか。

「コレが終わってから食べるのは如何でしょうか」

 マキの意見は、昼になったら食事をすると言う概念に凝り固まった者達に、一石を投じる物であった。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

処理中です...