87 / 385
アイツ、ヤベぇ
しおりを挟むエリザベス様のお叱りを受けたエヴィナはすっかりしおらしく…はなっていなかった。暗に村焼くぞって言われたの、気付いてないのかな?ブツクサ漏らしながら前衛に混ざり、マキは温存として殿に下がった。
「警戒しろよ。仕事だぞ?」
「っせーよ…ヒッ!」
「集中が散る。黙れや」
ロシェルが怖い声で囁いて、ナイフを首に当てる。後ろからは肩でも組んでいるように見えるだろう。
「ロシェル、干し肉お食べ。お前にもやるから集中しろ」
「あ…ああ…」
ロシェルは僕の背嚢をガサガサして干し肉を引っこ抜くと、さっきブフリムを斬ったナイフで細切りにして齧り付く。僕とエヴィナにも1つずつくれた。食べにくいが、齧り付く。おかげで前衛は静かになった。
「ユカタ、前来たトコだよ」
「運が良かったな」
「敵と殺れっから来たのに…」
「食う出す寝る時はいない方が良い。だろ?」
「う…」
僕はどれも経験あるけど、コイツはどうだろう。何となく察してくれたみたいで言葉を噤んだ。
「エリザベス様、ここで昼食にしたいと思います」
「良しなに。ジュンとマキ以外は周囲の警戒が済み次第お昼になさい」
干し肉齧ったロシェルの腹時計は曖昧だが、日の傾きで昼前に目的地に着けたのが予想出来る。ジュンとマキが食事番として崖下の広い場所で店を開く間、残りの面々は崖の上や前後を見回る。特に上には注意を払う。普段動かない物が落ちて来るかも知れないからだ。
「ユカタ、あの木は違うかしら?」
「遠いね。一応資料は見たけど、近付かなきゃ分かんないかな」
「アタシ登ってみる?」
「石が落ちたらジュン達が危ないよ。ご飯食べてからにしよ?」
「あーい」
谷間の先を見て来たエリザベス様と隊長と取り巻き達が戻り、パーティー揃って昼食を摂る。今回は一人一人に箱入りの弁当と蓋の付いたお椀のスープ。ソーサーと呼ばれる薄焼きパンが3枚入ったカゴが手渡された。何と兵隊達の食事も同じ物。それでクリスエス商会が来てたのか。
「お、男の人の量に合わせたって、言ってたから。ちょっと、多いかも」
「全然っんまっんまっ」
「温ったけぇ…外でこんなの食えるなんて…はぐっ」
濃いめの味がとても良い。ちぎったソーサーでお椀に残ったスープと弁当箱の肉汁を拭って食べる。
「はしたなくてはなくて?」
「汚れ物を出さないためです」
「村には村の仕来り、ね」
エリザベス様も倣うようで、小さくちぎったソーサーをお椀に滑らせ食べた。
「見て、指が汚れてしまったわ。我が家の食卓では出せませんわね」
取り巻きがアワアワしながらキレイなタオルでおてて拭いてた。ちなみにロシェルはぺろぺろするので事前に辞めてもらっている。借り物の食器だからね。口の悪いエヴィナは隠れて指ぺろぺろしてた。気持ちは分かる。気付かれないように指毎食べるのがコツなんだよ。
食事と休憩を終えて、ロシェルに崖登りしてもらう。荷物を下ろし、ロープを斜に掛けてヒョイヒョイと簡単そうに登って行くが、あんな事出来るのはアイツくらいだ。普通は少し上がる毎に鋲を打ち、ロープを掛けながら登るもんだぞ?20m近く登って崖にへばり付いた木に取り付くと、ナイフで枝を払って落っことす。
「下ろすよー」
落としてから言うな。離れてたので慌てて受けに行く。ガサツ者め。更に2ヶ所でガサツな事をして、木にロープで何かやってると思ったら、体にロープ巻いて走って来た!ロープと木に信頼置き過ぎだろ!ズルズル降りて来るなら分かるけど、地面見て走り降りて来るなんて、どう言う神経してんだアイツは。
「人ならざる動き、でしたね」
「なんて奴だ…」
「ま、真似出来ない、かな」
「見てるだけで怖くなるわね」「ですね」
みんな僕と似たような感想を抱いているようだ。
「隊長、やれて?」
「は。我等の装備では無理に御座います。崖を崩し兼ねません」
そりゃそうだろ。
20
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です
再投稿に当たり、加筆修正しています
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -
花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。
魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。
十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。
俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。
モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる