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安眠と、枕
しおりを挟むオドノヒューの町に着いたのは夜になってから。貴族様用の小門が開けられて中に入ると、すぐに宿屋へ直行する。前もって予約されていたようで、2部屋用意されていた。2部屋と言うと、そう言う事だよな。
「もう1部屋、1人用で空いてない?」
「申し訳ございません。ご予約頂いた部屋以外は満室となっております」
ダメ元で聞いて、ダメだった。割り当てられた大部屋で、端のベッドを確保する。もう1つの部屋はメイド用だそうな。
「ユカタさん、良いじゃねーか。よりどりみどりだぜ?」
「エヴィナ、如何わしくてよ?」「選らないし取らないもん」「じゃ~アタシ隣ぃ~」
「ユカタ君、私が守ってあげるねっ」
どう守るのさ…。ジュンは何だか生き生きしてるが、昼寝のし過ぎではないか?それもと馬車で酒でも飲んだのか?
飲酒は夕飯の時だけ、だそうだ。なので3人衆は薄めた酒をチビチビしながら食事を楽しむ。果実水で割ってるそうな。僕は果実水の果実水割りだ。
「オラァ弱ぇし安酒飲むと頭痛くなっからよ。コイツをキュッと1杯だけってな」
エヴィナもワルだったか。掌で隠せる程のミニコップの液体を一気に煽って肉に齧り付く。まあ予想は出来たよ。メイドも馭者もエール煽ってるし。
「アタシは果実水だよ。酔うと死ぬからねー」
死ぬまで飲まなきゃいけない傭兵の慣わしでもあると言うのか?取り敢えずいっぱいお食べ。
食後は入浴して部屋に戻る。今夜も僕が一番乗りで戻り、ベッドに吸い込まれる。久しぶりの1人の時間に、僕は油断していた。深く息を吐いた分、体がベッドに溶けて行く。座席に座ってるだけでも疲れは溜まっていたようだ。
目が覚めて、顔が柔らかい。真っ暗闇の中、凄く柔らかい感触が伝わって来るのが分かる。鼻から上を凄く柔らかい物で覆われ、頭と腰には柔らかい物が乗っている。良い匂いはするけどこんな事するのはロシェルだろう。油断していた僕は抱き着き返して体を密着させた。
「あん…、ユカタ、くぅん…」
ロシェルじゃ無かった。守るってこう言う事か。ジュンは自らを犠牲にして僕の安眠を守っていたのだ。彼女の意志を無駄には出来ない。僕は凄く柔らかい物に身を委ね深く息をした。
「起きろ馬鹿ユカタ馬鹿馬鹿ユカタ。ジュンもお尻振ってないで起きれし」
早起きのロシェルに気付かれたらしい。起きないとうるさいし、仕方ない。
「ジュン、起きて。柔らかかったよ」
「…んぁ、おはよ…ご……しゅぅ~……」
覚醒には至らなかったのか、ジュンは息を吐いて脱力する。腕と脚が外れ、ようやく脱出出来た。とても、柔らかかった。とても、柔らかかった。
「お楽しみだったね」
「正直、我慢出来ない」
「…そ、だね」
立ち上がる僕に、ロシェルは目を逸らし答える。
「トイレ行って来るよ」
「うん…」
部屋を出て、すぐ隣がメイドさん達の部屋。静かに歩くが見計らったようにドアが開く。
「あ」
「…まあ、ご立派」
「トイレ行くから」
「ご一緒しやす」
断る事も出来ず、僕とメイドはトイレへと向かった。
「昨日は少し、飲み過ぎやした」
「僕も。寝る前におしっこ行っとけば良かったよ」
「ご立派でした」
「止めてよもう」
「誰にも使われなかったの、でしょう?」
「せめて、卒業してから。だよね」
「ご立派ですぜ」
部屋に戻る途中、メイドと馭者が勢揃いして僕等を待っていた。僕にはおはようございますと言って見逃してくれたが、連れションしたメイドには話し合いがあるそうだ。怖や怖や。
「あら、ユカタ。おはよう。どこかお出掛け?」
「おはようございます。トイレ行ってただけだよ」
朝の挨拶なのにご機嫌ようではない。エリザベス様の頭はまだ夢の中でいらっしゃる。
「そう。メイド達はまだかしら」
「話し合いをすると言って部屋に戻ってたよ。少ししたら来るんじゃないかな」
メイドがいないと着替えられないと言う。
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