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なだめ、すかす
しおりを挟む「そろそろ休憩地に着きやす」
馭者からの言葉に仮眠中のロシェルが飛び起きた。
「ご飯!?ねえご飯!?」
「ん…、やっとかぁ。だいぶ掛かったな」
前のベッドで寝てたエヴィナも起きたようだ。ロシェルが飢える程時間が掛かったのは、貴族の馬車で渋滞が起きていたからである。
最初の休憩地で昼食を食べた後、先着していた貴族達が列を生して移動を始め、僕達が乗る馬車も追従したのだが、各馬車の間に車間を空けたり勾配での減速でどんどんペースが落ちて行き、馬にとっては楽な移動になってしまったのだ。
食事はエリザベス様の所から提供されるので、休憩地に着くまでは各自持って来たおやつで凌ぐしか無い。各自と言ってもその時おやつを持ってたのは僕だけ。2人は前の村の手前までで食べ切っちゃってたし、明日の朝には着くからと、僕の持って来た干し肉は2人に全部食べられてしまったのだ。
飢えたウォリスは野生に戻る。ロシェルがエヴィナに噛み付こうとするのをハグして抑え、メイドと僕が夜の番をする事にして、2人は離れて寝てもらい、今に至る。
「ユカタァ~、ひもじいよぉ~」
「うんうん、お腹空いたね。僕もお腹空いたよ。ハグしてあげるからこっちさ来」
デカいウォリスに抱き着かれ、腕と脚でガッチリホールドされてベッドへ横倒しにされる。皮の胸当て越しにグルグル聞こえてるのは喉鳴りではなく腹の音だろう。ぽんぽんと腰を叩いて落ち着かせる。
「ユカタァ、お尻触んないでよぉ」
「腰だろ?」
「やや尻寄りじゃないですかい?」「腰と言やぁ腰ですが」
メイドでも意見が分かれる場所だったようだ。
「じゃあロシェル、お尻触って良い?」
「あ…、うん…」
ぽんぽんと落ち着かせながら到着を待った。
「後でオレにもしてくれよな?揉んでも良いぜ?」
「「お嬢…」」
軽口を叩くエヴィナも飢えているのだ。満腹になるまでは優しくしてやろうと思った。
夕食の時間をだいぶ過ぎて、ようやく休憩地。メイド達が忙しなく食事の支度をする中、僕等はエリザベス様の馬車に乗り込み食事の時を待つ。9人乗りの馬車に7人乗って、真ん中にテーブルを置くと結構狭い。後部座席に貴族の2人、右側に3人衆。出入りのある左側は1つ外され僕とロシェルが着き、8席埋まって満員だ。
「お嬢様、お待ち致しました」
「よしなに。貴女達も順次済ませなさい」「はっ」
スープのお椀に皿に乗せられたお肉が並び、パンはカゴのままドンと置かれる。テーブルに余裕が無いからだ。
「略式ですが頂きましょう。ブへの感謝を」
「「「ブへの感謝を」」」
宗教が異なる者が集まって食事をする場合、それぞれが各々の文言を唱えるか、2つを混ぜて唱えるかが主であり、絶対神ブへの文言をする事はあまり無い。しかも一言で終わらせる辺り、エリザベス様もお腹空いてたんだろうな。静かに、黙々と食事をし、食器やテーブルを片付けるとそのままの乗員で休憩地を離れた。メイドさん達はエヴィナの馬車に乗ったようだ。
「ベッドにする時間も惜しかったの?」
「休憩地に居並ぶ馬車を見て?」
会話のネタに上げてみたが、質問を返された。確かに、外で食べるスペースを取れないくらいに馬車で溢れ返ってたんだよな。
「暗かったけど、良い馬だと思った」
「貴方は馬で見たのね」
「ユカタさん、そりゃあ貴族の馬だ。下手なモンは使えねぇよ」
「貴族様…ああ、すぐに出るから出口を空けなきゃ行けなかったのか」
「ええ。馭者が乗っておりましたでしょう?」
暗くて注視してなかったけど、何となく乗ってた気もする。エリザベス様は魔法で分かるんだよな。彼女曰く、今までノロノロだった分、前が居ない内に少しでも距離を稼ぎたいんだって。で、十分の距離を取ったら草薮に入って乗り換えしたりするのだそうな。それまではトイレも我慢だな。
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