【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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貴族の、浴室

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「お食事の前にご入浴をお願いします」

 貴族街にある家にはどこも風呂があるのか?メイドさんの下宿にも風呂があるそうで、家主を置いてなぜか僕が1番に入る事になった。

「次が支えておりますので、お早く」

「ゆっくりしてらっしゃいよ」

「その代わり途中で乱入すっかんな」

「ロシェルに言うからな?」

 ニヤニヤするエヴィナに吐き捨てて、メイドさんに連れられて浴室へ向かう。さっさと出てって欲しいのに、貴族家らしく脱衣場で待っている。またかと思い浴室の中を確認すると、引戸を開けて湧き出す湯気に、中の様子が確認出来ない程だった。

「何、これ?凄い湯気なんだけど」

「お手伝いなさらないと入れませんね」

 ニコリとする顔が白々しい。諦めて、せめて見るなと一言置いて服を脱ぎ、タオルを巻いて浴室に入った。

 天井に魔法の灯りがあるのは分かるが、前が真っ白で足が竦む。すり足で進み、つま先が触れた壁は段差のようだ。この先にお湯があるのか?しゃがみ込んで手を伸ばすが、お湯も水も張ってない。どこでお湯作ってんだろ?

「あまり行きますと転びますよ」

「大丈夫、段差まで着いたよ」

「では、お気を付けて段を降りて下さいませ」

 段差に座ってその先に足を下ろす。床があってホッとする。無い訳は無いのだが。段差は1段。マイケル様の所での経験が、貴族家によくある浅い浴槽だと気付かせてくれる。

「入ったよー」

「お立ちになって、鼻と耳を閉じてください」

 なるほど、と思った。多分洗浄の魔法を掛けてくれるのだろう。長々と擦ってられないからな。

「……水の……集え、トイコス・ネロー」

 メイドさんが呟くと、背中に熱量を感じる。洗浄の魔法ではなく水の壁だったようだ。僕が以前この家のメイドさんに教えてあげた技を活用してるっぽい。

「おお、ちゃんとお湯だ」

「試行を重ねました」

 この浴槽に張った程度のお湯ではちょっと温いそうで、チンチンに沸かした鍋3つでちょうど良い湯加減になるのだそうだ。壁の高さは僕の背丈に合わせてくれたのだろう、肩くらいの高さで立って入るのにちょうど良い。壁の中に入って腰を落とし、頭の先から湯に浸かる。髪をワシャワシャして腰を上げると、正面にメイドさんが居た。

「ご立派になられて」

 下を向いて言うな。追い出して体を擦った。

「はいはいよしよし、怖かったわね」

「貴族なんてどこもこんなだぜ?慣れとけ慣れとけ」

 湯から上がり、客間に戻ってセーナに泣き付くとエヴィナは慣れろなんて言う。僕は平民、何度だって慣れる事は無い。慣れてしまったら1人で風呂に入れなくなってしまうだろう。

「昔あンたが言ってたお湯の壁、見て来るわ。エヴィナ様も一緒に入りましょ」

「だな、時間が勿体ねぇや」

 セーナは貴族式の入浴に抵抗無いのか?女同士だから気にならない?そうですか。そうですね。僕は1人、客間に残された。

「お嬢様がお戻りになられました」

 2人が湯に行きしばらくして、メイドさんがエリザベス様を連れて来た。随分時間が経ってたけど、着替えに行ってたんだったな。

「お帰、り…」

「戻りましたわ。2人は湯浴みかしら」

「うん。…普段からその格好なの?」

「荷物から出すのに時間が掛かりましたの。ダメかしら」

「凄く、キレイです」

 昼間のドレスを華麗と言うなら今の部屋着?は綺麗だと思う。白くて金色のツヤを放つ薄布のシャツをまとい、お腹には刺繍たっぷりのコルセットが薄布をまとめている。スカートも上と同じ薄布で、歩く脚にまとわりついていた。平民の、それも男に見せる格好じゃないんじゃないか?

「お気に召したようね。…あら、御髪が濡れていてよ?誰か、タオルを」「畏まりました」

 メイドさんが急ぎ持って来たタオルで僕の頭を拭こうとするのを止めたエリザベス様は、ソファーの後ろに回って後ろから髪を拭いてくれた。







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