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寝不足の、朝
しおりを挟む魔獣帯を陸路で行くには戦力が足りな過ぎる。かと言って空路を使う程の財力は心許ない。セーナは店もあるしおばあちゃんも居るので自身が行きたいと言っても僕は賛成出来ない。話は平行線のまま昼食を終え、馬車に乗りアッゼニへと出発した。
「あンた心配し過ぎよ。私の事好き過ぎよね」
心配するのは当たり前だしおばあちゃんが心配するだろ。
「ユカタの良い所でありましょう。私やエヴィナも貴族街に長居は出来ぬ故、アッゼニへ着く前に決めておきたいかと。そう言えばコレ、ユカタが私にとくれた物なの。愛されてる証ね」
エリザベス様は頭のキラキラをキラキラさせて笑顔をくれる。夜なのに笑顔が眩しい。
「一先ず宿屋暮らし、だな。金もケチんなきゃなんねーし、また一緒に寝てやんよ。裸でな」
エヴィナの煽りに2人の視線が痛い。なぜ僕を見るのか。
「エヴィナの郷に行くんなら、実力を上げたり旅費を稼いだりしないとね」
「そんな事より、裸で寝て、ナニしたのよ」
蒸し返すセーナ。エリザベス様まで痛い視線を飛ばしているが、貴女はあの時注意してくれたでしょうが。
「ロシェルもあの後部屋に行ったよな?胸くらい吸ったんだろ?」
「吸ってない!」
「キスは?」
「してない!」
「殿方はそうなさるモノと聞いてましてよ?」
「パーティーのいざこざの原因だもん。我慢してたよっ」
「だよな。ナニ触ったら殺すって言われたぜ」
「ナニ触ったのよ」「破廉恥ですわ」
蒸し返すな馬鹿。おかげで権力と魔力による尋問を受け、寝る時間が短くなってしまった。
「悪かったな。揉んで良いぜ?」「寝ろよっ」
「じゃあさ、ムルザバまで行っちゃおうよ」
翌日の朝食時に出た1つの案に、皆思考の沼にハマる。言った本人は気に止めぬ言葉だったのだろう、肉挟み蒸しパンをモリモリ。
「私の事、気にしたの?」
「んー。どうせダンジョン行かないし?ユカタが葉っぱ摘んだ方がお金になるじゃん?」
一応考えてはいたようだ。それにダンジョンはまだ深くは潜れない。それに先輩や同僚と勝ち合っていてはそれだけ儲けも減ってしまう。外で狩りや採集した方が僕達的には儲かるのだ。
「採れた素材は私のカバンに入れておけば1年は平気だし、お爺様の所にいてもお父さん来ちゃうし。良いかも」
「良いの買ったのね」「いえ、お爺様から…」
ジュンの背嚢って1年も持つのか。
「オレ達も宿暮らしになるし、旅するのも良いかもな」
「ええ。お金を稼がねばならないわ」
「ムルザバへ遠征しながら路銀を稼ぎ、実力を高めて行きましょう」
1人が乗ると、皆が乗る。女性の同調が発動し、全会一致で可決された。酒の場でなかったのが大きいだろう。僕に発言権は無い。否定意見も無いけどさ。
アッゼニに着いたのは明けて昼。貴族2人は馬車で貴族街、僕達平民一行はクリスエス商会に徒歩で向かう。
「お嬢様、しばらく。しばらく」
ジュンを見付けた店員が、傍に駆け付け体で制す。
「どう…、もしかしてお父さん?」
「はい。時間を空けるか、裏からどうぞ」
「どーする?」「刺草握らず、よ」「先に宿へ行きましょう」
どうやらジュンの父親が来ているらしく、会うと連れ戻されかねないジュンはマキの提案に一番乗りで、逃げるように宿屋のある方に駆けてった。
「諦めさせたいんだろうなぁ」
「ええ。可愛い一人娘だもの」
「あンた、貰っちゃいなさいよ」
「セーナ嫉妬しない?」
「アタシがする!」
「とにかく、私達も行きましょう」
店員さんに、お父さんが帰ったら伝えてもらうようお願いしてジュンを追った。行き着いた先は何度か泊まった高い宿。4人はここでタダ飯食わせてもらう予定だったそうな。良いなぁ。
「へー。こんな部屋があるのか」
「元は倉庫なの。ユカタ君と一緒だね」
宿に着くとフロントにジュンが待っていて、揃って皆が泊まる予定の部屋に向かう。客が泊まる部屋とは違って装飾は無いが、元倉庫だけあって広くて静かな部屋だった。
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