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殺害、予告
しおりを挟むクリスエス商会からの使いが来たのは夕方になってから。お父さんはだいぶ粘ったみたいだが、エリザベス様の馬車が貴族街に直行した報告を聞いて諦めて宿に帰ったと言う。暗くなり、商人と護衛だけで外に出るのは少し危ない時間となって、やっと迎えに来られたそうだ。
「正面は閉めておりますので、こちらからどうぞ」
裏口に回されて、職員専用通路を使い会頭の居る3階へ。無地の壁に貼り紙とか貼ってあるけどあまり見ない方が良いだろうな。
「おお、帰ったかジュン」
珍しく大声も上げす飛び込んでも来ないお爺様。普段からこのくらいならジュンももっと懐いただろうに。
「ただいま戻りました。所で、お父さんは?」
「うむ。宿に入ったのを確認しておる。そちらのお嬢さんは、確か」
「はい。セーナ様です。子供の頃、コレを作ってくれた魔道砲のセーナ様」
「ほう、名前は常々」
「今は魔道具とポーションの店のセーナよ」
「皆も無事で何より。小僧も元気そうだの」
「お腹空いた~」
「みんな夕飯食べてないの。お爺様…」
「皆に何か食い物を」「承知しました」
社員食堂から色々持って来てくれて、それを摘みながら話をする。そこで出た言葉に、会頭は眉をひそめた。
「旅に、出るのか」
「うん。取り敢えずはムルザバまで。冒険者として力を付けないとね」
魔獣帯を越える事が目的だと言う事は言わず、話を進める女性陣。口では女性に敵わないのか、会頭も唸って聞いていた。
「して、その後は?」
「東西を行来しながら私の店を手伝ってもらうわ」
東西と言うと西の国境沿いも含まれてるのかな?まあ後で聞くか。
「そうなると、セーナ殿の店の専属冒険者か。下手にダンジョンに篭もるよりは…マシ、か」
「勝ち合うと危ないもんねー」
「冒険者なぞ、どこに居ても危険じゃ」
「そんなの、街に居たって一緒だよ。ここだって、1人で夜中に歩けないじゃん?武器持って戦えるだけマシでしょ?」
ロシェルに看破されてしまったお爺様は唸るしかない。
「エリザベス様達と合流するのが明後日なので、それまでは準備と体調を整える予定です」
「うむ…。店から好きな物を持って行け」「じゃあ肉っ」「生鮮も乾物も置いとらんわっ」
「会頭様。私達はもう冒険者なのだから、入用の物は買わせてもらうわ」
「だね。お爺様に甘えてばかりじゃ夫に見限られちゃうから。ちゃんと大人として振る舞うね」
「夫…。まさか小僧!?」
迂闊なのか、わざとなのか。なぜ火に油を注ぐような事を言うのかな。お爺様は震えながら頭に血を昇らせて行く。このままではまた首を絞められかねん。
「まだ誰とも婚姻の儀式してないよっ」
「まだじゃと!?」
言葉を間違えたか?僕の馬鹿っ。お爺様はわなわなしながら立ち上がり、殺気の籠った視線をくれる。
「そりゃあいつかはしたいけどっ!」
「アタシが先っ!」
僕に抱き着くロシェルは盾にしてやるっ。
「ジュン!2番目に甘んじるつもりかっ!?」
「ひっ!曾孫見せて上げないからっ!!」
「小僧っ!仕込んだのか!?仕込んだのかあっ!!」「ユカタ、いつの間に!?」「あンたアタシと言う者がーーっ」
「仕込んでなーいー!帰りはずっとエリザベス様の馬車だったろうがーっ!」
すっかり賑やかな食事となってしまった。次にジュンと会った時、お腹が膨らんでたら、僕は殺されるらしい。暗殺者雇うって言われた。
その夜、僕とセーナはちゃんとお金を払って高い宿に泊まり、翌日は皆で買い物。さらに翌日、ギルドに向かうと2台の馬車が横付けされて、冒険者達の視線を集めていた。
「ご機嫌よう。準備は整えて?」「よっ」
本来徒歩で向かう予定だったが、各家が馬車と馭者さんをムルザバまで貸してくれる事になったとエヴィナは言う。護衛やメイドさんは付かないそうで、足並みはゆっくりだし不寝番もしなきゃいけない。だがそれが普通だし、馭者付きの馬車を借りられただけ儲けものなのだ。
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